第四話 ~精霊の巫女の血縁~
ルーク=ウレイアは、夢を見ていた。
幼馴染の少女エレナ=ルクウィッドが、
さらわれる寸前の夢だ。
踊り終えた彼女が、手を差し伸べた。
ルークがその手を取る。が、いきなり
現れた謎の男によって、二人は引き
裂かれた。
「精霊の巫女はいだだいていく!!」
「エレナを返せ!! このやろう!!」
ルークの攻撃は当たらない。
エレナの悲鳴がその場に響く。
「ルーク!!」
「エレナ――!!」
「エレナ!!」
夢の中でルークが叫ぶ。実際にも叫んで
いたらしく、起き上がった瞬間、そばにいた
アンジェがきゃっ、と声を上げた。
「大丈夫ですか、ルーク」
心配そうに彼女は言った。とっさに手を
握っていた事に気づき、ルークが赤く
なって謝る。
「ご、ごめん、アンジェ」
「いいのです、ルーク。顔色が悪いですが
大丈夫ですか?」
「平気だよ。起こしちゃったか?」
「いいえ。精霊はよほどのことがない限り、
眠りませんから」
ルークは手を離した。寝癖のついた髪を
てぐしで整え、ベッドから降りる。
隣で寝ていたエレナの弟、ビショップが
小さく身じろぎした。
彼らが今いるのは、ログハウスのような
家だっだ。
アンジェが、この前のように何もない空間
から出したのだ。
家具も揃っていて、かなり過ごしやすい。
「ルーク、眠らないのですか?」
「ちょっと頭冷やしてくる」
ルークはアンジェに笑いかけ、外に出た。
眠れるわけがない。あんな夢を毎夜も見て
いるのだ。理由は分かっている。
自分が、あの時なんでエレナを守れ
なかったのか、と自分で自分を責めて
いるからだ。わかってるけど――。
ガンッとルークは樹の幹を殴りつけた。
何も起こらない。自分の手が痛くなる
だけだ。
気持ちだって晴れはしない。
「エレナ……」
彼女が落とした、百花白蓮の髪飾りを
取り出し、ルークはここにいない彼女の事を
思った――。
開けない夜はない。眠れないルークをあざ笑うように、
まぶしい朝日が差し込んでいた。
ルークはあくびをかみ殺しつつ、ビショップを軽く
叩いた。
ううん、とビショップが微かな声を漏らす。
エメラルドグリーンの瞳はまだ眠そうだった。
「おい、朝だぞ!! 起きろ!!」
「あえっ? お姉ちゃん、もう朝」
「お姉ちゃんじゃねえよっ!!」
哀れなビショップはベッドから蹴り落とされ、すっかり
目が覚めたのだった。
半泣きになったビショップと苛立ちを隠せないルークが
下に降りてみると、何故か異臭があふれていた。台所からだ。
そういえば、さっきアンジェはいなかった。
二人が駆け付けると、泣きそうな顔の彼女が台所を
片づけていた。
「ご、ごめんなさい。私、料理って初めてで」
お姫さんだもんな、とルークは思った。
ビショップも同じ事を思ったのだろう、苦笑
している。
「俺が変わるよ。俺一応できるから」
「ルーク、料理できたの?」
「ああ。何も考えなくていいから、よく作って
たんだよ」
ルークは手際よく料理を始めた。
数分後、さっきとはうってかわって、いい匂いが
あふれる。
焼き立てふわふわのパンに、とかしたチーズや
マーマレード、イチゴジャムなどが添えられている。
チキンスープも美味しそうだった。
はしゃぎながらアンジェとビショップが食べ始める。
「すごくおいしいですわ、ルーク」
「うわあっ!! おいしいっ!! エレナお姉ちゃんと
同じくらいおいしいかも」
「エレナの名前を出すな!!」
かっとなってルークが怒鳴った。ビショップがびくっと
なって飛び上がる。
「ごめん……」
ビショップがしゅん、となった。明らかに八つ当たり
だったと気づき、そんな自分が嫌になった。
ルークは何も食べずに、そのまま家を飛び出す。
しかし、アンジェ達も追って来た。
「ついてくるなよ!!」
「落ち着いてください、ルーク。悩みがあるのなら、
私たちに話してください」
「そうだよ、ルーク!!」
「うるさいっ!!」
うるさい。うるさい。うるさい。うるさい!!
ルークは顔は怒っていたが、心では泣いていた。
どうしていいか分からなかった。
八つ当たりだと、こんな事言ってはいけないと
分かっているのに口は止まらない。
「何がわかるんだよ、お前らに何がわかるんだよ!!
お前らに俺の気持ちなんてわかる訳ないっ!!」
「ルークッ。わたしたち、仲間じゃないですか!!
どうして、そんなことを言うのですか」
アンジェの目が泣きそうに潤んでいる。宝石のような
輝きを見せる銀の瞳が、今にも泣きそうだ。
泣かせた。自分が。アンジェを。
心の奥底では、やめろと警告を発している。
今すぐ口を閉じろと。が、ルークは怒りのままに
行動した。
「仲間なんかじゃないっ!! あんたは、ただ、エレナが、
精霊の巫女が必要なだけじゃないかっ!! 利害が一致
するから行動を共にしてるんだろ!!」
「っ!!」
ついにアンジェの目から真珠のような涙が零れ落ちた。
「ルーク……」
言いたい事を言いきると、頭が冷え、ルークはさっきの
言葉を後悔した。謝ろうと口を開く前に、頬に痛みが走る。
ぱあんっと凄い音がした。
一瞬、ルークは何をされたか分からなかった。
あのビショップが、いきなり頬を平手打ちしたのだ。
エレナの弟にしては、かなり気弱なビショップが。
「いつまでも、ぐだぐだぐだぐだ悩んでんじゃないよっ!!
言いたいことがあるなら、はっきり言って、やつあたり
なんかするなっ!! 一人で悩んでばっかいるから、爆発
するんでしょ!!」
ルークはビショップの気迫に負け、後退した。
ぎらぎらと怒りできらめく目は、エレナのそれと
そっくりだった。
「ってお姉ちゃんなら言うよね? ルーク」
うううっとルークが小さく唸った。
まだじんじんと痛む頬を抑えながら、彼は自分より
小さな少年に見つめられてうつむく。
「俺、初めてお前の事エレナの血縁だって思ったよ」
「へへへ、似てたでしょ。早く、アンジェに謝りなよ」
わかってるよ、とルークはため息をついた。
ビショップはいつもの穏やかな顔に戻っている。
「アンジェ、ごめん。あれ、本音じゃないから。嫌な夢を
見て、イライラしてたんだ」
「やっと言ってくれましたね。よかったです、本音では
なくて。私たち、仲間ですよね?」
さっきより晴れやかな顔で、ルークはうん、と
呟いた。いろいろ酷い事を言ってしまったけれど、
どうやらアンジェは許してくれたようだ。
ビショップも、もう怒ってはいないように見える。
彼らが仲間でよかった、とルークは心から想った――。
エレナの夢を見てしまい、眠れないルーク。
自分のが守れなかったせいでエレナは誘拐されたと
自分を責めているルークはついにビショップにエレナの
名前を出され爆発してしまいます。
アンジェに八つ当たりするルークを怒るビショップ。
大人しいビショップですが、やるときはやる子です。




