結末
空港に着陸してからロシア軍の車両に護衛されながらロシア軍のHQに向かうコンボイの隊列の中でアランは何も無い外の景色を眺めていた
厳戒令が発令されているせいですれ違う民間車などはおらず、サイドミラーをのぞけば一個中隊、12機のAW分の物資、人員を積んだトラックやAW二機を搭載した輸送車両、護衛の車両が長い列をなして、広く長い道路を等間隔を保ったまま歩みを進めていた
車載ラジオは射程圏内と思われる国の焦りを淡々と伝え、無意味とも言える考察や混乱を広げかねない情報を流し続けていた
そんな中、ソフィアはやきもきした様子を見せる訳でもなく静かに寝息を立てていた
何も無い道を進む事1時間強、検問を超えてサイロ攻略に挑むロシア軍の司令部へと入城する
前線基地の中では次の攻勢に向けて、人員が慌ただしく動いていた
そんな様子を尻目に司令部があるトラックの中に入ると中の目線が一挙に集中した
頭髪が薄くなった初老の将軍が席を立ちこちらに歩み寄ってくると、隣に立った青年士官に何か話していた
しばらくすると青年士官が通訳を始めた
「初めましてAWI社の皆さん、こちらがマーロフ中将、私が通訳を担当するユーリ中尉です、早速現在の状況と作戦の説明したいと思います」
ユーリが会釈をすると将軍は踵を返しスクリーンの前に立ち、AWI社の社員も固まって並べられたパイプ椅子に座ると、近くにユーリも座った
照明が落ち、プロジェクターが起動しサイロ周辺の地図が表示された
将軍が話し始めると、同時並行してユーリが通訳をしていった
「現在、我がロシア軍はテロリストが立てこもるサイロから60kmの位置に司令部を置いている
現存の戦力は戦車一個小隊4両、歩兵一個中隊、榴弾砲6門一個中隊、対地攻撃ヘリ6機、AW5機、それにAWI社のAWが12機、これが次の攻撃に投入される戦力の内訳だ、次の攻撃が最後のチャンスだろう、なおAWI社への命令伝達にはユーリ中尉があたる予定だ、以上AWI社の諸君は次の命令があるまで待機されたし」
再び照明が付けられると全員が起立、敬礼をしトラックから去った
AWI社の面々は各々の思うような方法で時間を潰し、自分はトラックの中でラジオで音楽をかけながら仮眠を取った
それからそう長くない時間に召集令が入った
作戦説明が行われる大型のテントに入っていくとプロジェクタの光が煌々と光っていた
説明が始まるとともに同時にユーリ中尉が翻訳に始めた
「我々は今サイロから60kmの位置にいるのはここにいる諸も周知の事だろう
だが数時間前にテロリスト側の観測気球とおぼしき物を数機撃墜した、これにより敵の我々の現状把握は非常に困難になっていると考えられる
そこで現在工兵隊が塞がれた外部連絡用の通路の危険物除去を行っているこの入り口付近で歩兵部隊を装甲車から降車、侵入させ、AW隊と戦車、戦闘ヘリは再び陽動をかけてもらいたい
戦闘ヘリが敵攻撃ヘリを無力化した後、AW隊、戦車隊、歩兵降車後の装甲車の順番で突入する
今回は敵の対空迎撃システムの大半を無力化できているため、戦闘ヘリからの積極的な対地支援が期待できる、敵も無傷ではない、それでは諸君の健闘に期待する」
作戦説明が終わると兵科別の作戦説明、顔合わせを終え、ついにサイロへと行軍が始まった
上空をヘリが編隊を組み、地上には輸送車や装甲車、戦車が隊列を組み、サイロへと足を進めた
「こちらCP、ユーリ中尉です、聞こえますか?
作戦の指揮伝達は私が行います、テロリスト達の予告した時間まで残り10時間、再度作戦を実行する時間の余裕はありません、今回の侵攻で決着をつけられるよう、期待しています
まあ、今回の主力は歩兵の強襲にあります、かといって気を抜かないようにしてください、それでは幸運を」
それで通信は切れ、コックピットには歩兵が装甲車から降車し、次々と通路の入り口へと突入していく様子と無線から聞こえる談笑の声、MPから流れる音楽の音が占めていた
ふと無線のタブを見ればソフィアが参加していなかった
「ソフィアがいないな」
「そうなんだよ、さっきからコールしてるんだけどね」
とカレンが答えた
それを聞くが早いか、急いで秘匿状態でソフィアに無線を入れると
「何か用か?」
いつも通りの素っ気ない締まった声が聞こえた
「いや、無線に参加してなかったから一応確認をと思ってね、本当に大丈夫なのか?」
「戦えるかと聞いているのか?それならば問題はない、いつも通りに戦える」
「ああ、そうか、なら大丈夫だな」
そう言って回線を切ると、無線にソフィアが参加した表示がでてきた、だか彼女はその後も一言もしゃべらなかった
そしてとうとう、サイロを見下ろす尾根へとついてしまった
サイロから1,2kmの所に展開した敵のAW隊が突っ立っているのがよく見えた
「砲兵隊が射撃を開始しました、一応ですが注意してださい」
ユーリ中尉からの警告の数秒後、派手な土煙を立てて次々と砲弾が着弾した
「どうせダミーでしょうが・・・」と呟くと
「潰さなくても後々邪魔なだけぜ、自爆されても困るしな」とアントニオが返してきた
山の稜線に隠れるかたちで待機している味方攻撃ヘリとトンネルから猛スピードで飛び出してくる戦車、装甲車を確認すると、姿勢を低く保っていたAW隊が一斉に山の斜面を滑り降りていく
偽装を解いて急上昇する無人攻撃ヘリとそれを捉えてAAM(空対空ミサイル)を発射する味方攻撃ヘリ、そしてそれを落とそうとするサイロの対空火器、上空にはいくつもの火が出ていた
一方の地上も対空機関砲と敵AW7機の弾幕、そして味方からの応酬で溢れていた
対空機関砲の支援であっという間に距離を詰めてくる、それと合わせるかのように隊列を下げては押し返す、そして下がり損ねた機体が集中砲火を食らい、あっという間に擱座していく
「クッソ、あいつら強い!」 「ロシアの奴が被弾、後退援護しろ!」「戦車隊の
ミサイル援護くるぞ、射線にでるなよ」
そして無線は瞬く間に言葉の濁流となった、視界は閃光と土煙、そして過激な回避行動で揺れて続けている
そしてその無線とは別に、ユーリ中尉の戦況報告がたびたび聞こえていた
「ヘリ隊が敵攻撃ヘリを無力化、対地援護へと回ります、戦車隊は対空火器を潰していきます」
「敵AW2機を無力化、こちらの損害はAW3機です、このまま押し切ってください」
「攻撃ヘリ部隊弾薬、燃料補給のため一時帰投、予備機がフォローに入ります」
そんな報告と指示、フォローの声の嵐がいつまで続いただろうか、ついに待ちに待った報告が届いた
「歩兵中隊がサイロ内部への侵入に成功、現在交戦中」
ついに来た、瞬く間に無線が歓喜の声で溢れる、そして心なしか押している、そんな感覚が心を占めていく
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カテリーナは焦っていた、次々と潰されていく施設、仲間の機体、そして敵の侵入
サイロ内の味方からの無線は銃声と爆発音、物が壊れる音が響いていた
目の前の敵もだんだんと疲労が出てきている、それなのに戦意は落ちない
苦戦している味方に何も出来ない焦りと目の前の敵を早く殲滅しなければいけない焦燥感、唇をかんでもそれらは消えてくれなかった
「敵のペースに押されるな、飲み込まれるぞ!」
半分言い聞かせるように仲間へと警告した
残弾が無くなればこちらの勝機はゼロとなる、そうなる前に仕掛けなければ
そう判断すれば実行を躊躇う事は無かった、
「全機前方にスモークを展開後にグレネードで敵の牽制、突撃!管制室、対空設備が生きているなら上空のヘリを牽制しろ!」
そう叫ぶと彼女は鋭角のジャンプを繰り返しながら肉薄していった
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膠着しつつあった状況が打って変わった
視界を奪ったかと思うと一気に接近してきた、上空のヘリも動きを動きを牽制され、被弾する機体もあった
結果として超至近距離での格闘戦へともつれ込み、状況は一気に不利へと傾いた
次々と擱座していく僚機、攻撃ヘリも頭を押さえられ援護は無かった
「歩兵中隊が管制室に立てこもる敵と交戦中、まもなく押さえられるそうです」
ユーリ中尉からの報告が唯一の救いだった
「全機一度後退しろ、相手の距離で戦うな!」
「さっきからやってるさ!ぴったり張り付いてくるんだ」
味方が一人、また一人擱座していく中、ソフィアが敵を一機落としていた
最初は7機いた敵も今は4機、味方も戦闘可能な機体が半分を切っていた
手持ちの弾薬も尽きかけている中でどれだけの機体を行動不能にできるか
そんな事を考えていた中、敵が不自然にサイロ付近に後退を始めた
引いた撃ち合いなら数が少ない向こうが不利になるにも関わらずだ
それを示すように後退途中の敵機が2機、30mm弾の餌食となって倒れた
しかし追撃を仕掛けようとした味方が3機、稼働不能に見せかけていた対空機関砲の餌食となった
しかしその対空機関砲さえ戦車に瞬く間に潰されていた
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敵AWも残り5機、全て落とせるか?
そんな疑問を抱きながらカテリーナは無線で仲間と必死に連絡をとり続けていた
「こちら狼、ヤマイヌの状況は?」
「こちらヤマイヌ、管制室前通路で交戦中、ミサイルも4基中2基が押さえられました、ここも長くは持ちそうにありません」
「諦めるな、こっちも外の戦力をどうにかしてみせる」
とは言った物のAW単体の戦力でさえ5:2、戦車、攻撃ヘリも入れればそれ以上だろう、不利以外の何物でも無いこの状況を打開するには戦力も体力も少なすぎた
核を起爆させれば道連れには出来る、だが所詮はそこまでだ
時間が経てば経つ程に不利に傾いていく状況にいら立ちを感じながら打開策を必死に思案した
そんな中、閉じていた無線が開き、整備班からの報告がはいった
「最後の一機の整備が完了した、支援型の奴だ今なら出せる、大砲も二機分の整備が完了してる」
「了解した、一度格納庫内に後退する、作業が終わり次第整備班は脱出準備にかかれ」
指示を飛ばすと僚機はバンカーの中に引っ込み、入れ替わりに支援型がバンカー内から砲撃を始めた
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敵がバンカー内に引っ込んだと思った次の瞬間には戦車が一両戦闘不能になっていた
最後の戦車も後退しようとした瞬間に砲身が大破し、戦闘不能となった
「クソ!今更火力支援機かよ」
「動け動け!狙わせるな、当たったら一発で終わりだぞ」
ヘリも動きを止めた瞬間に30mmを食らい、ヨタヨタと撤退していった
「突入部隊の方はどうなってるんです?」
「管制室前で交戦中、敵の抵抗が強固な為攻めあぐねています
ですがあと少しで突破できるそうです」
いつの間にか火線も二つに増え、さらにバンカーへ近づく事は困難になっていた
「AW隊は榴弾砲の着弾予想地点から一度退避してください」
蜘蛛の子を散らすように後退すると、一瞬後バンカー前の地面が派手は土煙を上げほじくり返された
その土煙に隠れて攻撃態勢を取った攻撃ヘリが対戦車ミサイルを発射し、ミサイルはバンカーの中へと吸い込まれ、火線が一つ消えた
そしてその直後にユーリ中尉からの報告が入った
「歩兵中隊からの報告です、管制室の敵を排除、これより突入するそうです」
これでやっと終わる、脱力しそうな体に再び力を入れ、目の前の敵に集中する
バンカーの中、火線は今のところは止んでいた
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「こちらヤマイヌ、管制室は持ちそうにはありません脱出は不可能、残念です」
「そうか・・・すまない」
それ以上の言葉が継げなかった、最後になる通信なのにも関わらず言うべき言葉はあるはずなのにそれすら思いつかなかった
キーボードと端末を操作しているであろう音が沈黙を痛々しい程に強調していた
「残り2基の核弾頭のコントロールを隊長の機体に移しました、あとは頼みました」
最後まで感情の乱れなく彼は言った、それが普通なのか異常なのかすら判断がつかない
「分かった、私が何としてでもやり遂げる」
無線からは銃声と爆発音が聞こえ、それ以上の会話は無くなった
彼女は管制室との無線を切ると、格納庫へと繋いだ
「残りの人員で脱出できる者から脱出しろ、徹底抗戦は避けろ」
それの伝達を終わらせると彼女は管制室から送られた管制権限のプロテクトを解除し、トリガーを押し込んだ
画面端のウィンドウでは秒読みが始まっていた
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「管制室の制圧が終わったそうです、これで一段落です」
敵も残り2機となり、事の終わりが見えてきたと思った矢先だった
上空支援のヘリが慌ただしく後退し、山の稜線影へと隠れた
何が起こっているのかユーリ中尉に問いただそうと無線を開こうと思った瞬間に相手からのが一瞬早かった
「ミサイルサイロのハッチが開いています、そこにいては発射時の衝撃波に巻き込まれます!AW、戦車隊の全機は早急に退避を」
「待て、管制室は制圧したんじゃ無かったのか」
「何か小細工をしていたみたいです、どちらにせよ早急に退避を!」
全速力で後退を始めるとソフィアの機体がバンカーに突撃しているのが見えた
「ソフィア!何をしてる」
アントニオが叫んだがソフィアは答えなかった
「クソ!仕方ないか」
機体を急制動で止めると、無線を切り全速力でソフィアの後を追った
砲弾で抉られた平坦であった地面をローラーで滑りながら一瞬だけ、後ろを確認した
本隊はぐんぐん遠ざかり、バンカーまでの距離は逆に縮まっていく
バンカーの入り口では相変わらず二機が居座り、こちらを待ち構えていた
砲が再び砲撃を始め、地面が掘り返される
同時に狼のエンブレムが地面を蹴り、先行していたソフィアの機体に襲いかかる
機動力はローラーの分ソフィアが勝っていた、しかし機体の性能差は覆し難かった
さらに砲の射線を躱しながらの戦闘で余計不利になっていた
幸いに砲を持った敵機はバンカー内で止まっていた、30mm狙いを定め、トリガーを絞る
弾は砲の機関部に吸い込まれると、砲の弾薬の誘爆を引き起こし、派手な爆発を起こして沈黙した
サイロを見上げれば、サイロから白煙があがっているのが見えた
「間に合うかな」
そう呟いて格闘戦を繰り広げている二機に全速力で向かった
五分五分の戦いを繰り広げていた二機の間に割って入ると両方の機体を掴み、バンカーの中に転げ落ちた
転倒の衝撃がコックピットを揺らし、左腕が損傷で稼働不能になった
次の瞬間、さらに強い振動と光が襲ってきた
コールドランチ方式のICBMは一度サイロの外側に持ち上げられると燃料に点火、あたりを目映い光で照らしながら大気を突き破り、轟音を上げて空へと上がっていた
入り込んだバンカーの内側で再び、超至近距離での戦闘に突入する
2対1、圧倒的不利な状況で敵は下がりながらも動きを止めなかった
30mmもことごとく残弾を使い果たし、ただのデットウェイトと化したそれを投棄し、シースからナイフを抜くと敵に切り掛かった
それなりの広さがあったバンカーも数度切り合う内にシャッターにぶつかった
一瞬だけ、敵の動きが止まる、「逃がすか!」タックルで機体ごとシャッターをぶち破る
照明すら無かったバンカー内と違い、照明で明るく照らされた格納庫らしい場所に飛び出た
人影も見当たらず、人が出入りできるであろう出入り口は完全に閉じられていた
ソフィアとやつが話し合いができるようにするためにもパイロットを傷つけずに機体を無力化する必要がある
ふと、格納庫の端に放棄された30mmがあるのが目に入った
機体の体勢を崩し、横に転がると起き上がりの動作と同時に30mmをつかみ取る
敵も跳躍で距離を詰め、左胸部ユニットにナイフが食い込み、主機が一つ機能を停止するが幸いにも主機裏にある燃料タンクまでは届いていなかった
同時に敵機の膝に銃口を密着させるとトリガーを引いた
吐き出された30mmが脆弱な関節を食い破り、敵機の左膝より下を切り離した
敵機は擱座したが、左腕に内蔵した12,7mm機関銃をこちらに向けて発射してきた
弾丸は装甲で乾いた音をたてて弾き返され、一発も貫通する事無く弾切れとなった
ソフィアも擱座した敵機のそばに寄ると機体から降りた
同時に敵機の背中のハッチも開き、中からソフィアより短い黒髪のパイロットが出てきた、その手には光が鈍く反射した拳銃(strizh)が握られていた
すかさずソフィアも腰のホルスターに手を伸ばそうとするが、それも威嚇射撃で牽制された
「何故今更になって戻ってきた、裏切り者、ここはお前が帰ってくる場所じゃない」
その声は怒りも憎しみも超えてただ冷たかった
「違う!私は裏切ってなんかいない」
「では何故私たちの前から姿を消した!何故その直後人民解放軍の追撃があった!お前の手引きじゃないのか?」
「違う!事前に情報が漏れてた、だから合流できなかった」
「言い訳は聞き飽きた!裏切り者が」
彼女は拳銃をソフィアに向け、狙いを定める
「せめてもの情けだ、一撃で殺してやる」
咄嗟に右腕を二人の間に割り込ませる、が装甲で弾を弾かれるは聞こえなかった
彼女の方を見やると、足下には弾痕と、薬莢が転がり落ちていた
彼女の顔は下を向いており、どんな表情を浮かべて何を言ってるかは分からなかった
一瞬の後、彼女は拳銃の安全装置をかけるとホルスターに納め、そしてソフィアは何も言う事無く彼女に駆け寄った
一件落着と言うには少し早い、まだやるべき事が残っていた
背部ハッチを開放して外に転がり出る、核の管制権限は未だに彼女が駆っていた機体が持っている
機体の凹凸に手をかけてよじ上り、彼女の機体のコックピット内、ディスプレイの表示を眺めやった
キリル文字による表示は完全には理解ができなかった、だがICBMは大気圏内での加速を終えたそれはあと十数秒で大気圏を抜け、自由落下で目標への突撃を敢行しようとしていた、それまではあと数分の余裕も無い
少しでも遅れれば何もかも無駄になる、コックピットに滑り込むとすぐさま自爆信号を発信する
一瞬後に再突入体が不自然な形で大気圏に突入した、ブースターの最終段が自爆した事で適切な再突入角度が得られず大気の熱で全ての核弾頭が燃え尽きた
深くため息をつくとコックピットから這い出た、顔を上げるとソフィアと彼女がそこにいた
「大丈夫だ、社長以外にはこの事は伝えない」
言外の意味を察するようにソフィアは脱出路であろう扉に急ぐ、そして彼女はまっすぐこちらを見据えていた
「お前とはいずれ決着をつける、それだけだ」
それだけ言うと彼女もソフィアの後を追って扉の方へ向かった
それを見届けると自分も機体へと踵を返した
それ以降の後始末が予想以上の難関だった
機体に残されたログの消去、二人の機体の破壊、嘘の報告
それ以上に大変だったのが仲間からの質問攻めをかいくぐる事であった、結局回収されたソフィア機のレコーダーがコックピットごと破壊されていた上、自分の機体のレコーダーも被弾のショックで破損していたのだから確かめようが無いと言う事で決着がついた
そして社長への事後報告、彼女はあらましを聞き終えると少し残念そうな顔をして「そうか・・・ご苦労だった」とだけ言って話は終わった
数ヶ月後、中東の方で2機ペアのAWが活躍している、そういう噂が耳に入った
きっと彼女達に違いない、そう確信した
彼女達との決着を付ける機会もそう遠くないであろう、そう信じて格納庫を後にした
あっと言う間の邂逅だったが、それでも確かに彼女は存在していたのだから・・・
やっとこさ完結しました
もっと書きたい所もあったけど構成力の無さで叶わずですが、次話書く書く詐欺ともこれでおさらばです
完読ありがとうございました