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展開、そして疑惑

「こちらレイア4、周囲にRPGなどの脅威は認められず」

「こちらレイア3、了解した、引き続き警戒を頼む」

「レイア4、了解」

そうして通信ウィンドウを閉じると改めてあたりを見渡した

市街地は人気もなく放棄された住居がたたずんでいた

「まったくなんでこんな事になるんだか」

そう一人でぼやきながら数日前のブリーフィングを思い出す


アフリカでの輸送護衛が終わり、やっとアメリカに帰れるという所でのブリーフィングの招集がかかったのである

会議室に行ってみれば現地の責任者から

「社長からの命令で君たちはガレア隊に業務を引き継いだ後に北アフリカに飛んでもらう」

と仕事の内容を記した書類と追加報酬の明細一式を渡されたのであった

「依頼の内容は渡した書類に書いてあるが一応説明しておく

 現地の軍と市街地でのゲリラ掃討の後方支援だ

 何、あと一ヶ月程度だ、それでは解散とする」


あの時ほど他人をぶん殴りたいと思った事はないと思うぐらいに落胆したが

追加で支払われた報酬の額はそれを押さえるには十分な量だった

無線が入る音で一気に現実に引きもどされる

「あと少しで全ての負傷者の収容が完了する、それまで警戒を頼む」

「了解した、できるだけ早く頼むぞ」

「こちらレイア4、十時方向に敵影発見、制圧射撃開始」

レイア4がビルに対して30mmチェーンガンでの砲撃を加えていた

ビルの壁面に徹甲榴弾が命中し派手に土煙を立てる

素早く周囲をサーモセンサとカメラで走査するが特に以上はなかった

「収容が完了した、出発するぞ」

「了解した、安全圏までエスコートする」

「お手柔らかに頼むぞ」

装甲車の隊列が出発し、それの側面をカバーするように

レイア3と4が足裏のローラーを起動させ、追従していく

交戦区域から安全圏まではほんの2,3キロの市街地なのだが

背の高い建物があり、輸送部隊がRPGでの攻撃や狙撃にさらされる危険性があるという事でAWを盾にする事で輸送部隊の安全を確保するという任務だった

そのためにいつものAWには増加装甲が取り付けられ、防御性能は多少向上していた

「くそ、市街地掃討用の戦車かAWまわせば良いのに」

「戦車じゃ装甲車の隊列に連続で追従するのは無理だ、それに掃討に全力を注ぎたいからこそ私たちに依頼がきたのだろう?」

とソフィアの突っ込みが素早くかえってきた

「それにそれなりの額の報酬を貰っているんだ、その分はやらなければな」

「わかってますって」

何故か敗北感を覚えたのでそこで強引に通信ウィンドウを閉じてしまった

別の地区を望遠するとそこで同じ任務についていたレイア1と2の射撃が派手な土煙を立てていた

「むこうも大変そうだな」

他人事のようにぼやきながらも周囲をくまなく探査しながら車列に随伴していく

ふと、サーモセンサにRPGを構える民兵が三人映った

「こちらレイア3、二時方向にRPG確認、制圧射撃開始」

そう口にすると迷う事なくトリガーを引いた

こちらが気づいているとは思わなかったのか民兵達は慌てて逃げようとする

しかしそれ以上は見えなかった、一瞬後弾が着弾し、土煙を舞い上げながら建物の一部を破壊した

十数分後、無事にCP(コマンドポスト)までたどり着くとしばらくの間休憩となった

ソフィアはまたしてもパック入りのジュースを片手にAWの様子を見つめていた

「なにをしてるんだ?」

「私はAWの整備はできないからな、見てる事しかできない」

そういう彼女の横顔は少し残念そうだったが内心はこんな顔もするのかと驚いた

「なあ、お前は銃口を向けてトリガーを引く時に迷わないのか?」

そう質問すると、彼女は一瞬驚いた顔をしたがすぐにいつもの顔に戻ると

「そんな感傷に浸っていたのか、あまり心の余裕をなくすとつらいぞ」

そう言って飲み干したジュースのパックを握りつぶすと再び口を開いた

「答えはNOだ、その迷い、一瞬の躊躇が全体を危険に晒す、まして相手も銃口をむけているんだ、同じ戦場に立つもの同士いずれはやられる覚悟はあるはず、私はそう思っている」

そう言い終わるとどこかに歩いていってしまった

入れ替わりでアントニオをカレンが歩いてきて、よっぽど俺が間抜けな顔をしていたのかアントニオは爆笑して、カレンも破顔一笑してた

アントニオに尋ねられ、今までの経緯を話すと急にまじめな顔になり

「そういう感慨は戦闘中には絶対にだすなよ」と厳しい口調で忠告してくる

「そういうのは周りにもツケが回ってくるんだ、生き残ればそんな時間はいくらでもあるんだ、戦闘中は絶対に弱みを出すな」

カレンも少し難しそうな顔をすると

「結局どう美化しても私たちがしてるのは人殺しだし、そういう感慨があるのは仕方ないとは思う、でも命があっての物種よ、それは忘れないで」

無論、それらは全て承知の事だった

元軍人ではあるし派兵も経験している、しかし胸の真ん中に穴があいたような感覚はなくなりそうにはなかった


数日後の戦闘中、それは突然起こった

今まで通りに後方で待機していると、急にCP(コマンドポスト)の中が慌ただしくなった

士官の一人を捕まえて事情を聞けば敵がAW部隊を投入してきたらしい

そのときに妙な事をその士官は言ってた

「狼のエンブレムつけた機体がいる」

間違いなくあの時のAW部隊だ、そう確信すると

今すぐ部隊を引かせるようにと言い残して隊に向かった

隊の全員にこの事を話すと、意見が分かれたが、ソフィアがいつになく積極的に撤退の援護を支持するので結局撤退の援護をするという事になった

しかし冷静に考えれば現地軍から同じ内容の依頼がくるのは時間の問題だったのだ

5分弱で市街地の入り口に付き、二機一組の陣形を組みながら市街地に突入すれば無惨に破壊された戦車やAWの残骸が転がっていた

無線を使おうとするがジャミングされているせいで極短距離での通信が精一杯という有様だった

やっと生き残っているAWを見つけたのは市街地の入り口から500m程進んだところだった

その隊員曰く、「今まで通りに掃討を進めていたらいきなりAW部隊がでてきて一気に戦線が壊滅した」らしい

急いで入り口まで戻ろうとした時、一つ後ろの路地からAWが一機飛び出してきた

肩に狼のエンブレム、細身で鋭角なシルエット、ククリナイフ状のAW用ナイフ

、見間違いようの無いそれは間違いなくあの時の機体だった

もうあの時の二の舞は御免だ、そう思うとナイフを抜刀して狼のAWの前に立ちふさがる

そうするとソフィアが何を思ったのか戻って、隣で同じくナイフを抜刀していた

「何をしている馬鹿、さっさと逃げろ!俺は・・・」

俺はこれ以上仲間を失いたくない、そう言おうとしたとき、冷静なソフィアの声が返ってきた

「お前単機で足止めして、逃げられるのか?」

答えに詰まる、そんな確証など無い、またあの時同様に逃げられるとも分からない

「わかった、援護たのむ」

「お前が援護してくれ、私がやる」

そう言うが早いか、機体を踏み込ませると一気に狼のAWに向かっていった

速い、そう思いながら30mmチェーンガンを再び構える

格闘戦をやっている最中に撃てばソフィアにも当たる確率が高かった

「一体援護ってどうしろっていうんだよ」

そうぼやいていると何故かソフィアが外部スピーカーを使っていた

「そこのAW!無線を1.14514GHzに合わせろ!」

何故そんな事が戦闘中に必要なのか、そう思いながら無線を合わせてみるが完全に秘匿化された回線だった

出撃前のソフィアの態度、そしてこの秘匿回線、すべてが異様としか言えなかった

そんな疑念が頭の中を占めていく中、戦闘が一瞬だが止まった

逃がすか、30mmのトリガーを引く、しかし全て避けると狼のAWは撤退していった


CPに帰投し、AWから降りると、ソフィアが遠くを見る目で自機から降りている最中だった

「お前、一体あの無線で何を話してたんだよ」

「何でも無い、関係の無い事だ」

彼女はそう虚ろな返事をするとフラフラとどこかに行ってしまった

自分の中で晴れない疑惑だけが増大していく、それが嫌でもわかった

一週間に一回程度の更新を目標に書いていきます

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