第十八話 ~勇者は巫女の妹の秘密を知る~
ルーク=ウレイアは、今ピンチだった。
目の前には巨大な鳥、ロック鳥。
頭に響くのは、精霊の姫アンジェの声。
そして、へたりこんでいるカストルは、
一歩も動けない。
「何で今なんだよ……」
どうして俺がこんな目に、と思い
ながらルークは涙目になっていた。
自分が、こんな目に遭うような
悪事を働いたのだろうか。
前世に悪人だったとでも言う
つもりなのだろうか。
〝どうかしたのですか?〝
再びアンジェからの通信があった。
鈍い痛みが頭を支配する。
ルークは唇を噛んでそれに耐えた。
茶色の瞳から涙がつい滲んでしまった
のは、仕方がないだろう。
「アンジェ!! 今じゃないといけ
ないか!? 今ピンチ!! 食われ
そう!!」
〝はい? ――きゃあああっ〝
一瞬、きょとんとしたような声
だった。一瞬の間があり、ルークの
目を通して光景を見たらしい
アンジェは悲鳴を上げた。
さらにルークは痛みを感じて後
ずさる。
ロック鳥の鉤爪が、ルークの肩を
傷つけて血が滴り落ちた。
〝ああああああああ!!〝
「アンジェうるさい!! ちょっと
落ち着いてくれよ!!」
悲痛な声ががんがんと頭に響いてくる。
もしかしたら、アンジェは泣いているのかも
しれない。
そうも思ったが、今は彼女の事を気にかけて
いる暇も余裕もルークにはなかった。
〝ごめんなさい、ルーク……出直します……〝
そこで彼女の通信は一方的に切られた。
何なんだよとルークは苛立たしげに思う。
だが、ここでじっとしている訳にもいか
なかった。
このままでは殺されるのも時間の問題
である。
「うわあああああっ!!」
ルークはロック鳥の方に向かって行った。
力を込めて剣を振りおろす。
羽毛に覆われた足に、わずかな傷が刻まれた。
攻撃はこれで終わりではない。
ルークは力を高めた。……生まれて初めて
使えた力。剣気を込めた一撃を放つつもり
なのだ。
「食われて……たまるかよっ!!」
剣から光の塊が放たれる。
それは、この前使った時よりも確実に大きかった。
良く見ると、精霊達が力を増幅させている。
彼らは最後に、心からの笑顔をルークに向けて
消えていった。
(皆……ありがとう!!)
ロック鳥に攻撃が命中する。
この世の物とも思えぬほど大きな絶叫が響き渡った。
だが、奴は大怪我をしてはいたものの、まだ
生きていた。
……完全に怒っている。ばさばさと翼をはばたかせ、
こちらに体当たりをくらわせてきた。
ルークはそれをよけて石を投げつけ、魔物の注意が
それた瞬間、カストルを抱き上げて駆け出した。
ロック鳥はルークを逃がすつもりはないらしく、
向きを変えて襲いかかった。
ルークはカストルを抱きしめてうずくまる。
覚悟を決めて目を閉じる。だが――。
いつまでたっても痛みはこない。
ルークは目を見開いて振り向くと、驚いたように
固まった。
そこには、大地の精霊カプリコルヌがいたの
である。土色の上着とズボンを身にまとった
少年の姿をした精霊は、珍しく真面目な顔
だった。
開いた地面が、大きな鳥を飲み込んでいく。
ロック鳥は地面を鉤爪でひっかいたが、そんな事で
あらがえる訳はない。
完全に姿は地面の下へと消えていった。
きっと土を連想させる瞳がルークを見たので、
ルークはためらったように彼を見つめ返す。
「カプリコルヌ……?」
「あんたにすべてをかけるぜ~。俺の力貸して
やる~。自分を犠牲にしても女の子守る気持ちに
魅かれたぜ~」
ちかっ、と茶色い石、〝プリュネル〝がルークの
銀色の剣で輝いた。……これで石は五つである。
「ありがとう、カプルコルヌ……」
「礼はいらねえぜ~」
ルークはにっこりと笑うと、カストルを抱き直した。
カストルはいつの間にか気絶していたらしかった。
ぴくりとも動かない。一言も発さなかったのは、
それが原因だったのだろう。
カプリコルヌはいつの間にか姿を消していた。
「カストル、起きろよ……」
ルークが彼女を起こそうと声をかけた、その時
だった。
「……ちゃん、えちゃん……おねえちゃん……」
すすり泣くような声が彼女の口からもれた。
それは驚くほどか弱くて、儚げな声だった。
「どうして死んじゃったの? どうして私を置いて
行ったの……」
責める声はどこか力がなく、無意識に目から涙が
あふれていた。
それに反比例するように、ルークにしがみつく
手はかなり強い。
ルークは何も言えずに立ち尽くした。
カストルはいつも明るく見えた。
ちょっと悲しい顔になる事もあったが、普段は
とても明るくてうるさいくらいだった。
だが、それは演技だったのだろうか。
「村は助からなかったのに……あいつの、精霊王の
せいで……」
最後の言葉に、ルークはぎょっとなった。
カストルの村が破壊されたのは、精霊王のせい?
カストルと精霊王に何の関係があるのだろうか。
ルークは訳が分からなくなった。
それに、精霊の姫と、精霊王はどういう関係なの
だろう。
ひょっとして、兄妹!? もしくは家族!?
そう想定してしまい、ルークは血の気が引いた。
カストルと会った時アンジェが暗い顔だったのは、
そのせいだったのだろうか。
今日、アンジェは何も言おうとしていたのだろうか。
大事な話ではなかったのか?
アンジェを怒鳴りつけた自分を、ルークは責めたく
なった。と――。
「ルーク!!」
駆け寄ってきたのは、ビショップだった。
服は何故かボロボロで、怪我さえもしていた。
金の髪はくしゃくしゃでエメラルドグリーンの
瞳は潤んでいるようだ。
何故、彼がここにいるのだろうか。
「おい、どうしたんだよ、お前!!」
「飛び降りたんだよ。怪我もするでしょ?」
「バカ!! お前弓は!?」
ルークはいつもの調子で怒鳴りつけ、ビショップの
目にさらに涙を浮かばせた。
ビショップは首をふり、うなだれたように口を開く。
「弓は壊されちゃった……。だから、必死でルーク達を
追って落ちたんだよ。あのままじゃ、殺されてたもん」
「そっか……ごめん、何も知らないのに文句言って」
カストルの目がうっすらと開いたのは、その時だった。
ぼうっとさまよっていた視線が、ルークに止まるや目を
見開いて絶叫する。
「ルーク!? きゃあっ!! 何してるのよ!!」
どんっとつきとばされ、助けてやったのにとルークは
呻いた。カストルの顔がどんどん紅くなっていく。
「お前が気絶してたから、助けてやったんだろ!!
あのままじゃ死んでたぜ!!」
「なにもお姫様抱っこすることはないでしょっ!!」
「あの状況で何も考えられなかったんだよっ!!」
ぎゃあぎゃあと言い合う二人を、ビショップはどこか
ムッとしたように見ていた――。
ピンチに陥るルーク達を、今まで
ルークを信頼していなかった精霊の
一人が助ける、という感じのお話に
なりました。カストルの秘密が
分かるお話です。




