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スピリッツ! ~おちこぼれ勇者の大冒険~  作者: 時雨瑠奈
精霊の巫女誘拐事件
2/33

第一話 ~落ちこぼれ勇者、誕生~

 長い茶の髪を持つ頭を震わせながら、ルーク=ウレイアはさっ

きまで幼馴染おさななじみのエレナ=ルクウイッドがいた祭壇を、茫然としな

がら見つめていた。

 同色の瞳は今にも泣きそうに潤んでしまっている。

これは夢だと思いたい気持ちにかられたが、さっきまで彼女と触

れ合っていたまだ温かい手がそれを否定する。

 ルークはこれが現実だと認めるしかなかった。

「エレナ……」

 エレナは精霊祭の最中に、いきなりさらわれたのだ。

ルークの目の前で。何も出来なかったというくやしさでルークは唇

をかみしめた。

「ルーク!! お姉ちゃんが!! お姉ちゃんが!!」

 彼女の弟、ビショップが泣きながら抱きついて来た。

姉と似た色のエメラルドグリーンの瞳からぼろぼろと涙の雫が

こぼれている。

 いつもはきちんと整えられているはずの金の髪が、くしゃ

くしゃに乱れていた。

 自分も泣きたくなる気持ちをこらえ、ルークは彼を優しく

抱き寄せてその背を軽く叩いてやった。

「落ちつけよ、大丈夫だって」

「なんなの、あの人! お姉ちゃんはどこにつれてかれたの

!?」

「俺が知るわけないだろ!!」

 イラ立ってつい怒鳴ってしまったルークは、祭壇の真ん中に

何かが刺さっているのに気付いた。

 剣だ。何故か銀色に輝く剣がそこにはあった。

どうして、こんな物がここにあるのだろう、とルークは

思う。

〝その剣を取りなさい〝

 きん、とルークの頭に痛みが走った。

透き通るような綺麗な女性の声が、いきなり頭の中で

したのだ。

〝ルーク、その剣を取るのです。精霊の巫女のために〝

「だ、誰だよ、あんた!! なんで俺の名前を知って

るんだよ!! っていうか精霊の巫女ってなんなん

だよ!!」

 ルークは頭が割れそうなほどの痛みに耐えかねて叫

んだ。

 しかし、村人達は奇妙なものでも見るような目で

ルークを見ていた。

 それが聞こえるのはどうやらルークだけらしかった。

ビショップさえも怪訝けげんな様子を隠そうともしない。

 ルークは仕方なく、剣に手を添えて引き抜こうと

した。バチバチと火花が飛び散る。

 焼けつくような痛みが手に走った。

まるで、熱を持った石炭を掴んだかのような痛みだった

が、ルークはエレナのためならばと必死で耐える。

 十分くらいそうしていただろうか。

ようやく剣が抜け、ルークはひっくり返って祭壇から落

ち、背中を強く打った。

 いてて、と剣を握ったままうめいていると、再び声が聞

こえた。

〝よく頑張りましたね、ルーク。ありがとう……〝

 ピシッと祭壇にヒビが入った。そのままヒビは広がっ

ていき、さらに半分に割れる。

 その中から、光り輝く十三体の球体と、神々しい光を

放つ美しい少女が現れた――。



 宝石のように鮮やかな光を放つ、長い癖のある銀の髪

と瞳を持つ少女はふわり、とルークの前に降り立った。

 そのあまりの美しさにルークがつい見とれてしまう。

「よくぞ、封印を解いてくださいました、ルーク。私は

精霊の姫、アンジェ。この祭壇に、長気に渡って封じら

れていたのです」

「精霊って、お伽噺とぎばなしじゃないのか?」

「いいえ、違います。精霊は本当にいます。ここに

……」

 アンジェが柔らかく微笑んで手で指し示すと、十三体

の球体がさらに眩しい光を放ち、それぞれ姿をかたどった。

 全員ではないが一部の精霊達が一斉ににらむようにルー

クを見たので、いきなり睨まれた彼はたじろいだ。

「勇者・ルークよ、精霊の巫女・エレナを助けるため

には、ここにいる十二精霊に力を示さなければなりま

せん」

「勇者!? 俺が!?」

『おちこぼれのルークが!?』

 ビショップ以外の子供達が、ギョッとしたように言っ

た。

 大人達は何も言わないが、一様に驚いたような顔を

している。

「駄目じゃ!! ウレイアの小僧こぞうなんぞに、エレナを

救える訳はない!! 選ぶなら他の者にしてくれ!!」

 エレナの祖父のエルクが、銀色に染まった髪を振り

ながら怒鳴どなるようにさけんだ。

 ルークは悲しそうな顔になり、ビショップはキッと

祖父を睨む。

駄目ダメです。エレナを助けるのは、ルークです。ルー

ク以外には成し得ません。これは決められた事なの

です」

 が、アンジェはそれをすっぱり切り捨てた。

再びエルクが怒鳴る。

 切羽詰ったような顔に、さすがに祖父に反感を持っ

ていたビショップも口をつぐんだ。

「こんな落ちこぼれに何が出来る!!」

「ルークは落ちこぼれではありません。さっき、あな

たも見たでしょう? 当たらなかったものの、さっき

の男にルークが攻撃したのを」

 もう祖父は何も言えなくなった。

エレナに想いを抱いていた者達が不満そうな顔をした

が、やはり何も言わない。

 エレナを救い出す気持ちはあっても、あの男に自ら

挑みたいという気概きがいは彼らにはないようだ。

「ルーク、こちらに……」

 アンジェに言われ、ルークはあわてて近づいた。

十二精霊達がぞろぞろと集まる。

「炎の精霊・スコルピオン」

「はいはーい、あたしがスコルピオンちゃんでーす

!!」

 赤い球体に入った可愛かわいい少女が明るく言った。

花のような真っ赤なドレスを身にまとい、小柄な体格

をしている。

 赤い髪を二つに結い分け、炎のような瞳を輝かせて

いた。

「水の精霊・ヴェルソー」

「ヴェルソーと申しますわ」

 すました様子で、青い球体の綺麗きれいな女の子が頭を下

げる。

 ほっそりした手足をしており、涼しげな青い衣服

を着ていた。

 癖のある長い青の髪と、澄んだ青の瞳が特徴的だ。

「大地の精霊・カプリコルヌ」

「おいらがカプリコルヌだぜ~」

 呑気な様子で茶色の球体の少年が挨拶あいさつした。

ちょっとぽっちゃりとしていて、土色のズボンと上

着を着ている。

 土を連想させるような髪はつんつん立っており、

同色の瞳は多分に悪戯イタズラっぽそうな色がある。

 精霊にも、いろいろな奴がいるらしい。

だが全てに共通しているのはほとんどが、ルークを

歓迎していないらしい、という事だった。

 楽しそうな様子なのは、単に自己主張が強いだけ

のようだ。

「風の精霊・双子のジェモー」

「ジェモー(姉)です。よろしく」

「ジェモー(妹)だ。文句ある奴はかかってこい

!!」

 黄色の球体の、大人しそうな少女と、男勝りな少

女がそれぞれ名乗る。

 姉だけは、ルークに笑いかけてくれた。

黄色いふんわりとした衣装を両方着ているが、妹

は服と同色の髪が短く、姉は髪が長いのが特徴だっ

た。

 黄褐色の瞳はどちらも大きく可愛らしい。

『十二精霊』なのに十三人いるのは、双子が混じっ

ているからのようだった。

「根源の精霊・バランス」

「バランスじゃ。まだまだ若い者には負けんぞ」

 白い長い髪と髭を持つ、おじいさんのような姿の

精霊がかっかっか、と笑った。彼は白い球体だ。

 白いローブのような衣服を着ていて、手足は年寄

りらしく細いがいささか筋肉質で強そうだった。

「月の精霊・ヴィエルジュ」

「ヴィエルジュよ。あんたなんかに、覚えてもらわ

なくていいからね」

 じとり、と冷たい目で銀色の球体の少女が毒づく。

銀色の衣服を着た、アンジェに少し似た女神のよう

な美しさだったがどうやら口はかなり悪いようだ。

 絹糸のようになめらかな銀色の髪を右側だけ三つ

編みのようにして垂らしており、冷たい銀の瞳を持

っている。

 はあ、とアンジェがため息をついた。

「太陽の精霊・サジテール」

「サジテールだよ!!」

 目をきらきらさせて金色の球体の少女が叫ぶ。

ぴかぴかと光り輝く金の上下に分かれた衣装を着て

いる。にこにことルークの方を見ていた。

 中には、ルークの事を気に入った者もいるらしい。

まさに太陽のように鮮やかな、短い金の髪と瞳が印

象的だった。

「大樹の精霊・ベリエ」

「……ベリエ。よろしく……」

 緑色の球体の少年がぺこりと頭を下げる。

カプリコルヌと似た、緑色の衣装を着ていたけれど、

彼よりほっそりした体格だった。

 ルークが気に入らないというよりは、どことなく

おびえているように思えた。

 鮮やかな短い緑の髪と、潤んだエメラルドのよう

な瞳が愛らしい。

「闇の精霊・リオン」

「けけけっ!! リオンだぜ」

 黒い球体の少年が気味悪く笑った。

黒い衣服を着ているので、絵本で見た悪魔みたいだ

とルークはこっそり思った。

 短い黒髪と漆黒の瞳がよく似合う。

「海の精霊・ポワソン」

「よろしく~。私~ポワソン~」

 のんびりとした口調で水色の球体の少女が言う。

水色のふんわりとしたドレスがよく似合っていた。

 どうやらルークの事は気に食わないらしく、ひそ

に睨んでいた。

 水色の髪をポニーテールに結い、同色の瞳は静か

だけれど少し冷たい印象だ。

「星の精霊・カンセール」

「カンセールだ」

 無愛想な感じで緋色の球体の少女がつぶやいた。

緋色ひいろの衣服を着ていて体格はしっかりしている。

 スコルピオンより鮮やかな緋色の髪と瞳は綺麗だ

けれど少しまぶしい、とルークは思う。

 目が痛くなるような色だった。

「守護の精霊・トロー」

「トローだよ。あんたが勇者なんて認めないから

ね」

「トロー! 口をつつしみなさい!!」

 透明な球体の少年は、べえっと舌を出しながら

喚き立て、アンジェにぴしゃりと叱られた。

 彼は唯一精霊の中で球体の色の服を着ていなかっ

た。薄い白の服を着ている。

 まあ透明な服だと意味がないからだろう。

白い長い髪を二つに結い分けており、瞳は黒かった。

「これで全部ですわ、ルーク」

「わかったよ、俺、旅に出る!! エレナを絶対に

助け出す!! 精霊にだって認めさせてやるさ

!!」

 その言葉に、大半の精霊が怒りを示し、ジェモー

(姉)、サジテール、ベリエがぱちぱちと拍手はくしゅした。

「そのいきですわ、ルーク!! 私も協力します、

絶対にエレナを取り戻しましょうね」

 ガッツポーズをするアンジェ。ルークは笑顔で

頷いた。

 が、エルクがまた口を出して来たのでその顔が

落ち込んだ。

「ルークだけじゃ心配じゃ。誰か、他の者も行か

せてくれんか」

 どうやらルークに行かせる事は諦めたようだ。

でも心元ないと思ってしまっているのだろう。

 ルークと同じ年の少年達が、そうだそうだ、と

騒ぎ出した。

 キッとアンジェ言った全員を睨みつけて言う。

「駄目です。同行人は認めません。……ですが、精

霊の巫女の血縁者ならば認めましょう」

 ぱあっとビショップの目が輝いた。

祖父を押しのけるようにしてルークの前に出る。

「じゃあ、僕もルークの助けになるよ!! 僕、

剣術は自信ないけど、魔法と回復術なら得意だよ」

「よろしくな、ビショップ!!」

 手を取り合う二人。と、ビショップが祭壇の

そばに落ちていた髪飾りに気付いた。

 白く輝く髪飾りは、いつも姉の髪に飾られて

いた物なので彼もよく覚えていたのだ。

「あっ!! これ、百花白蓮フルール・ブランの髪飾りだ!! お

姉ちゃんの宝物!!」

「なんでこれがエレナの宝物なんだよ?」

 ルークがきょとん、としたように聞く。

ビショップの目が大きく見開かれた。

 信じられないとその目は明らかに言っている。

「ルーク、覚えてないの!? これ、四歳くらい

の時にルークがくれたものだって、お姉ちゃん言

ってたよ」

 ルークは白く輝く髪飾りを拾い上げた。

エレナの怒った顔を思い出す。

 『ルーク、これの事忘れたの!?』と叫んだ

エレナ。

 今のビショップの顔に似た驚きの表情と共に。

その顔は、失望と怒りが溢れていた。

 よく分からないけれど、ルークは小さく胸が痛

くなるのを感じた。

「でも、なんでエレナが俺のあげた奴を大事に持

ってるんだろ。こんなの安物だぜ。まあ、綺麗

ではあるけど」

「ルークって馬鹿だね」

 ビショップがあきれたように吐き捨てた。

いつもは明るく輝いている瞳もなんだか冷たく見

える。

 ムッとなってルークは睨んだ。

「ば、バカってなんだよ!!」

「ん~。じゃあ訂正する。かなり鈍いね」

「……そんなに殴られたいかよ、ビショップ」

 ルークの声がやや低くなった。

ギクッとなった彼は、素早く逃げだした。

 待て、とルークが追いかける。

二人はこうして旅立った。精霊の姫だという少女

と、十三名の精霊達と共に――。



 その頃、誘拐ゆうかいされたエレナは――。

どこだか分からない城に幽閉ゆうへいされていた。

 縛られてはいないが、扉には鍵がかかっていて

開かない。

 窓から出ようにも、かなり高い所にある部屋らし

く、それは無理ムリだと思えた。

 無理に出ようとすれば、大怪我ケガか死は免れない

だろう。

 エレナは舌打ちした。魔術でも使ったのか、彼

女を誘拐した男はこの部屋へと転移したのだ。

「なんなのよ、この部屋は!! ここ、どこなの

よ!!」

 エレナは髪飾りがあった位置に手をすべらせ、気

を落ち着かせようとした。

 が、そこには何もなかった。

ただ、やわらかい金髪があるのみだ。

「髪飾りがない!! 落としたんだわ、あの時……」

 エレナのエメラルドグリーンの目が潤ん(うるん)だ。

彼女はそのまま膝を抱えると、小さな声ですすり泣

いた。

「助けて、ルーク、ルーク……」

 いつもの明るいエレナを知っている者が見たら驚

きそうな、そんなか細い声だった。

 体が微かに震えていて、目からぼろぼろと涙の雫

が垂れ落ちる。

 エレナは一人愛する人を想い、震える体を抱きし

めながら泣いていた――。

 落ちこぼれだと言われ続けたルーク。

そんな彼は、精霊の姫だと名乗るアンジュ

に促され精霊たちに自分を認めさせ旅に

出ることを決意します。

 

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