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そして動き出す

普段ならば主不在の社長室も偶然なのか故意なのか、用事がある時には大体デスクの向こうには主が座していた

彼女はPCの画面から目線をこちらへと上げると

「言いたい事は大体想像がつく、椅子に座ったらどうだ」

と客人用のソファーを指した

「さて、君はどのくらいまで知っている?」

「まだ何も知らない、知らされてすらいない」

彼女は呆れたように笑うと

「君の悪い癖だ、まあいい今はそんな事を話してる場合では無かったな」

口元の笑みを消し、真顔に戻った彼女は

「まず彼女、ソフィアの経歴だが、こちらでも調べられているのは一部だけだそれをまず念頭に置いて欲しい」

黙ってうなずくとそれに満足したのか彼女は話し始めた

「まず彼女の経歴から行こう

 ソフィア・エヴァンズ、年齢は23歳この情報も嘘か本当かわからないな

 モスクワに本社がある傭兵企業の社員、表向きにはそうなっていた

 実質はロシア陸軍が保有する特殊部隊、依頼という形で表向き本国が介入できない場所への武力行使を行うための存在だな

 部隊自体はソビエト崩壊直前に組織されたらしく崩壊後に外貨獲得やパイプラインの利権確保の為に活動してたそうだよ

 まあ、政府としてはある程度隠密性があって使いやすい駒として重宝したんだろうね

 彼女達の転機は3年前のモガディシオの件だな

 あれで彼女達は本国での立場を完全に失ったらしくそれ以降の消息は途切れ、何故か最近になって活動を再開した

 そしてその過程でソフィアは部隊と離れ、再び復帰を望んでいるが何故か部隊は復帰を拒んでいる

 そして彼女は部隊がターゲットにしている君に接触すれば部隊と遭遇できると考えた

 ここまでが私が把握している全ての情報だ」

聞けばある程度の事は納得がいった、しかし

「何故一番最初に話してくれなかったんですか?」

「理由は簡単だ、君がこの話を聞いて彼女に対する態度を硬化させない程役者じゃ無い事を知ってるからだ」

彼女はさも当然というように答えた

怒りも覚えたが同時に納得もしてしまう自分が憎かったが今やるべき事はそれではない、そう自分に言い聞かせ社長室を出た


十数分後、社長室のある棟から大分離れた場所にある寄宿棟にあるソフィアの部屋の前に立っていた

大きく深呼吸をしてからインターホンを押して中に入る

ベッドと椅子とテーブルと冷蔵庫、最小限としか言いようの無い殺風景な薄暗い部屋、その主である彼女はベッドの上に腰掛けていた

うつむいていた彼女がゆっくりこちらを見ると

「ああアランか、何か用事か?」

といつもの調子で聞いてきた

「社長に聞いたよ、全部」

彼女は驚きもせず、自嘲気味に笑うと

「そうか・・・」

と呟いた

「なら少し補足が必要かもしれないな、そこの椅子に座れ」

言われるままに椅子に座ると、彼女は話を始めた

「まずは部隊の構成からだな

 あの部隊は基本的には正規の軍人はほとんどいない

 戦闘要員は孤児が集められ、訓練されて部隊員つまりは社員となる

 私は姉と一緒にその施設に入れられた、毎日訓練をし、戦士へと鍛えられていく

 家族を失った私たちにとって施設で苦楽を共にした部隊の仲間は家族と言ってよかったよ

 私たちには国の主義や理想、イデオロギーなんでどうでもよかった、仲間と共に生きていければ良い、それでよかった

 しかしモガディシオで米軍のAW部隊を壊滅させた事で全てが変わってしまった

 国からはただ一言

『国のためにそこで戦死してくれ』

 とだけ言われて

 行き場を失った私たちを受け入れてくれたのは人民解放軍、つまりは中国政府だった

 AWの戦闘技術を伝える、その条件で彼らは国の中に居場所を与えてくれた

 しかしそれも去年に共産党のトップが変わった事で私たちは邪魔者になっていった

 元々爆弾と言える私たちを匿ってくれた事には感謝していたが、死ぬ訳にはいかなかった

 人民解放軍がロシアから初期購入した最新型のAWとその予備パーツを強奪して逃げるほか無かった

 しかし私は苛烈な阻止にあい、部隊への合流ができなかった

 そして私たちがターゲットにしていたあなた、アラン・ウィンストンに近づけば姉達に合える、そう信じてアメリカに飛んだ」

彼女が言葉を切る頃にはかなり話が見えてくるようになった

「つまり、俺の所為でソフィア達は国に居場所がなくなって、亡命先の中国でも居場所がなくなってあげく部隊とも合流できなくて仕方なく今に至ると」

「要約すればそう言う事になるな」

「じゃあ、戦闘中に会話していたのも」

「ああ、姉だ、そして姉は何故か私を裏切り者扱いしている、それが私が部隊と合流できない理由だ」

「なるほどねぇ」

数秒の沈黙の後、彼女が口を開くと

「聞いてくれてありがとう、この事は誰にも言わないでくれ、絶対にだ」

「ああ、大丈夫だ、誰にも言わない」

そう答えると、俺は自分の部屋へと戻った


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


狭いAWのコックピットの中、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)には半要塞化されたICBMサイロが映っている

周りを山に囲まれ、闇にシルエットを溶かしている様子はさながら地獄への入り口だった

「狼へ、ヤマイヌは餌を見つけた、繰り返すヤマイヌは餌を見つけた」

低い男の声が彼女の鼓膜を振動させる

「ヤマイヌへ、狼が狩りを始める」

そう短く返すとソフィアに似た顔立ちの彼女は独語した

「ようやく私たちは報われるのか」

グリップを強く握り直すと号令を発した

同時に十機のAWが山の稜線からシルエットを表し、眼下のサイロへと突撃していく


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌朝になると事態が一変していた

テログループがロシアのICBMサイロを占拠し、ロシア政府に向けて声明を発表をしたのだった

せかされながら食堂の共用TVを見たがそこから流れてくるのはは不鮮明な画像と女の声だった

「ロシア政府に対して、機密文章の公開および我々の祖国帰還を要求する

 これらの条件が飲めない場合は我々が占拠したサイロのICBM4基を射程圏内の

 大規模都市、および核関連施設に使用する、期限は50時間、いい返事を期待している」

明確なまでの宣戦布告、こうなればロシアも黙ってはいない

しかし期限まで確実に彼女たちはICBMサイロを守り通すだろう、そんな根拠のない確信が胸のなかを占めていく

隣に立っていたソフィアに耳打ちをする

「あの映像、映ってるのお前の姉さんなんじゃないのか?」

ソフィアはかぶりを振ると

「わからない、だけどそうだとしたらこれが最後のチャンスかもしれない」

彼女の横顔はいつになく焦燥に満ちていた

やるしかないか、そう決心すると社長室へと走っていった


「君に言われなくてもそうするさ」

意外な返事に一瞬言葉を失ったが、社長は気にする事無く続けた

「元々彼女との交換条件みたいなものだったからね、それを違える気は無いよ」

「交換条件?」

「彼女を雇って部隊に合流するのを支援する、その見返りに彼女が持ってる人脈を教えてもらったのさ」

彼女は淡々と続けた

「しかし残念ながら我が社もPMCなんでね、依頼が無い限りは動けない

 まあ、そこはどうにかするさ、君が心配する事じゃ無い」

彼女はPCのディスプレイから視線を移すと

「それで、他にはあるかな?」

と聞いてきた

いえ、ありませんと返すとぎくしゃくした足取りで部屋を出た

ドアを出るとすぐ横にソフィアが立っていた

「どうだった?」

「どうもこうも無いさ、多分社長がなんとかしてくれるとさ」

「あの人には借りを作りっぱなしだ、それと一つ聞くが何で走ってまで社長室まで行った?」

「あの時お前がヤバいって顔してたからかな」

そう答えると彼女は顔を少し背けて

「そうか、気にしてくれたのか・・・ありがとう」

とだけ言って去ってしまった

そろそろ最終回も近づいてきました

今回はAWでの戦闘は無しですが次回には必ずだします

そして次話も一週間程度で更新となるはずです

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