第十三話 ~精霊の巫女の想い~
エレナ=ルクウィッドは、悲しげに目を
ふせていた。リエンカは黙ってそれを見つめ
ている。
口数の少ないリエンカには、ステラ=
ワイズの心中を上手く説明が出来なかった。
嫌われているわけではないのに。
むしろ好かれている(本人は否定するだろうが)
のに。
リエンカは、それども説明しようとした。
だが――。
「エレナ、お昼ご飯だよ!!」
ミルカ=ライニオが入りこんで来たので、やっぱり
出来なかった。
ジゼット=ブラックも後ろにいる。
彼女は、いつものように花を抱えていた。
庭番だという彼女からは、いつもお花の甘い香りが
する。
「ミルカ、ジゼット、ありがとう」
エレナの作り笑いに、ミルカ達は気づかなかった。
ジゼットが百花白蓮と、真っ赤な十字架の
形をした花、火炎十字を差し出す。
エレナは受け取り、白い上等そうな花瓶に生けた。
少しだけ
「あ、リエンカもいたんだ!! ステラはいないの?」
「いない……」
食事の用意は四人分あったので、リエンカもまた
共にした。
お昼の食事は、柔らかく煮てソースをからめたお肉
料理と、ふわふわに焼きあげられたパン、あつあつの
野菜スープだった。
お肉はパンにはさんで食べるらしい。
ちょっと手が汚れたけれど、白いパンとお肉はとても
良く合い、最高のお味だった。
エレナの笑顔が、一瞬だけ輝いたくらいの美味しさ
である。
食事の後も、ミルカはいろいろな事をしゃべっていた。
エレナに会わない間、何をしていただの、どんな物を
食べたのかだの、何の変哲もない世間話だった。
エレナはいつもだったら笑顔で聞いていたが、食後の
お茶を飲んでいる最中、あまり笑わなかった。
食後のお菓子はケーキだというのに、手も
つけなかった。
今日は、アーモンドをまぶし、シナモンを利かせた
タルト生地に、赤すぐりやラズベリーのジャムを
はさんだ、ミルカの最高傑作だったのに。
「どうしたの、エレナ? ケーキおいしくない?」
「ごめんね……お腹いっぱいなの」
あいまいに笑ってエレナは問いを交わした。
ようやく彼女の様子がいつもと違う事に気付き、
ミルカ達が首をかしげながら部屋を出ていく。
エレナは置いて行かれたケーキを、一口
食べてみた。
いつもなら美味しいのだろうが、味がしない。
砂の様な味とは、こういう事をいうのだろう。
食事は美味しかったのに。
エレナははあっ、とため息をついた。
「……私、部屋、帰る……」
「うん、また、来てね……」
ほとんどまるごとのケーキを抱え込み、リエンカは
パッと姿を消した。
ガチャリと扉がいきなり開けられたのは、彼女が
消えたのとほぼ同時だった。
「あなたは……!?」
そこにいたのは、黒衣の男だった。
エレナをさらったあの男だ!!
「精霊の巫女よ、ご機嫌はいかがかな?」
「最悪よ。早くここから出して!!」
じろりと睨んだにもかかわらず、彼は楽しそうに
笑っていた。エレナを中に突き飛ばすように、入って
来る。エレナはさらに苛立ちをつのらせた。
「やはり似ている……」
そう呟いた囁きは、彼女には届かなかった――。
黒衣の男は自ら茶を入れ、美味しそうに飲んでいた。
エレナの嫌そうな顔など、どこ吹く風である。
エレナの綺麗なエメラルドグリーンの瞳や金髪を、
愛しいように見ていた。
だが、エレナを見ている訳ではないらしい。
自分を通して他の誰かを見ているような気がして、
エレナは思わず首をかしげた。
一体、彼は誰の面影を自分に求めているの
だろうか。
黙っていると髪を掴んで撫で始めたので、エレナは
眉をしかめて振り払った。
一瞬眉をつりあげたものの、男は何も言わなかった。
「この部屋は気にいっているか?」
「気に入るわけがないでしょう!! ここは牢獄
だわ!! 出ることができないんですもの!!」
カッとなったように、男が手を振り上げた。
エレナだって、気が強い方である。
間合いを取り、彼に攻撃を与えようと眉を吊り
上げて応戦しようとした。
「違う……やはり、違う……」
「何ですって!?」
結局上げた手は下ろされた。射抜くような冷たい目が
睨んで来るので、エレナは身構えたままだった。
「来い!」
「ちょっと! 何するのよっ」
男は痛いくらいの力でエレナの白い腕を掴むなり、その
まま歩き出した。喚こうがまったく手の力は緩まない。
途中でミルカやジゼットに会ったけれど、彼女達は
笑顔で手を振ってきた。
訳が分からなく、エレナは苛立ちばかりがつのって
いった。
と、そこで思い出した。ステラが言っていたのだ。
〝適合〝するかするまで、ここからは出れないと。
では、何か検査のような物をするのだろう。
エレナは少し気が楽になり、男の手を振り払うと、その
まま後ろについて行った。
その後ろ姿を、空中に浮いた少女と、ステラが戸惑った
ように見つめていた――。
今回もエレナ編です。あ、でも、次回はルーク編に
なります。エレナと仲間達との交流を描きました。
そして、検査のためにエレナが男に連れ出されます。
エレナは適合するのか、否か!?




