第八話 ~裏切られる精霊の巫女~
エレナ=ルクウィッドは、今日も監禁生活を
満喫中だった。
今日は自室にジゼット=ブラック、ステラ=
ワイズの他に、料理番のミルカ=ライニオまで
加わって、かなりかしましくなっていた。
テーブルにはお菓子の数々があり、四人は
おしゃれの会話に余念がない。
今まで面識はなかったものの、精霊の巫女
という接点があるからか、エレナは彼女達と
すぐに仲良くなったのだった。
薔薇色のマカロンを大きく口を開けて齧り
取ったジゼットが、そういえばさ、と
エレナに聞いてくる。
チーズケーキを食べていたエレナは、
フォークを一端置いてお茶で口の中身を流し
ながら口を開いた。
「何かしら、ジゼット?」
「エレナって好きな人いんのか?」
「えええっ!!」
「あ、私も聞きたい! 教えてよエレナ!!」
「うふふ、私もエレナちゃんの好きな人聞き
たいわ」
さらにミルカやステラにも言われ、エレナの
顔は真っ赤に染まった。
それでも、ぼそぼそと話し始める。
「えっと……少し卑屈な所もあるけど、優しくて
努力家の人かしら」
「いいなぁ~僕もそんな人が近くにいたらいい
のに!!」
「本当よね……」
「……」
ジゼット、ミルカ、ステラの顔色が暗くなった
事にエレナは気づいた。
彼女達が「精霊の巫女」だった時、あの役職は
人柱だったという事だから何かあったのだろう。
「さ、三人は好きな人いないの?」
「僕は……いたんだけどさ、男を見る目はあんまり
なかったのかな、僕とダンスを踊るのを嫌がる奴
だったよ。僕の事も気味悪がってたし」
「あたしもいたんだけど、その人あたしをかばって
あたしを逃がそうとしたんだよ。でも、あたしも
その人も捕まっちゃって儀式は行われた。あたしは
あの方が助けてくれたけど、あいつはもう死んじゃ
ってるかも……」
「私は、好きな人がいなかったの。だから、兄と一緒に
踊ったわ。助けられなくてごめん、って何度も泣き
ながら私と踊ってた……」
どうしてこうなるの、とエレナは思った。
よかれと思って話を振ったのに、それは全く成功せず
さらに雰囲気が暗くなっていく。
エレナは泣きたいような気持になった。
「そ、そういえばさ!」
同じ事を思ったらしく、比較的明るく口を開いたのは
ミルカだった。
無理をしているのが明らかな顔だったけれど、彼女の
意をくみ取ったのか他の二人が彼女に目を向けた。
もちろん、エレナも彼女を見つめる。
「あしたのご飯何食べたい!? あたしなんでも
作るよ!?」
「ってまだ今日の夜ご飯も食べていないじゃない……。
ミルカってば」
「僕、う~んと、え~と、ガトーショコラが食べたい」
「それはデザートでしょう!?」
ミルカのおかげでようやく明るい雰囲気が戻ってきた。
エレナはほっとしたように息をつき、自分も話に混ざる。
何を食べたいかと問われ、思わずルーク=ウレイアの
事を思い出してしまいチーズ料理と言ってしまった。
顔が赤く染まったのにめざとく気づいたジゼット達に
からかわれ、エレナが言い返して一気にかしましくなる。
と、いきなりステラが会話を遮った。
「エレナちゃん、少しいいかしら」
「どうしたんですか、ステラさん?」
「ちょっと来てくれる? 大事な話があるの」
エレナは首をかしげながらもはいと頷いた――。
ステラはエレナを連れ出し、自室へ連れて行った。
初めて部屋から出れた解放感にひたっていたエレナは、
ステラの藍色の瞳に険があるのに一切気付いていな
かった。
にっこりと笑うと、ステラは口を開いた。
「エレナちゃんに良い事教えてあげる」
エレナは何故か背中がゾッとしていた。
頭の中で危険信号が鳴り響く。ここにいては駄目だ。
早く自室に帰れ、と。
だが、ステラはしっかりと腕を掴んでいて、離して
くれる気配はなかった。
「私、あなたが大嫌い」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
大嫌い? ステラさんが? 私を?
何かの冗談だと思いたかったが、彼女の顔には
もう親しみは欠片もなかった。
「もう一度言ってあげましょうか? 私、あなたが
大嫌いなの」
「ど、どうして!?」
「私、あなたみたいな幸せな子って大嫌い。
愛されて当然だと思ってた? いい子ちゃんの
エレナちゃんは」
悪意のある言葉がエレナの胸を深くえぐった。
ぼろぼろと目から涙がこぼれおちていく。
「ステラさん……」
「何であんたなの? あんたばかり愛されて
慕われて。私は、あの子たちと仲良くなるのに
時間がかかったのに!! なんであんたばかりが
幸せなのよっ!!」
「……!」
だんっ、とステラが壁を叩いた。びくっ、とエレナは
身をすくめる。それがさらに、彼女の怒りに油を注いだ。
「あんただってあたしのこと嫌いなんでしょ!? しら
じらしい敬語とさんづけなんかしちゃってさ!!
あんたが来なければこんなにみじめになんかなら
なかったのに!!」
ステラは気づいていなかった。この言葉が、エレナを
責める事が、さらに自分をみじめにしている事に。
ただ感情のままに、罪もないエレナを責め
立てていた。
「あんたなんか、死んじゃえっ!!」
そのままエレナは走り出し、その場から逃げ出した。
ステラが泣いていたことも、それを一人の少女が
見ていた事も知らず、自室の前の扉に寄りかかって
すすり泣いていた。
愛しい人の名前を小さく呼びながら――。
……なんか、全体的に暗くなって
しまいました。わいわいとした楽しい
雰囲気が好きな方すみません。
ちなみに、以前はステラ達が昔語りを
するセリフはなかったのですが、文字数が
少なかったのと、最近思いついた設定をつけ
足してみました。エレナがステラと仲直り出来る
かは、エレナにかかってるので頑張ってもらい
ましょう。




