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スピリッツ! ~おちこぼれ勇者の大冒険~  作者: 時雨瑠奈
話し合う巫女
27/33

第二十六話 ~精霊の巫女は黒き男の事を知る~

 エレナ=ルクウィッドは、彼が何も

仕掛けて来ない事に首をかしげながら、

仲間達と共に楽しく過ごしていた。

 今日もミルカ作の料理がテーブルに

並んでいて、皆がそれを平らげている。

「うわあ、今日もおいしそう!!」

「当たり前でしょ!!」

「こらこら、二人共、ケンカをしない」

 エレナが笑顔でそう言い、ミルカ=

ライニオが頬を膨らませ、楽しげに

ステラ=ワイズがたしなめた。

 ジゼット=ブラックとリエンカは

無言で皿やコップを用意している。

 かなり楽しげな雰囲気だった。

今日のメニューはとろけるほどに

美味しいお肉を使ったビーフシチューに、

ふわふわに焼き上げたパン、デザートに

チーズスフレだった。

 エレナの表情が一瞬だけ陰る。

チーズは彼女の幼馴染で想い人、ルーク=

ウレイアの大好物なのだった。

 エレナはよく彼に差し入れをしていた

物だ。

「どうしたの、エレナ? 嫌いな物、

あった!?」

 ミルカの目が潤んだため、エレナは慌てて

何でもないという顔をすると、先陣を切って

食べ始めた。

 仲間達はそれ以上言わなかったので、彼女は

ホッとしていた。ビーフシチューも、パンも、

そしてチーズスフレも、悲しげな気持ちを吹き

飛ばすほどの美味しさで、エレナはいつの間にか

心から笑っていた。

 ステラも、ジゼットも、ミルカも、リエンカで

さえも少し口元を緩ませていた。

 食後のアップルティーをたっぷりと飲み、

すっかり満腹になった彼女達は伸びをした。

「うーん、お腹いっぱい……」

「お昼、何にしようかしら」

「もうお昼ごはんのメニューを考えているの!?」

「楽しみだな♪」

「まだ、食べるの……?」

 彼女が飛び込んで来たのは、わいわいと楽しげに

話していた時の最中の事だった。

 否、飛び込んできた、というのは表現として

間違っているだろう。

 だが、皆はそれほど驚いたためにそういう

勘違いをしていたのだった。

 少女は壁をすり抜けてエレナの部屋に入って

来たのである。

「あ、あなたは……!!」

 ステラが目を見開いた。

彼女の事を思い出したのだ。

 エレナがあの男に何かの検査に連れて行かれた

際に、この少女が彼を止めるようにと言って消えて

行ったのだった。

「今、話を聞いていただいてもいいですか?」

「ひゃああっ、お化けっ!!」

「いやああああっ!!」

「幽霊さん?」

 ジゼットとミルカかが悲鳴を上げてエレナと

ステラにそれぞれ抱きついた。

 少女の顔が悲しげに曇り、エレナが彼女達を

たしなめる。

「私は、幽霊ではありません。ですが、似たような

もの、なのかもしれませんね。私は、入れ物のない

魂です」

「み、認めたああああっ!!」

「いい加減にしなさいっ!!」

 なおも騒ぎ立てるジゼットに、ステラの雷が

落ちた。

 げんこつも落とされたため、涙目になって黙る。

「あの人を、止めてください。彼は、とんでもない

事をたくらんでいます」

「その前に聞きたいんだけど、彼は誰で、あなたは

何者なの? 教えてくれる?」

 ステラが聞くと、少女は悲しげな顔をすると口を

開いた。全員が真剣な顔になる。

「私の名前はカトレイア。生きていた頃は、精霊の

巫女でした」

『精霊の巫女!?』

 全員の声がかぶった。精霊の巫女、それはこの場に

いる全員にあてはまる事だった。

 元と現在の差はあれど。

「私の罪は、彼と、精霊王と恋に落ちた事でした。

その時は知らなかったのです。彼は、自分の素性を

何一つ話してはくれませんでしたから」

 彼女の話は、彼女達を黙らせるには十分だった。

カトレイアはそれ以上は泣きだしてしまって語る事が

出来ず、自分の村に伝わったという書物を置いて去って

行った――。


 それは、かなり昔の話。カトレイアが生きていて、

カストルがまだ幼い頃の話。

 村の娘、カトレイアは、誰からも愛される優しい

娘だった。

 彼女に言いよる男は何人もいたが、カトレイア自身は

まだ恋や愛の事など分かっていなかった。

 恋に恋するお年頃というやつだったのかもしれない。

彼女は幾度となく誘いや告白、はたまた求婚を

断ってきた。

 そんな矢先、出会ったのが彼だった。

黒い髪を腰まで垂らして優しげな顔をした彼に、

カトレイアは恋をしたのだった。

 少女向けの小説を読んだ時に感じたときめきが

彼女の胸に浮かぶ。

 彼が精霊王だなんて事、考えた事もなかった。

彼が人間ではない事は知っていたが、そんな事はどう

だってよかったのだ。

 彼もカトレイアを愛し、二人は恋人の様な関係に

なった。

「ねえ、あなたの名前は何というの?」

「……俺には、名前は無いんだ」

「名前がないの? じゃあ私がつけるね!! あなたは、

クラウン。クラウンってどうかしら?」

 それでいいと言ったので、カトレイアは彼をクラウンと

呼ぶ事にした。

 彼の雰囲気は高貴さを感じたので、王冠を現すクラウン

という名前にしたのだった。

 彼は名前を呼ばれるたびに笑顔を見せるように

なっていた。

 ただ、村を出ていってから急に消えてしまう事に疑問を

感じない訳ではなかったけれど、カトレイアはわざわざ

聞いたりしなかった。

 彼が人間でなくてもいい。彼女は、彼をそのまま愛して

いたのだった。でも、そんな幸せは長くは続かなかった。

 村に日照りが起こり始めたのだ。

畑はかわいて食物を生み出せなくなり、村に蓄えられていた

物さえもなくなりかけてきた。

 彼らはちゃんと働いていたのに、とカトレイアは思わず

にはいられなかった。さぼっていた者など一人も

いなかった。

 なのに、どうして精霊王はそんな事をしたのだろう、と。

そんなある日、村の長がこんなことを言い出した。

「精霊の巫女を、生贄を出せなければならぬ。若い娘達の

中で選ぶのじゃ」

 若い娘はカトレイアも含めてたくさんいた。

どの顔も、衝撃で青ざめていた。泣きだす者さえも出てきた。

 生贄、人柱、名前を変えても、その事実は変わることは

ない。村人のために、選ばれた娘は死ぬのだ。

「私が、精霊の巫女になります」

 誰も恐怖に震え名乗り出ない中、カトレイアが名乗り出た。

自分は、今まで幸せに何不自由なく生きてきた、だから、

今度は村人が何不自由なく生きられるように、彼らを、そして

愛する妹達を守る。私が、命をかけて守る。

 そう言いだした彼女を、村人達は全員が止めた。

母も父も祖父も祖母も村長も。生贄候補の者達までもが

止めた。

 唯一止めなかったのは、まだ幼くその言葉の意味さえも

知らないカストルだった。

 呑気に笑っていて叱られては涙をうかべている。

入れ替わり立ち替わり彼らはカトレイアを止めようとした。

 だが、彼女の意思は変わらなかった。

村人達はしまいにはあきらめたのだった。

 その日の前日、彼女はクラウンに別れを告げた。

「クラウン、悪いんだけど、私と別れてくれないかしら。

あなたとはもう付き合えないの」

「カトレイア……?」

「もう、私の前に姿を現さないで!!」

 腕を掴もうとする彼に、カトレイアは金切り声をあげて

踵を返した。

 悲しみに染まった顔を気づかないふりをして走る。

彼が、自分ではなくもっと他の女の子と付き合う事を

望んでいた。私なんかよりも、もっと他の人を、と。

 しかし、カトレイアは気づいていなかった。

彼がそこまでカトレイアに執着していた事を。

 彼は帰ったふりをして村の中にいた。

術で姿を消し、彼女を見張っていた。

彼女は綺麗な衣装をつけて舞っていた。

 自分ではない男と舞う様子を、彼は衝撃を受けながらも

黙ってい見ていた。

 彼女がお酒を飲み、そのまま棺に入れられるのも。

そこで、彼は初めて動いた。棺を開けると、彼女を

助けようとしたのだ。カトレイアは反発した。

「どうして私の邪魔をするの!? 私の前に姿を現すな

と言ったはずよ!!」

「これは精霊王が望んだ事ではない!! 彼は、そんな事

望んではいない!!」

「何故あなたに分かるの!? そんな不敬な事言わ

ないで!!」

 カトレイアは彼を突き飛ばすと、自らつけられた火柱に

飛び込んで命を絶った。

 自分が精霊王だという事を言わなかった彼の絶望は、

想像に余りある。

 彼は声を殺して彼女の亡骸を抱きしめた。

死んだと言うのに、彼女は笑顔を浮かべて安らかな顔を

していた。

 しかし、精霊王、クラウンは成仏しかけていた彼女の魂を

現世にとどめたのだった。

「カトレイアを、殺したこの村に制裁を」

「やめて!! 私は自分から死のうとしたの!! 村を傷つけ

ないで!! やめえええええっ!!」

 彼女の願いは叶えられなかった。

村は、跡形もなく焼き捨てられた。

 人も、家も、泣き叫ぶ彼女をよそに燃え尽きた。

残されたのは、幼いカストルと、用事があり家を離れていた

彼女の母親だけ。

 クラウンはカトレイアの魂を連れていくと、その場から

姿を消したのだった――。


「なんて、ひどい話」

 読み終えたエレナはそんな感想を口にした。

エメラグドグリーンの目が涙で潤んでいる。

 他の者達は、口もきけないようだった。精霊王とその恋人の

過去を知ったエレナは、なんとも言えないような顔で立ち

つくすのだった――。

 今作では悪役になっている、

彼のカストルの妹であり、彼の

元恋人のお話を書いてみました。

 彼にも、正義はあった、という

感じです。その他のシーンは

ほのぼのっぽく書いてみました。

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