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スピリッツ! ~おちこぼれ勇者の大冒険~  作者: 時雨瑠奈
話し合う巫女
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第二十七話 ~精霊の巫女は決意する~

 エレナ=ルクウィッド達は、ショックを

隠しきれない様子で立ち尽くしていた。

 手に持っているのは、カトレイアの血の

つながりのない妹、精霊の姫だという彼女が

書いたと言う書物だった。

 今まで、彼の事なんて知ろうとさえ

しなかった。

 彼に、そんなに悲しい過去があったなんて。

皆黙っていた。騒がしいミルカでさえも口を

開かない。

 そんな中、口を開いたのはステラ=ワイズ

だった。

「とりあえず、食事を取ってしまいましょう。

このままじゃ悪くなってしまうだけだわ」

 食事が再会された。だが、誰も食べたくて

食べているのではないのは明らかだった。

 まるで砂を食しているかのような顔を全員が

している。

 いつもは怒るのに、ミルカ=ライニオは珍しく

文句を言う事がなかった。

 黙々と全員は機械的に食事をしている。

その後は、誰も部屋に帰らずに何もしゃべらずに

彼女の部屋で過ごしていた。

 カチカチと時計の針の音だけが響く。

ミルカはいつの間にか部屋の本棚に並べてあった

お菓子の本を開いて読みふけっていた。

 料理好きな彼女にとって、それは心を落ち着か

せるために必要なものだったのだろう。

 ステラは彼女と一緒にその本に見入っていて、

フォンダンショコラの写真を見つけるとそれが

食べてみたいなどと言っていた。

 少しだけミルカの表情が和らぐ。

ステラが本心からそんなことを言ったのではない

と、ミルカはきっと分かっていたのだろう。

 エレナ達もそれぞれその本を覗き込んだ。

「僕はこれが食べてみたいぞ!! 焼きりんご!!

 すっごくおいしそうだ!!」

 ジゼットがきらきらと目をきらめかせてお菓子の

写真を指でつつきはじめた。

 それは、よくシナモンを利かせた焼きリンゴの

写真だった。

 エレナ、リエンカもそれぞれ食べたい物や作り

たい物を見つけて少し笑顔を取り戻したようだった。

「私は、チーズタルトね。とってもおいしそうだわ」

 エレナの白い頬に赤味がさしていた。

脳裏に浮かぶのは、無論思い人であるルーク=

ウレイアの姿だろう。

「リエンカ、これ、食べたい……。いちじくの

コンポート……」

 リエンカが選んだのは果物を甘く煮たコンポート

だった。

 表情は変わらないものの、口元が若干緩んでいる

のが分かり、ステラがくすくすと笑いだして全員が

笑顔を見せた。

 リエンカは何で笑われているのかと可愛らしく

小首をかしげ、それがさらに全員の笑いを誘った。

 しかし、楽しい時間はすぐに終わりを告げられた。

リエンカの姿がフッとその場から消える。

 ほぼ同時に、荒々しく扉をあける音が響いた。

リエンカがいなくなるのは、あの男、精霊王がやって

くる時だけだった。

 リエンカは彼が苦手なのだ。全員の顔から血の気と

笑顔が消えた。

「エレナ=ルクウィッドは、ここにいるか」

 エレナを見つめる彼の目には狂気と喜びが混じり

合っていた。 

 ジゼットがエレナを隠すように前に出る。

ステラ、ミルカも同じように前に出た。

「エレナは、あなたには渡しません」

「あっちへ行けよ!! エレナは、絶対に連れて

行かせないんだからな!!」

 ミルカとジゼットから魔力の高まりを感じた。

彼女達は、精霊の巫女だ。魔術を操る力を、多かれ

少なかれ持っていた。ステラがエレナの手を握る。

 その手が震えていたので、エレナは彼女の手を優しく

握り返した。

 パチパチと雷が彼女達の手の中で大きくなっていく。

しかし――。精霊王が手を上げると、それは彼女達の手の

中でしだいに弱まってついにはしぼんだ。

 ぎょっとなり、二人が一歩下がる。精霊王は逆に二人

との距離を詰めた。

「な、何で……?」

「身の程を知らぬ小娘が、私に勝てるとでも?」

 ジゼットもミルカも自分の力が彼に劣っている事を

よく分かっていた。それでも、彼が誰かの力を打ち

消す事までは予想外だったのだ。

 精霊王の白い手がミルカの首にかかる。

ひやりと冷たい手に、なめらかな肌にたじろく暇

さえなかった。

 ミルカの悲鳴のような声が、彼女の喉に絡んでかき

消される。

 それに気づいたジゼットが精霊王に体当たりをした

が、見えない力に突き飛ばされて壁に叩きつけられた。

 彼はエレナを見つめながら笑って見せる。

お前が来なければ、この小娘を、殺すと。

 温かい心をなくした精霊王は相手が力ない娘だと

しても容赦などしなかった。

「やめて!!」

 エレナが悲鳴のような声をあげてステラの手を

ほどく。精霊王の手が、止まった。

 ミルカは急に空気が入ってきたため、けほけほと

せき込んでその場にへたり込んでしまった。

 よろよろと立ちあがったジゼットが彼女に近寄る。

精霊王はエレナを見つめながら立ち尽くしていた。

「彼女達に手を出さないで!! 私はどうなっても

いいから!!」

 エレナの怒りを秘めてきらめく瞳に、悲しげに

潤んだ瞳に、彼はカトレイアの姿を見た。

「いいだろう、来い」

 エレナは黙ったまま彼の手を取った。

ミルカ達が立ち上がり、彼女を止めようとする。

 しかし、精霊王が手を掲げると彼女達は全く

動けなくなった。エレナが彼を睨みつける。

「彼女たちに手を出すなと言ったはずよ」

「傷はつけていない、約束はたがえてなど

いないぞ」

 エレナは自分が死ぬ事がなんとなく分かっていた。

彼は、自分の恋人を取り戻すためにエレナを犠牲に

しようとしている、と。

「さよなら、ルーク……」

 小声で呟いた声は、誰かに届いたのだろうか――。

 ついに冒険も終盤戦になって来ました。

エレナが精霊王に誘拐され、ピンチです。

 ルーク達は、彼女を救い出す事が出来る

のか!? 次回はルーク編を書きます。

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