第三十一話 ~元精霊の巫女の旅立ちと精霊の巫女の救出~
いつの間にか、アンジェが彼女に近づいていた。
その目はどこか優しい。
「もういいです。あなたは休んでいてください」
「でも……!!」
「愛した人を殺すのは褒められた事ではありませんわ。ここは
私達が決着をつけます」
カトレイアは最初抗ったが、優しい声でアンジェに声を掛け
られて大人しくなった。
カトレイアは、まだ精霊王を愛している。
村の人間を殺されても、彼女は彼を嫌いきる事が出来なかった
のだった。
「アンジェも下がっててよ。ここは俺達がやる」
「いえ、兄を止めなれなかったのは私の責任です」
「僕達が、兄妹が戦うのを見たくないの!!」
「そうよ!! 恋人同士が戦うのも、兄妹同士が戦うのも褒め
られた事じゃないわ!!」
アンジェは最初一緒に戦おうと思ったらしいが、ルーク、
ビショップ、カストルに止められて断念した。
ルークは〝精霊の剣〝をしっかりと精霊王に向けている。
一番先に動いたのはカストルだった。
籠手のついた腕を振りまわし、精霊王に攻撃を見舞う。
しかし、精霊王は余裕の表情でそれをかわした。
悔しげな顔をしながらカストルが後退する。
「次は僕だよ!! 鎌鼬!!」
ビショップは双子のジェモーの力を借りて魔法を使った。
ジェモー達が心配そうに見守る中、風の刃は精霊王の白金の
マントの端だけを傷つけた。
精霊王は彼らを完全に侮っているのだろう、自ら攻撃を仕掛
けもせず嘲笑っている。
ルークは彼を睨みつけると、いきなり剣を構えたまま飛び
かかった。
「うわああああっ!!」
悲鳴じみた気合の声と共にルークは剣を叩きつける。
が、それは精霊王に軽く防がれてしまい、突き飛ばされたルーク
はその場をごろごろと転がった。
(強い……!!)
ルークの脳裏にアンジェの言葉が蘇った。
〝彼はカトレイアを生き返らせるために命をかけようとしていま
す〝
彼が強いのは、彼女のために命をかけて頑張っているから
だろう。
自分と――アンジェやビショップやカストルと――同じように。
「だけど、俺だってエレナを想う気持ちは負けない!! あんな
奴に、エレナを好き勝手にされてたまるか!!」
ルークはキッと精霊王を睨みつけた。
精霊王が本気なように、ルークも本気で命をかけて彼女を取り戻
したいと思っていた。
そのためならば、死んでも構わない。
「皆、俺に力を貸してくれ!!」
双子の風の精霊ジェモー、闇の精霊リオン、海の精霊ポワソン、
水の精霊ヴェルソー、炎の精霊スコルピオン、大地の精霊カプリ
コルヌ、根源の精霊バランス、月の精霊ヴィエルジュ、大樹の精
霊ベリエ、太陽の精霊サジテール、星の精霊カンセール、守護の
精霊トロー。
全ての精霊がルークの〝精霊の剣〝に力を与え始めた。
精霊王は嘲笑を止めて睨むようにルークを見ている。
「どうか、精霊王をお止めください」
「アンジェ様の泣き顔は見たくないしな!!」
「……仕方ねえな。力貸してやるよ」
「頑張ってくださいねルーク」
「あなたならばできます」
「やっちゃえ~!!」
「お前の気持ち信じたぜ~」
「精霊王は強いぞ。あなどるな?」
「あんたなら出来ると信じたから力を与えたんだからね
!!」
「……ルーク、なら出来る……」
「頑張りなさいよルーク!!」
「……力は貸した。後は、お前の頑張り次第だ」
「しっかりしなさいよね!!」
精霊達は応援したり叱咤激励していたりしていたが、やがて姿
が見えなくなった。
ルークの剣は全ての精霊の力で虹のように眩くきらめいている。
カストルとビショップは、すでに攻撃しようと精霊王に迫って
いた。
ルークに注目していた彼は、二人の攻撃をかわすのが遅れる。
「くらいなさい!!」
「僕達だってもう負けない!!」
カストルの拳が精霊王の脇腹をえぐる。
続いて、ビショップの放った矢が彼の足に命中して動きを鈍ら
せた。
「ルーク今!!」
「今だよルーク!!」
「分かった!!」
ルークは精霊王に向かって剣を構えていた。
精霊王は彼の攻撃をかわしそうとしたらしかったが、背後から
アンジェが羽交い絞めにした。
チッと舌を打った精霊王は、実の妹を憎悪を込めた瞳で睨み
つける。
あまりの形相に、カストルは怯えたように体を震わせたけれ
どアンジェは怯まなかった。
「離せアンジェ!!」
「離しません!! 絶対に!! たとえ、一緒に殺されたって
構いません!!」
カトレイアも、体がエレナの物でなければ同じ事をしただろう
とアンジェは思った。
カトレイアの目は決意を秘めて輝いている。
「闇を祓はらいいし力となれ!! 浄化の光、百花乱舞!!」
剣気が精霊王の背後に駆け抜けた。
彼は悲鳴のような声をあげてうずくまり、アンジェはその場に膝
をついた。
心配そうにルークが見つめて来るので、怪我がない事を示すた
めに彼女は首を振る。
痛いのは、体ではない。
「負け……た、のか……」
精霊王の口から血が垂れ落ちていた。
精霊を統べる王でありながら、恋しい人の面影を求めて穢れてしまった彼
は、浄化の力を前に敗れたのだった。
「兄さん!! 兄さん!!」
アンジェが涙を零して泣きじゃくる。
ルークも、ビショップも、カストルも思わず動きを止めてしまっ
た。
静寂の中、アンジェがただすすり泣く声が響き渡る。
と、動いたのはエレナの体にその魂を宿したカトレイアだった。
「お姉ちゃん!!」
「……カストル。二度も、私の死を見させてしまってごめんね。私
は彼と共に行きます」
カストルの声に反応した彼女は、生きていた頃と同じ姉の表情
で彼女の髪を撫でた。
カストルが目から涙をこぼし、慌ててビショップが彼女を抱き
寄せる。
「随分と待たせてしまったわね、クラウン」
クラウン、と昔の名前を呼ばれた精霊王は微かな笑みを浮かべ
た。ようやく、と発した声はカトレイア以外には聞こえなかった。
「さあ、行きましょう。今度は、一緒に」
「ああ。ずっと、この時を、待って……いた……」
カトレイアが精霊王の手を取る。
精霊王は心からの笑みを浮かべながらその手を握り返した。
そこで、ルーク達は初めてカトレイア本人の姿を見る事が出来た。
カトレイアの魂が、精霊王の魂の手をしっかりと取って天へと登っ
ていく。
魂が抜け出たエレナの体は、がくりと膝を折ってルークの方に倒
れ掛かってきた。
ルークはぎょっとなって体を受け止める。
「……るー……く?」
「エレナ!!」
今度は本当にエレナだった。
カトレイアの魂が消滅したことで、エレナの魂はまた自身の体へと
戻っていたのだ。
「よかった!! よかったエレナ!!」
「ルーク!! やっぱり来てくれたのね!!
来てくれると、そう思っていたわ!!」
ルーク達はしばらくそのままで抱き合っていた。
勝てないわね、と言わんばかりの顔でカストルがため息をつき、
ビショップはそんな彼女の体を力を込めて抱きしめていた。
ルークがエレナの宝物、百花白蓮の髪飾りを手渡すと彼女はまる
で花がこぼれるような笑顔になった――。
久々に投稿が出来ました! スピリッツは
もうすぐ終わってしまうんですが、最後まで
見ていただけると嬉しいです。
今回はルーク達の最終決戦ともいえる戦い
になりました。




