出会い、そして格闘
翌日、AWの格納庫で待機していると社長が昨日の彼女を連れてやってきた
肩まであった髪を結んで、濃紺に灰色のラインの入った制服を着た彼女は
昨日の迷彩服を着た少女とは別人なのではないか、そんな違和感を覚えてしまった
そんな小さな違和感を消そうとしているうちに社長が並んだ我々三人の前に立ち、話を始めていた
「彼女が今日からレイア隊に配属される、それぞれで顔合わせはしておくように」
そう言うと、隣にならんでいた彼女が前に出た
「ソフィア・エヴァンズです、よろしくお願いします」
それを確認すると社長は隊員の紹介を始めていた
「彼はアントニオ・ミラー、コールサインはレイア1、今日からの仲間でもあり
上司でもある、分からない事があるなら彼に聞くといい」
浅黒く体格のいい彼が手を差し出し、握手を求めた
彼を見上げる格好での握手なのだが、彼女の方が大きく見える、そんな気がした
社長はアントニオの隣に立っていた女性の方を向くと
「彼女がカレン・ケッチュ、コールサインはレイア2、エンジニアとしても優秀だな」
ソフィアよりも背が高い彼女は握手をかわしながら
「あなたが新しいレイア4ね、よろしくたのむわね」
とどこか艶っぽい笑みを浮かべていた
社長は苦笑しながら
「喰われるなよ」
と忠告していた
最後にこちらを向くと
「彼は昨日あったな、アラン・ウィンストンだ、コールサインはレイア3」
ソフィアと握手をかわしている間、彼女から達成感のようなものを感じた
社長はその様子を見届けると改めて全員の方を向くと
「明後日からアフリカに飛んでもらう、久しぶりの仕事だぞ」
「しかし彼女はまだ入ったばかりだぞ」
アントニオが反論すると
「それに関しては問題ない、彼女は文字通り即戦力だ、アラン君も見ただろう?彼女の実力を」
意地悪そうな顔をして社長がこちらを見てくる
なるほどそういうことか・・・と今更になって気がつく
しかしそんな事では納得できないとアントニオはかぶりを振る
「そうか、シミュレータールームが空いてるはずだ、彼女の実力を試してみるといい」
そう言い残すと社長は格納庫から出て行った
しばらく続いた沈黙を破ったのはカレンだった
「ほら、いつまでも突っ立ってないでシミュレータールームに行きましょう」
シミュレーターを起動、疑似戦闘の開始から10分が経過していた
HMDには市街地のビルが映し出されている
僚機のレイア2は別の場所を陣取っていた
ズームしてその姿を確認するが、頭部を廃した箱形のシルエットが40mm機関砲を背負ってるのは中々不格好だった
しばらくしてコックピットの中にアラームが鳴り響く
あらかじめ仕掛けておいたセンサーの一つに敵が引っかかった
機体を動かそうとした途端に再びアラームが鳴る
ディスプレイには既に5つ以上の敵が感知されていた
「デコイか、攻めて来る気配はないな」
「どうしてわかるの?」
「相手も情報が足りてないからカマをかけてきたんだろ」
「こっちからも本命かどうかは判別できない、しばらく様子見ね」
それから待つ事15分、新しい反応が出てきた
「どうだ、そっちからは見えるか」
「新しいのが一機、たぶん本命とみて間違いないはずよ」
「もう一機は確認できるか?」
「今のところ見えない、どうする?射程圏内には入ってるけど」
「相手の目的は位置確認のはずだ、乗るにはリスクが大きい」
こちらと同型のAW、人型兵器はビルの影に隠れながら全身していた
「一撃で仕留める、一応援護よろしく」
そう言うとビルの影から飛び出し、銃口を向け、狙いをつける
その瞬間、敵はビルの影に潜る、そしてデコイが炸裂した
モニターを埋める閃光、とっさに元のビルの影に戻る
数瞬後、元いた場所とビルの一部が削り取られる
咄嗟に叫ぶ
「今だ、ありったけぶち込め」
返答は無かった
代わりに40mmの砲弾が敵に注ぎ込まれる
目視してからでは遅い、砲弾は装甲を食い破り、そこで炸裂する
四肢が飛び、敵が沈黙する、あと一機
「見つけた、もう一機」
そう言うとレイア2は照準をそちらに向ける
次の瞬間、デコイが全て炸裂した
EMP(電磁パルス)がまき散らされる
照準も、データリンクもいかれた
無線が回復するとそこからは装甲やフレームが食い破られる音がした
「何もここまでリアリティ追求しなくていいのになぁ」
一人でぼやきながら警戒する
どちらにせよレイア2はもういない、数は互角になった
それからどれぐらい経っただろうか
ビルの影から敵機が踊りだしてきた、
手のナイフの切っ先をまっすぐにこちらのコックピットに向けて
咄嗟に手持ちのライフルでガードする
深々と刺さったナイフは間違いなく殺気で満ちていた
ライフルをまわしてナイフをもぎ取る
しかし敵機は更に踏み込み、左手のナイフを下から上になぎ払う
チャンスだ、そう思い、腰のナイフに手をかけ、一気に踏み込もうとする
しかし次には全力で下がらざるを得なかった
あり得ないほどの反射神経か、先読みか、敵は半ばまで振り上げたナイフを瞬時に振り下ろした
そして踏み込む、構えを取らせずに殺す、目的が分かっても対処ができない
迂闊に攻撃すれば即座に封じられカウンターをくらう、そんなオチが目に見えていた
既に数度の打ち込みで機体はかすり傷だらけだった
やるなら今しかない、そんな博打めいた考えが脳裏をめぐる
敵が足を踏み込み、いつの間に右手に切り替えたナイフを真横に振ろうとする
その刃を左腕に食い込ませ、動きを封じる
そして咄嗟に踏み込む、右手にはナイフ、いける
敵は後ろから予備のナイフを左手に持たせ、真上から振り下ろすように一直線にコックピットを狙ってくる
防ぐという選択肢は無い、敵のコックピットだけをにらみ、一直線に刃を振り上げる
敵のフレームが軋み、装甲が食い破られる音を聞くのと、被撃破の報告を聞くのは同時だった
汗まみれでシミュレーターからはい出す
どれぐらい続いたか分からない格闘戦のせいで神経も身もすり減っていた
ソフィアがまっすぐこちらに歩いて来て、手を差し出す
その顔にはわずかだが汗の跡があった
手を握り返す、ただ単に初日のシミュレーターで汗一つかかなかった彼女にここまで戦わせた、その事実が嬉しかった
そんな彼女はただ一言
「いい戦いだった」
と言っただけだった