会敵
北アフリカの事件から一週間がたっても、ソフィアの様子はおかしかった
訓練中に今までからは考えられないミスを連発していた
流石に見かねたアントニオやカレンが休む事を提案しても頑にそれを拒むだけだった
しかし本調子で無かろうと仕事は減らないし、待ってもくれなかった
眼鏡をかけた事務担当がタブレットを操作しながら口を開いた
「君たちにはこれから中東に飛んでもらう
依頼内容はAW部隊の訓練といったところだ」
ソフィアがこんな状態なのに仕事は過酷すぎる、とアントニオが反論したが
「残念ながら我が社にもAW隊を悠々と休ませてくおくだけの余裕はないんだよ」
眼鏡をかけ直しながら彼はそう答えた
隣に立っていたソフィアを見たがどう考えても一週間前と雰囲気が違った
糸が切れて宙ぶらりんになった人形、そんなモノを連想するぐらいに彼女は変わっていた
しかしこればかりは本人で無い限りどうしようもない、そう思って見る事しかできなかった
中東に着くと予想以上にピリピリとした空気に包まれていた
近々大規模な攻勢があるかもしれない、そういう噂だったのだが
そうなるとアグレッサーとして対西側のAW戦闘が依頼されるのも納得できる話だった
「だとして、たかだか一ヶ月ちょっとで何ができる?
この手のモノは付け焼き刃でどうなるもんでもなかろうに・・・」
アントニオは乗り気では無いらしいく、カレンも似たような感じだった
しかし我々の予想を裏切り、彼ら、アラブ側のAW隊はよく訓練されていた
これなら大丈夫だろう、その期待を裏切る事無く訓練は順調に進んだ
予定ならば来週には帰れる、そう思っていた矢先の出来事だった
基地に帰還した直後に激しい砲撃が基地全体を襲った
滑走路や通信施設が重点的に砲撃を食らい、機能が一時的に麻痺する
その隙を突いて、敵のAW隊が攻撃を仕掛けてきた
鋭角なシルエットに砂色の塗装、そして狼のエンブレム
何の縁があるのかまたあの部隊だった
出動した防衛のAWをことごとく葬ると、その機体がまっすぐこちらを向いた
数の上ではこちらに利があるが、それが覆る程にあの機体は強い
「下がれ、あいつとは戦闘するな」
こんな所で必死に訓練した部隊を全滅させる訳にはいかなかった
すると突然脇をすり抜けて狼のエンブレムに向かっていく影がいた
「ソフィア!何を考えてる、やめろ!」
無線で呼びかけるが応答は無かった
悪態をつきながら援護に回る、アントニオとカレンは部隊の方についていった
改めてソフィアと狼のエンブレムの機体が切り結んでいるのを見たが見れば見る程二機の操縦技術は似通っている
疑問が胸の中を占めていく中、照準を狼のエンブレムに合わせる
「ソフィア下がれ!」
トリガーを引き絞る
狼のエンブレムはターンでそれを回避すると、こちらに跳躍した
咄嗟に30mm機関砲でナイフを止め、後退しながらナイフを抜く
ソフィアの方を見るが右腕がなくなっていた
「ソフィア!アントニオ達の方に後退しろ、その損傷じゃ無理だ」
応答は無かったが30mm機関砲を構え直すと後退して援護に回った
それを確認すると狼のエンブレムとの距離を一気に詰め、幾度と無く刃を交差させる
一向に勝負はつかなかったが、襲撃部隊はだんだんと劣勢になっていった
そのいら立ちをぶつけるかのごとく、敵の攻撃も激しさを増す
が、それと反比例して正確さは少しずつ無くなっていった
撤退しようとしたのか狼のエンブレムが後ろに飛ぼうとするが、バランスを崩した
これを逃すまいとコックピットに向けてまっすぐに刃を滑らせる
次の瞬間、横から飛び出てきた同じ狼のエンブレムの機体が盾になり、刃はその機体のコックピットを正確に貫いた
その機体は主を無くし、力なく倒れ、狼のエンブレムと自機の間に数秒の間が出来た
突然、狼のエンブレムが外部スピーカーを使って交信してきた
「お前か、数年前の市街地戦の時の生き残り」
「そうだ!それがどうした」
「貴様は我々の生きる道を奪っただけでなく仲間まで殺すか
次に会ったときは必ず排除する、覚えておけ」
それだけ言うと狼のエンブレムは跳躍してその場を去ってしまった
後に残されたのは俺とソフィアと撃破したAWの残骸だけだった
結局、アラブ側はこの襲撃で主力部隊の消失は避けられたものの、他の戦力の消耗が激しく、結果としてイスラエル側に戦力増強の時間を与えてしまう
アラブ側はイスラエルに抗議するという形でしかこの事件の反撃はできなかった
アメリカ本土へ帰る輸送機の中で、ひとり疑念と格闘しながら座っていた
本社に帰れば社長から何か聞き出せるかもしれない、そんな淡い期待を胸に眠りについた
更新が大幅に送れてすいません
中の人の都合によるものなので、次話はいつも通り一週間程度で書く予定です