とうめいにんげんの嗜好
日が傾きかけた教室で自分は黙々と本を読む。
皆受験生だというのに浮かれて遊び惚けていて馬鹿らしく思う夕暮れ。
「ねぇ。高弘くん」と言って彼女は俺に笑い掛ける。そんな笑っている彼女の手中にあるのは虫籠。虫籠の中には甲虫が百足を足を千切って黙々と食べている。
「…え、な、なに、それ」「やだなぁ…高弘くん。高弘くんって虫、食べるんでしょ? ほら、食べてみーせて」と言って彼女は無邪気に笑いながら虫籠から甲虫を出す。
甲虫は俺を見ながらゾワゾワと六つもある足を動かす。甲虫と目が合う。茶色の目。「……いただきます」と言って甲虫の頭部と腹部を引き千切り、口の中に入れた。ザリザリとした昆虫特有の感触が口の中に纏わりつく。
なんか物足りない。だから自分は自分の机に噛みついた。木が脆い。ばりばりばり。
「………足りない」「そう。高弘くんって強欲だね」虫を無理矢理食べさせた彼女はクスクス笑いながら透けた足をバタつかせていた。