表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スピリッツ! ~おちこぼれ勇者の大冒険~  作者: 時雨瑠奈
話し合う巫女
13/33

第十二話 ~精霊の巫女の決意~

 エレナ=ルクウィッドは、いつもの

部屋でいつもの目覚め方をした。

 銀のお皿にたたえられた水で顔を

洗い、ついでに手を洗う。

「よしっ!!」

 顔を軽く叩いて気合を入れる。

今日こそは、ステラと話し合いたい。

 その決意も新たにぎゅっと拳を

握っていた。

「食事……」

 と、音も立てずに彼女の後ろに立った

少女が、低めの声でポツリと言った。

 まるで幽鬼のように陰気な雰囲気だ。

「きゃああああっ!!」

 思わずエレナは悲鳴を上げ、文字通り

飛び上がってしまった。

 少女は驚いた様子もなく、サイド

テーブルに料理の盆を置く。

 人形のように無表情だった。

長い黒髪を結わずに垂らし、珍しい

漆黒の瞳をしている。

「あなた、誰……?」

「リエンカ……」

 それ以上は口を開かない。

なんとなく名前がそれだというのが、

エレナは分かった。

 口下手なのだろうか。

「食事……」

「あ、あなたが持ってきてくれた

のね、ありがとう、えっと、

リエンカ?」

 こっくりと彼女は頷く。

よく見ると、盆には二人分の料理が

載せられていた。

 リエンカも、一緒に食べるのだろうか。

今日のメニューは、ハチミツのたっぷりと

かかったワッフルと、チーズが載せられた

トースト、カモミールティーだった。

「あなたも一緒に食べるの?」

「駄目?」

「ううん、一緒に食べたいわ」

 今回の食事は、ひどく静かに始まって

終わった。リエンカは一言も口をきかず、

エレナも口をきくのが気まずくなったのだ。

「ステラ、あなた、ケンカ……私、

見た……」

 エレナはギョッとなった。

ステラとの言い合いを、見ていた人がいた

なんて。

 少女が今までで一番しゃべったのも驚い

たが、それ以上の衝撃だった。

「見てたの!? 誰にも言わないで!!」

「ん……」

 またリエンカがこっくりと頷く。

じぃっと感情のない瞳で見つめてきた。

「ステラ、私、友達……」

「そうなの……あ、あなた私の名前知らない

のよね? 私エレナっていうのよ」

「エレナ……」

 リエンカは何度かエレナの名前を呟き、

口元を歪めた。それが笑顔だと気づき、

エレナは笑い返す。

 鮮烈なる笑顔だった。

確実に、にっこり、ではなく、ニヤリと

いう表現が似合いそうだ。

 表情を出すのになれていないのね、と

エレナは思った。ふと、疑問を抱く。

「リエンカって、鍵を開ける時、音を立て

ないのね。私、驚いたわ」

「鍵、いらない……。私、瞬間移動……」

 彼女の話を整理すると、リエンカは瞬間

移動能力があるらしいとの事だった。

 さっき部屋に入った時も、自分の部屋から

直接来たのだと言う。

「ステラ、部屋、行く?」

「え……?」

 エレナは迷った。ステラの部屋に行く?

これから? リエンカの顔を見るが、少しも

表情は変わっていなかった。

 確かに、彼女の部屋を訪ねようとは思って

いたが、今はなんの準備も先触れもしては

いない。

「エレナ、ステラ、仲直り……」

 彼女には一切の悪意は感じられなかった。

純粋に、善意だけがある。

 このままではいけないのは確かなので、

エレナはこくりと頷いた。

 リエンカが口元を歪め、エレナの手を掴む。

次の瞬間、二人の姿は部屋から消えて

いた――。


 ステラ=ワイズは、部屋で一人でいた。

食事には手をつけず、ベッドに倒れ込んでいる。

 具合が悪いのではないようだったが、だる

そうに目を閉じていた。

 と、何かの気配を感じた。

リエンカだろうと思い、体を起こす。

 そこに、エレナ=ルクウィッドの姿を認め、

ステラはギョッとなった。

 彼女の不安そうなエメラルドグリーンの瞳と、

リエンカの無感情の癖にどこか誇らしげな漆黒の

瞳に怒りが煽られる。

「リエンカ! 何のつもり!?」

「エレナ、ステラ、仲直り……」

「余計なお世話よ!!」

 エレナは勇気をふりしぼってステラに近づいた。

ステラは一瞬目を見張ったが、移動はしなかった。

「何の用? 仲直りなんかしないわよ。私は、

あんたが大嫌いなんだから」

「仲直りなんて、できる訳ないよ。私は、ステラの

友達じゃなかった」

 ステラは眉をしかめた。仲直りする気はない。

そう言うのならば、何をしに来たのだ。

「私、ステラのこと知らなすぎたんだよ。ステラの

こと、聞こうともしなかった。でも、これからは

知って行こうと思う……」

「何なのよ、どういう意味なの?」

「ステラ、私と、友達になろう! 今までの関係

には戻れないけど、友達になろう!!」

 ステラは黙っていた。友達? 私と友達に?

心が浮き立つのを感じる。何故か、嬉しい。

「う……」

 思わずうん、と言ってしまいそうになり、

ステラは慌てて口元をおさえた。

 危ない! これがこの子の手なんだ。

皆を取り込んだ、あの子の手口なんだ。

 そう思うと、すごく腹が立った。

皆を取り込んで仲良くなった癖に、今度は私をも

取り込もうとしている。

 自分を魅了しようとするエレナが、ひどく

苛立たしかった。

 だが、それ以上に嬉しさも感じている。

と、コツコツと靴の音が聞こえてきた。

 ステラはキッとなって叫ぶ。

「あんたなんか、嫌いよ! 大嫌い!!

 出てって!! 出てってよ!!」

 泣きそうになりながら、ステラは喚いた。

こう言わなくてはならない。

 嘘でも、こういう事が今はつらかった。

「ステラ……」

 リエンカが声をかけ、手を伸ばしてくる。

ステラはその手を振り払った。

「今度は余計なことしないで。この女のことは、

あんたなんかに関係ないんだから」

 リエンカは黙ってエレナの手を取った。

再び、エレナ達は部屋に戻ってくる。

「私、ステラに嫌われてるのね……」

 エレナは気づいていなかった。

ステラの部屋に、黒衣の男が歩み寄っていたのを。

 ステラに、思ったより嫌われていないことを。

ステラに、かばわれたという事を。

 さっき、エレナが見つかっていたら、あの男に

どんな目にあわされるかしれなかった――。



「さっき、誰かいなかったか?」

「リエンカです。瞬間移動ができるあの子。

私たち、ケンカしたのですわ」

 黒衣の男が帰っていく。

ステラはホッとして、胸をなでおろした。

「もう、来ないでしょうね……」

 悲しげにつぶやく。

自分から拒絶しておいて虫がいいとも思ったけれど、

ステラはエレナがもう一度来ることをのぞんでいた

のだった――。

 今回はエレナサイドのお話です。

ちょっと複雑なお話になっちゃい

ましたね。自分の想いをぶつけた

エレナですが、ステラはまだ素直に

なれない+彼女を守るために拒絶

せざるを得なかった感じですし

(長々話していたらエレナが彼に

見つかる危険性があったため)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ