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スピリッツ! ~おちこぼれ勇者の大冒険~  作者: 時雨瑠奈
話し合う巫女
20/33

第十九話 ~勇者達は精霊の姫の告白を聞く~

 精霊の姫アンジェが、せっぱつまったような

真剣な顔で、ルーク達の野宿の場所に訪ねて

来たのは翌日の事だった。

 かなり無理をしたらしく、彼女の顔は

青ざめている。

 倒れかけたので、慌ててルークが駆け

寄って抱き止めた。

 いつもは宝石のような輝きを放つ銀の

瞳は微かに潤み、少し癖の出来た同色の

髪はいつもより艶がない。

「すみません、ルーク……」

 アンジェは小さな声で謝った。

ビショップとカストルは心配そうに眉を

ひそめている。

 ルークも彼女が心配だった。

「いつもの通信でもよかったのに」

「いいえ、やっぱり、私が直接来て話さ

なければならない事だと思います……。

聞いてください」

 律儀な奴、と思ったがルークはそれ以上

口を開かなかった。

 アンジェをその場に座らせ、時分もまた

座る。慌てたように二人も座った。

 アンジェはしばらく黙っていたけれど、

やがて口を開いた。

「今回お話したいのは、精霊の巫女を攫った、

あの男についてです……」

 三人は身を乗り出して話に聞き入った。

それが、今の三人が一番知りたい事だった。

 彼は一体何者なのか、それをルーク達は

知りたかった。

 アンジェは心を落ち着かせると、決意を

秘めた目で言い放つ。

「あの男は、精霊王であり、私の兄です」

「ええええええっ!!」

 叫び声をあげたのは、ルークだけだった。

ビショップはただ黙っていて、カストルは

青ざめたまま固まっている。

「なあ、冗談だよなあ、あいつがアンジェの

兄だなんて!!」

 ルークは動揺のあまりかわいた笑い声を上げ

たが、アンジェはしっかりと首を振った。

 ビショップがやっぱりね、と声をこぼす。

「どういうことだよ、ビショップ!? お前知って

たのか!?」

「兄だって事は知らなかったけど、大体は近しい人

かなとは思ったよ。二人の態度を見てたらなんと

なく、ね」

 ルークは黙り込んでいるカストルに目をやった。

瞬時に、その目が大きく見開かれる。

 彼女は震えていた。拳を痛いくらいに握りしめて、

震えていた。目には大粒の涙。

「人殺し……」

「カストル?」

「人殺し!!」

 カストルの口から飛び出したのは非難の声だった。

アンジェは悲しげな顔をしながら黙っている。

 彼女はカストルの反応を予想していたらしい。

「兄妹ですって!? じゃあ、何で止めなかった

のよ!! 何人も死んだわ!! 村の人達が

何人も!!」

「カストル、よせよっ!!」

 ルークが彼女を羽交い絞めにしようとしたが、すぐに

振り払われてしまった。

 カストルはアンジェの頬をひっぱたく。

アンジェはよろめき、その場に倒れ込んだ。

 色白の頬が真っ赤に腫れ上がっていた。

それを見ていたら、ルークはカッとなってつい

怒鳴ってしまう。

「カストル!!」

「いいのです、ルーク……。私は殴られて当然の

事をしたのです。私は、兄を止めることができ

なかった……」

 苦痛に歪むその顔は、頬の痛みとは関係のない

痛みに苦しんでいた。それは彼女の罪。

 大勢の人を兄に殺させ、止める事すら出来

なかった妹の罪。

「わ、私、絶対にあなたたち兄妹を許さないん

だからっ!!」

 カストルは目から涙をこぼすと、ルークが

止めるのを無視して走り去ってしまった。

 その後を、ビショップが追いかけていく。

「アンジェ……。何で言ってくれなかった

んだ?」

 アンジェは一瞬体を硬くしたけれど、ルークの

顔が責めているのではないと分かり、ためらいがちに

言い返した。

「私は臆病な愚か者です。責められたくなかった……。

責められて当然なのに、責められたくなかった」

 こらえきれなかったらしく、アンジェは目から

涙をこぼして泣いてしまった。

 ルーク達は、アンジェにとって初めての仲間であり、

友達だった。初めて自分を精霊の姫としてではなく、

ただの「アンジェ」として仲良くしてくれた人達。

 それを失いたくはなかった。

「馬鹿。責めるわけないだろ? ビショップは

責めた? カストルだって、本気で言ってるわけ

じゃない。つい混乱して言っちゃっただけだよ」

 ルークは珍しく怒っていた。

痛くない程度にアンジェの額を小突く。

 その顔は、もう不安な顔をしていた子供の

物ではなく、どこか凛々しさを秘めていた。

「ルーク……」

 アンジェはルークに抱きつき、子供のように泣き

じゃくった――。


「待って!! 待ってよ、カストル!!」

「ついてこないで!!」

 カストルは後を追ってくるビショップに金切り

声をあげた。

 今は一人になりたかった。姉の、死んでいった

村人の敵。それがアンジェの兄だった。

 信じられなくて、信じたくなくて、頭が混乱

していた。

 思わず思っても見ないセリフが飛び出して

しまったくらいだ。

 「人殺し」だなんて酷い事を言った。

殺したのはアンジェではなく、彼女の兄だと

いうのに。

 ビショップは息を切らせながらも、必死で

着いて来ていた。

 それが今のカストルには嬉しいどころか、

苛立ちを感じさせている。

「だって、放っておけないんだよ」

「放っておいて!! 余計なお世話なのよ!!」

 確かに誰かが追ってきてくれて、嬉しいという

気持ちもあったが、素直になれなかった。

 それが、密かに想いを寄せたルークであったと

しても、きっとカストルは追い払おうとしただろう。

「逃げちゃ駄目だよ。最後まで、アンジェの話を

聞こうよ。確かに、アンジェのお兄さんは村の人

達を殺したかもしれない。だけど、何か理由

が――」

「うるさいっ!!」

 カストルは籠手をした手を振り回した。

拳はビショップの頬をかすめ、その衝撃で彼を

転倒させる。

 ビショップが痛みに顔をしかめるのが見えて、

しまったと思ったけれど口は止まらなかった。

「うるさいうるさいうるさいっ。村の人達が

悪かったって言うの? お姉ちゃんが何か

悪かったって言うの?」

「違う!! そんなこと言ってない!!」

「同じことよ!!」

 ビショップの目にどこか不穏な色が走った。

眉はつりあがり、拳に力がこもっていた。

「分からず屋!!」

「きゃっ!!」

 いきなり頬を叩かれ、カストルは悲鳴を上げて

倒れ込んだ。

 痛みよりも、驚きの方が勝っている。

ビショップがそんな事をするとは全く思わ

なかった。

 自分の拳が痛かったらしく、ビショップは

再び顔をしかめてから口を開く。

「自分だけが正義だと思わないで。僕だって、

ルークや自分が正義だと思ってた。だけど、

精霊王だって自分が正義だと思ってるんじゃ

ないの? 彼には何も事情がないっていうの?」

 ビショップの言葉は正論だった。

カストルは黙り、自分の事ばかり考えていた自分が

恥ずかしくなった。

 精霊王の事なんて、ちっとも考えた事がなかった

のだ。

「ビショップ……。そうだよね、あたし、アンジェ

達のところに戻る」

「うん……一緒に行こう」

 差し出された温かい手を、カストルは掴んで立ち

上がった――。


 一方、アンジェはすでに泣きやんでいた。

目は赤くはれ上がり、痛々しいほどである。

 髪もぐちゃぐちゃでところどころ濡れていた。

「なあ、アンジェ? 精霊王は、何でエレナを

攫ったんだ? アンジェは知ってるんだろ」

「あの男は、カストルのお姉さんの……」

 アンジェが言いかけた、その時だった。

雷鳴が轟く。いきなり雷の刃に貫かれ、彼女は

その場に倒れ込んだ。

 背後には、精霊王その人が立っている。

ルークはさっ、と恐怖で青ざめた。

 体が震え、アンジェを抱き起そうと立ち

上がったのに何も出来ない。

「にい……さん……」

「余計なことを話されては困るな」

「お前っ、アンジェになんてことをするんだ!!

 たったひとりの妹なんだろ!?」

 震える声でルークは叫んだ。今すぐ逃げたいと

思う欲求を振り払い、アンジェを抱き起す。

 しかし、精霊王はルークの事を見もしなかった。

「お前には関係のないことだ」

 そこに、タイミング悪くビショップとカストルが

帰って来てしまった。

 ぎり、とかみしめた歯が音を立てる。

「精霊……王……!!」

「お姉ちゃんの敵っ!!」

 ビショップが口元をおさえて後ずさる。

カストルは隠しておいたナイフを構えると、精霊王に

向かって行った。

「カストル、やめろ――――っ!!」

 ルークの制止だけが、むなしくその場に響いた――。

 とうとうアンジェと精霊王の関係が

分かります。突然の告白に、精霊王を

憎んでいるカストルは人殺しと絶叫する。

 ビショップの説得で落ち着いたものの、

精霊王が目の前に現れたのに気付き

カストルは彼に向かっていき――!?

 次回はエレナ編です。

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