第五話 ~精霊の剣の真価~
ルーク=ウレイアは、ここ最近で日課と
なった、剣の素振りをしていた。
幼馴染であるエレナが誘拐されてから、
もう一週間ほどが経とうとしている。
幼馴染のエレナ=ルクウィッドの弟、
ビショップが笑顔で駆け寄って来た。
「ルーク!! 少し休憩したら? てゆーか、
ごはん作ってよ~。僕もアンジェも出来ないん
だから~」
「わかったよ、ビショップ」
ルークは自分で作った革製の鞘に、銀色に
きらめく剣をおさめた。
伸びをし、歩き出す。隣にビショップが
並んだ。
心配そうなエメラルドグリーンの瞳に、
ルークは姉エレナの面影をどうしても見て
しまい少し表情が曇る。
でも、心配してくれる気持ちは素直に
嬉しかったのでそれを隠した。
「まだ、嫌な夢、見る?」
「いや、見てないよ。ビショップたちの
おかげだよ、ありがとう」
アンジェに八つ当たりしてしまい、
ビショップに怒鳴られた日からルークは
悪夢を見る事はなくなっていた。
僕のおかげだね!と子供っぽく胸を張る
ので、彼は苦笑だけをビショップに向け
ている。
ログハウスに帰ると、精霊の姫・アンジェが
出迎えた。今日はにこにこ笑顔を浮かべていて、
とても可愛らしく見える。
「おはようございます、ルーク」
「おはよう、アンジェ!!」
ルークはあいさつをし、台所に入って行った。
ふんだんにある材料を使い、なんとも美味しそうな
料理を作っていく。
今日の朝ごはんは、チキンスープにチーズ入りの
蒸しパンだった。デザートには冷たいチョコレートが
添えられてある。
歓声を上げて料理を食べる二人の姿に、ルークは
小さく笑った――。
「やああああっ!!」
気合のこもった声がその場に響く。
ルークの一閃で、一体のモンスターが消滅した。
少しずつ彼は強くなっていっているらしい。
ハルピュイアくらいなら、すぐに一体は倒せる
くらいになっていた。
以前は苦戦していた敵を簡単に倒せるように
なるまでの、彼の苦労はどれほどだったの
だろうか。
しかし、まだ精霊の剣はまだ宝石が二つだった。
精霊達のうち、認めてくれているのはまだ二人
という証明である。
「ルーク、その剣を少し貸してくださいませんか?」
と、アンジェが手を差し出しながらそう言った。
首をかしげながらも、ルークは剣を彼女に渡す。
珍しくアンジェは少しだけ得意そうな顔を
していた。
「精霊の剣の本来の力を見せます」
ビショップに下がっているように言うと、アンジェは
スッと剣をハルピュイアへと向けた。
一体、何をするつもりなんだろう、とビショップと
ルークは顔を見合わせる。
「全地を統べる精霊たちよ、我の前に集え!!」
リオン、ジェモー、ベリエ、サジテール、ポワソン、
ヴェルソー、カンセール、スコルピオン、カプリコルヌ、
ヴィエルジュ、トロー、バランスがその場に現れた。
彼らが一つとなって剣の宝石〝プリュネル〝に吸い
込まれて行き、虹色の光を剣が発した。
「行きます。……闇を祓はらいいし力となれ!!
浄化の光、百花乱舞!!」
剣気がハルピュイアの前から後ろに駆け抜けた。
声を上げる暇もなく、モンスターは切り刻まれる。
後には塵も残らない。言葉通り、浄化されたようだ。
あまりの威力にへたりこんだルークは、小さくすげえ、と
呟いた。
あまりの凄さに、ビショップは怯えて木の陰に
隠れていたという――。
「これが精霊の剣の本来の力です」
アンジェはルークに銀色の剣を返した。
次に、ビショップを見やって言う。
びくっとなったように彼は身をすくめたけれど、
同様に威力に気圧されたルークとしては彼をから
かったりする気にもなれなかった。
「あなたの弓でも同じです。すべての精霊と心かよ
わせなければ、その真価は発揮できないのです」
ルーク達は頷いた。全ては、エレナのため。
彼女を、あの男から取り返すために。
「よーし、もう一回だ!! 次の敵に行くぞ!!」
「待ってよ~、ルーク!!」
まるで兄弟ででもあるかのように走り出す彼らを、
アンジュは微笑ましそうに見つめていた。
そして、一瞬だけ悲しげな顔になる。
「兄弟は……普通は仲がいい物、なんですよね。
夢中になるあまりルーク達はその事に気づいて
いなかった。
次のターゲットは、スキュラという、美しい女性の
姿をしたモンスターだった。
ただし、下半身が魚の物で、腹部に犬の首が六つ
ついている。水辺の近くで見つける事が出来た。
「ルーク、ビショップ!! スキュラはハルピュイア
よりも強いですよ、気をつけて!!」
「わかってるよ、アンジェ!!」
「怪我しないようにがんばるよ!!」
二人はそれぞれ、剣と弓を構えた。
襲い来るスキュラの攻撃をかわし、攻撃を打ち
まくる。
ルークがスキュラに弾き飛ばされ、空中を舞って
精霊二人に助けられた。
防護の膜のような物に守られ、怪我一つする事なく
着地出来る。
ルークはありがとう、と声をかけ、再びスキュラに
向かった。
が――。何故かスキュラは水の中に飛び込み、姿を
消してしまった。明らかに何かに怯えている様子だった。
ルーク達は全く攻撃が当たっていなかったので首を
ひねった。
一体、何があったというのだろうか。
「なんだよ、まだ何もしてないのに」
「ボクの攻撃もあたってなかったよ」
二人はまだ危険に気づいていなかった。気づいていた
のはただ一人。
そう、青ざめた顔をしたアンジュだけだった。
「――ルーク、剣を貸していただけますか?」
「また? ああ、いいけど」
アンジェは手渡された剣をぎゅっと強く握っていた。
体が小刻みに震えているのに気付き、二人が声をかける。
「大丈夫か、アンジェ?」
「どうしたの?」
「あの男が、あの男が、来ます」
「「え?」」
ルークとビショップも不安そうな顔になった。
と、唐突にエレナを誘拐したあの男が姿を現す。
カッとルークの頭が真っ白になった。
気が付いたら、彼に飛びかかっていた。
もちろんかなう訳はなく、吹っ飛ばされて
木の幹に背中を打ち付ける。
ビショップも攻撃をしたが、同じ目に
遭っていた。
「アンジェ、私のもとへ来い。お前では私には
勝てない。それはお前がよく知っているはずだ」
「嫌です!! あなたこそ、あきらめて、エレナを――
精霊の巫女を解放しなさい!!」
「相容れぬか」
少しだけ、男の目が悲しみに染まった。
それでもキッとアンジェは黙って睨みつけている。
あの二人の関係は一体、何なのだろうかとビショップは
思った。
ただの知人ではない、そんな気がした。
ルークは痛みに呻いていて、二人の雰囲気を感じている
余裕はないみたいだった。
「ならばいた仕方ない」
男が手のひらから生み出した魔法の塊をアンジュに
投げつけた。アンジュは結界のような物を作りだし、
それを防ぐ。
二人の戦いを、ルークとビショップはただ見ている
事しか出来なかった――。
しばらくルーク編だけを投稿
する予定になっています。誘拐
されたエレナがどうなったのかは
近々公開という事で……。




