第二十一話 ~巫女の妹は真実を知る~
「よせ、カストル!!」
ルーク=ウレイアの声は、カストルを止める
事は出来なかった。
彼女はただ悲しみのままに突き進む。
目から雫を零しながら、感情をそのまま目の
前にいる男にぶつける。
男は明らかに驚いた顔をしていた。
カストルに反撃しようとさえしていない。
ルークとビショップ=ルクウィッドは動け
なかった。
「何で、あいつ動かないんだ?」
「どうしたんだろう……」
カストルの構えたナイフが男の肌を傷つけた。
そのまま彼は後退し、血の匂いがあたりに散ら
ばる。
それでも彼は動かなかった。
「カトレイア……」
「えっ?」
男が小さく呟いた言葉に、カストルの動きが
止まった。
震える手からナイフが落ちる。
慌ててビショップがそれを拾い上げ、血を拭って
懐に隠した。ルークの眉がしかめられる。
「カトレイア?」
「どう……して、あんたがお姉ちゃんの名前を!?
あんた、お姉ちゃんの何なの!?」
カストルは悲鳴のような声を上げた。
籠手をした手で必死に男の腕を掴む。
男は何も答えず、何故か愛しげな視線で彼女を
見ていた。まるで恋人を見るような瞳だった。
「カトレイア……」
カストルの顔はひどく青ざめ、凍りついたかの
ように動かない。
姉と彼の間に何かが合ったのは確からしかった。
もどかしい。事実が知りたい。
自分が知っている事に何か違いがあるのなら、
それを教えてほしい。
だが、目の前にいる男は一切そんな事をして
くれそうになかった。
「あっ!!」
苛立ったせいか、手が意思とは関係なしに動き、
男の腕に拳を叩きつけていた。
男の顔が驚愕に見開かれる。
「カトレイア、まだ怒っているのかい? あの時の
ことを」
「わ、私は、カトレイア……じゃ、ないっ!!」
「また会おう。今度は迎えに来る」
訳が分からない彼らを置いて、精霊王はその場から
消えてしまった。
よろよろと立ちあがったアンジェが説明をする。
「兄は、変わりました。今は彼女が死んだ事も、理解
したくはないのでしょう……」
「どういうことなの、アンジェ!? お姉ちゃんと
彼の間に何があったの!?」
すがりつくカストルに、アンジェは悲しげな顔で
真実を告げた。
その銀の瞳は痛みで潤んでいる。
「あなたのお姉様と、私の兄は恋人同士でした」
『恋人!?』
全員の声がかぶった。アンジェは黙って頷き、
続きを口にする。
「彼女は精霊王だと知らずに兄と恋に落ち、兄は
敬遠されるのが嫌で彼女にその事を打ち明ける事は
ありませんでした」
その事を思い出すたびに、アンジェの胸はひどく
傷む。だが、言わない訳にはいかない。
彼らには聞く権利がある。
「だけれど、言っておけば彼女が死ぬ事はなかった
かもしれません。彼女は村を救うために死のうとした
のだから」
「精霊王は、儀式の事を知らなかったの?」
カストルが眉をひそめながら聞いた。
恐れ多くも精霊王である。多くの村人たちが指示も
なしにそんな非道な行為をするのだろうか。
「はい。村人たちは何の指示もなしに儀式を行いました」
カストルの顔から血の気が引いた。多くの者が、自らの
村のために娘達を犠牲にした。だが、精霊王はその事を
知らない。
村人の村のためにという願いは届かなかったのだ。
「お姉ちゃんのやったことは、無駄だったの?」
カストルは体から力が抜け、その場にしゃがみこんで
しまった。
ビショップが手を差し出したが、振り払って泣き出して
しまう。
アンジェは何も言わずただうつむいていた。
返事はなくとも、それは肯定だった。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」
彼女の姉は村のためにと命を捨てた。
でも、それを教えたのは村人だろう。
彼女の行った行為は無駄だったのだ。
「兄は、村人を呪いました。そして、自分自身も
呪った。その日から兄は変わったのです」
アンジェはただ淡々と語っていたけれど、その目は
明らかに潤んでいた。その後は聞かなくても分かった。
大事な人を失った彼は、カストルの村を滅ぼし、多くの
人の命を奪った。
「ルーク、兄が何故エレナを攫ったのか聞きたかったん
ですよね?」
唐突に話を振られ、ルークはためらった後首を縦に
振った。ビショップも真剣な顔でアンジェを見る。
彼女が語ったのは、衝撃の事実だった。
「兄は、カストルのお姉様、カトレイアを復活させようと
しています。彼女の魂をエレナの体に宿そうとしているん
です」
アンジェの声に震えが混じる。ルークとカストルの顔が
しだいに青ざめていった。
「そうしたら、お姉ちゃんはどうなるの?」
ビショップが震える声で聞いた。アンジェは首を振り
ながら彼の目を見つめて答える。
「同じ体に二つの魂は入れません。エレナは死んでしまう
でしょう」
「そ、そんな!!」
黙っていたカストルがやっと口を開いた。迷うように一瞬
黙った後、アンジェに視線を向ける。
「お姉ちゃんは、生き返る事を望んでいるの?」
潤んだ目がアンジェを見つめる。違うと言ってほしいと
心から思っているのは明らかだ。
アンジェが首を振ると、ほっとしたように立ちあがった。
「カトレイアはそんなことを望んでいません。だけど、兄は
彼女の静かに眠らせてと言う希望をはねのけました。兄は
どうしても彼女を失った事を認めたくなかったんです」
ルークは最初の頃に彼が精霊の巫女達を集めている事、
それは彼女達を助けるためではなく、自分のためにやって
いる、とアンジェが言った事の意味をやっと知った。
でも、エレナを死なせる訳にはいかない。
精霊王から、エレナを絶対に助けて見せる。
ルークは決意固め、拳を強く握り締めた――。
ついに、男の正体と、彼とカストルの
姉の関係が明かされました。彼はカストルの
姉カトレイアの死を受け止めてはおらず、
生き返らせようとしているという事に
なっています。




