第十六話 ~精霊の巫女の妹は勇者に恋をする~
ルーク=ウレイアは、カストルと共に
歩いていた。
洞窟内はかなり暗い。それでも、明かりが
あるので幾分マシな方だった。
火を点しているのであまり寒くはない。
「カストル、疲れてないか?」
ルークはすぐ後ろを歩いている少女を振り
返った。
彼女はすぐさま首を振る。カストルは、ルークの
行動の一つ一つに頼りがいがある事を感じていた。
今は二人だけである。カストルは他の異性に
そんな事を感じた事はいまだかつてなかった。
と、くぅー、と可愛らしい音が聞こえた。
カストルのお腹からである。彼女は顔を赤らめた。
「ちょっと休むか? 俺も腹減ったよ」
笑顔を向けられたが、カストルは恥ずかしさの
あまり顔も上げられなかった。
ルークは彼女の気持ちが分かっているので、特に
何も言わずにポケットをたぐっている。
チーズケーキが一切れ出てきた。昨日、夜食として
作った残りだった。
今すぐにでもかじりつきたい欲求をこらえ、ルークは
カストルの前につきだした。
「ほら、これでも食えよ。少しは足しになるだろ?」
カストルは途端に笑顔になった。苦笑しつつも、
ルークがさらに彼女に近づける。
「ありがとね、ルーク!! いっただきまーす!!」
カストルはかすめとるようにそれを取ると、大きな
口を開けてケーキにかじりつこうとした。
だが、その手が寸前で止まる。
潤んだ瞳が、ルークの姿を映した。
「ルークの分は?」
「ないよ。一個しかないんだ」
「じゃあルークが食べなよ」
「俺がお前に渡したんだろ!! お前が食え!!」
しばらく、彼らの舌戦は続いた。お前が食え、あんたが
食えと何回もやり返す。
そして口の中がかわき、さらに空腹をつのらせてから、
二人の戦いは終結した。全く無駄な争いである。
「は、はらへったああああ……」
「おなかすいたよおおお……」
結局、二人はケーキを分け合って食べ、少しお腹を
満たした。
少ししか食べられなかったが、罪悪感を感じるよりは
その方がよかったとも言えた。
二人は食べ物を求めて歩き出した。少し楽になったので、
どちらからともなく歌を歌い始める。
ルークも自分の歌が下手であることを忘れたかのように、
調子っぱずれな声で歌っていた。
彼らはいつになく上機嫌だった。だが――。
四時間後、その機嫌は一気に下落するのだった……。
「なんっで、ひとっつも食べれそうなものがねえんだよ
おおおおおっ!!」
ルークの叫び声が洞窟内にこだました――。
ルークとカストルは、始めは笑顔で探していた。
毒キノコを見つけ、ちょっと眉をしかめながらも、
それでも探していた。
けれど、洞窟内には食べれそうな物が全然なかった。
ルークが昨日食べたチーズの匂いのする毒の実や、
毒キノコ、雑草しかない。
彼らはすっかり気落ちしていた。
無理もない事と言えた。だって、二人は少しの食料
しか口にしていないのだから。
お腹はすいたし、疲れたし、ルークたちは明らかに
うんざりとした様子だった。
「カストル、ちょっと外出るか? 魔物でも倒して
肉かなんか手に入れようぜ」
「うん……」
カストルに異論はなく、彼らは洞窟から出て
歩き出した。新鮮な空気が二人を包み込む。
少し機嫌をよくしてルーク達は歩き出した。
「手分けして探そうぜ。何かあったら、大声で
呼べよな」
「わかってるー」
ルークとカストルは一旦分かれる事に
した――。
ルークは腹を鳴らしながら歩いていた。
実はさっき食べた時、カストルに多く上げていたの
である。
カストルより、食べた量が少なかったのだ。
「腹減ったな、出てこい、魔物!! 肉にして
やる!!」
ルークは銀色にきらめく剣を構え、大声を上げた。
と、それに呼応するように、魔物の声が聞こえてきた。
ズシンズシンと地面を震わせ、こちらに足音が
近づいてくる。
ひっ!とルークは息をのんだ。
……でかい。明らかにでかい。肉にするどころか、
こちらが肉にされる。
ルークの顔が恐怖で青ざめ、たらりと背中には
冷や汗が光った。
それはアンズーという怪物だった。
顔がライオン、体がワシである。ぎらり、と肉食獣
特有の目がきらめいた。
ルークの額を、汗の玉が伝わって行った。
手が震えているのが自分でもわかる。
「ギャアアアア!!」
「うわああああっ!!」
鉤爪の攻撃を、ルークは間一髪でかわした。
もう戦うどころではない。
食料にされないように逃げるしかなかった。
と――。
「きゃああああっ!!」
「カストル!?」
今にも泣きそうな悲鳴が響いてきたので、ルークは
慌てて彼女の声がした方へ駆けだした。
カストルは、へたり込んで動けない様子だった。
「あ……あああ……あああああ!!」
彼女の前にいるのは、ロック鳥だった。
さっきのアンズーよりも巨大な姿だった。
象をさらって食べる、とも言われているのだ。
「カストル!! 逃げろ!!」
ルークは爪の攻撃を剣で跳ね返した。
ロック鳥は、いきり立って彼に狙いを絞って攻撃して
くる。
ターゲットが、完全にカストルからルークに変更
されていた。
「逃げろったら!! 殺されるぞ!!」
ルークの方も泣きそうになっていた。
爪の攻撃は完全にかわす事は出来ず、肩に傷がいくつか
刻まれ、血が垂れ落ちている。
それに、彼の後ろにはカストルもいるから、うかつに
動けないのだ。
〝……く。ルーク……聞こえますか……〝
「なんでこんな時に!?」
ちょうど間の悪い時に、アンジェからの通信が合った。
カストルは役に立たない。ルークは頭の痛みにたえながら、
剣を持つ手に力を込めるのだった――。
今回はルークサイドです。
カストルとルークの交流を描いて
見ました。あ、ビショップは多分
次の次くらいで合流出来ると
思います。
次回はエレナサイドです。




