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スピリッツ! ~おちこぼれ勇者の大冒険~  作者: 時雨瑠奈
精霊の巫女誘拐事件
1/33

プロローグ ~攫われた精霊の巫女~

 以前別の名前で書いていた

作品に修正と追記を加えた

ものです。

 村一番の稼ぎ頭の少女、エレナ=ルクウィッド。

そして、あまりに強すぎる力を制御セーブできなくて落ちこぼ

れと言われる少年ルーク=ウレイアが出会ったのは、聖

クリシュア村の精霊祭での事だった。

 当時、二人は四歳だ。

ルークは別の村から越して来たばかりで、不安そうに

していた。

 村人の輪に入っていけていなかったので、エレナが声

をかけたのだった。

「ねえ、あなたなまえなんていうの? あたし、エレナ。

いっしょにあそぼ」

「お、おれはる、ルーク。……うん!! いっしょにあそ

ぼう!!」

 そう言ってにっこりと笑った顔が魅力的だったのを、

エレナは十五になった後も覚えていた。

 それなのに。それなのに!!

エレナは今、ひどく悩んでいた――。


 エレナは村に来る依頼を、魔法と剣術でもって次々

とこなしていて、村人の評価は高かった。

 弟のビショップも薬学や医学にひいでていて、姉同様

人気は高い。が――。

 ルークはちがった。よそ者というだけでも立場は悪い

のに、剣術も魔法も上手く使いこなせないのだ。

 それに両親も親代わりの祖父母もすでになく、後ろ

盾もない。

 ルーク=ウレイアは村では厄介者扱いされていた。

小さい子でも出来る簡単な依頼いらいさえも、こなす事が出来

ないからだ。

 子供にも、すでに引退したおじいさん連中にも馬鹿バカ

にされている様子を見ると、エレナはとても悲しくな

る。

 だって、エレナは彼を愛しているから。

十一年前、会った時から、ずっと――。


 エレナは今日の依頼である薬草探索を終わらせて、聖

クリシュア村に戻って来た。

 彼女の祖父である銀色に染まった髪を持つ男性、エル

クが声をかける。

「おかえり、エレナ。依頼がまた来ておるよ」

「ただいま、おじいちゃん。後で見に行くわ」

「ほんにお前は優秀じゃなあ、それに比べて、ウレイア

小僧こぞうはいつまでたっても落ちこぼれじゃ」

「おじいちゃん!!」

 キッとエレナは、エメラルドグリーンの大きな目で

祖父を睨みつけた。

 長い美しい金髪が怒りに、激しく揺れる。

「ルークは落ちこぼれなんかじゃないったら!! 力を

上手うまく使えないだけだって言ってるでしょう!?」

「ちっとも上手くならんのは、やる気がない証拠

じゃ」

「違うわ!! ルークは頑張がんばってるもの!! ――おじ

いちゃんに何が分かるのよ!!」

「どうしてあの小僧をかばうんじゃ!!」

「そ、それは……」

 エレナの顔がみるみる内に赤く染まった。

ギョッとなり、祖父が別の理由で赤くなって怒鳴どなる。

「いかん!! ウレイアの小僧だけはいかんぞ!! 絶対ぜったいに認

めん!! 駄目ダメじゃ!!」

「もういいわ、おじいちゃんなんか知らない!!」

「あ、エレナ、話はまだ終わっておらんぞ!!」

 エレナはべえっと祖父に舌を出すとその場から逃げ

出した。

 祖父が自分の事を想ってくれているのは、よく分か

っている。

 しかし、自分の愛した人を批判したり、悪口を言う

のを聞くのは悲しかった。

 大好きな祖父だから、ルークの事を認めて欲しかっ

たのに……。

(おじいちゃんの馬鹿……っ) 

 彼女は一度家に戻り若草色の可愛かわいいドレスに着替え、

髪を念入りにブラッシングした。

 仕上げに百花白蓮フルール・ブランの髪飾りをつけ、ぴかぴかに磨き

上げられた鏡をのぞむ。

 その顔が怒りに染まっている事に気づき、あわてて

笑顔笑顔、とにっこりと微笑ほほえんで気を取り直して

から家を出た。

 それにかかった時間は、なんと二時間である。

恋する乙女は準備にも時間が掛かるのだ――。


 エレナは朝方焼いておいた、ルークの好物であるチー

ズ入りのカップケーキのたくさん入った籠を持ち、彼に

会いに行った。

 狐色に焼けたお菓子はふわりと甘い香りがして、とっ

ても美味しそうである。

「たああああっ!!」

 ルークは木の棒で、木に頑丈な紐で縛り付けられた丸

太に挑みかかっていた。

 剣術の練習用として使っているのだ。

何故木の棒かというと、それしかないからだ。

 ルークは依頼がこなせないのでお金もなく、武器屋の

店主も彼をわずらわしく思っているので相手をしない。

 そのため、ツケで買う事すら出来ないのだ。

「……全然駄目だあ」

 ルークは人懐ひとなつこそうな愛嬌あいきょうのある顔を、微かに顰めて

うめいた。

 頭から少し血が出ているが、気づいていないらしい。

癖のある長めの茶の髪がくしゃくしゃになっていて、同

色の瞳には涙がにじんでいた。

「ルーク!!」

 しかし、エレナが声をかけると、ルークはぱっと笑顔

になった。

 二人はとても仲がいいのだ。

もっともルークは、エレナの想いを全く気づいていない

が。

「エレナ!!」

「これ食べて。どうせ、何も食べてないんでしょ?」

「ありがとな、エレナ」

 ルークはカップケーキを受け取ると、物凄い勢いで食

べ始めた。お腹が減っていたらしい。

 何かに熱中し始めると、他の事を忘れるのは彼の悪い

癖だった。

 一生懸命けんめいな所は、ルークのとっても素敵すてきな所だけど、

と思いつつ彼女は彼に近づく。

 ポケットからピンク色の可愛らしいハンカチを取り出

すと、置いてあった水桶の水でひたしてから、ルークの

額に押し当てる。

 照れ隠しのため、幾分乱暴にやったので痛そうにルー

クがさけんだ。

「い、いたたたたた!! エレナ、痛い!!」

「怪我をしたルークが悪い!! 大人しくしてよ」

「ううううう。そうだけどさあ……」

 ルークは涙目になった。それでも、ご馳走ごちそう様、と手を

合わせる事は忘れない。

「ちょっとは上達、した?」

「したよ!! ほんのちょっぴり、だけどな」

 ルークは木の枝を構えると、さっきの丸太に向かって

一直線に振り抜いた。

 かなり小さな光の玉が出現し、それにぶつかる。

……何も変わらなかった。丸太は動きもせず、光はすぐに

消えた。

 それでもエレナは笑顔になった。

「やったじゃない、ルーク!!」

 その可愛らしい笑顔にルークは思わず真っ赤になった。

何故なぜだか分からないけれど、胸がどきりと高鳴るのを感

じる。

 それを悟られたくなくて、彼はぷいっとエレナから目

をそらした。

「は、早く帰れよ。おじいさんに怒られるぞ」

「何よ、その言い方!! それに、おじいちゃんは関係

ないじゃない!!」

「あるよ!! 俺に会っちゃダメって言われてんだろ! 

 俺は落ちこぼれ、だからな」

 カッとなったエレナはルークの頬を平手で叩いた。

かなり力を込めたので、彼の頬には手形がはっきりと

ついている。

 いてえっ、とルークが叫んだ。

エレナはルークの事が好きだけれど、自分で自分の事

卑下ひげして「落ちこぼれ」と呼ぶ所は嫌いだった。

「ルークのバカッ!! そうやって卑屈ひくつな事ばっかり考

えてるから、いつまで経っても力が使えないのよ!!」

「うるさいな!! とっとと帰れよっ!!」

 そう怒鳴ったルークは、エレナの目に涙が溜まって

いるのを見て、あせったような顔をした。

 誰でも女の涙には弱い物だが、あまり女性が得意

でないルークにはかなりの弱点だった。

「な、泣くなよ、エレナ!!」

「――迷惑? 私が来るの、迷惑なの?」

「ち、違うよ。だけど……」

「だけど、何!?」

「悪いな、と思って。お前、いつも忙しいのにさ。俺

なんかのために……あ、ごめん、怒んなって!! 今

のは言葉の綾だって!!」

「私が好きでやってるのからいいの!!」

 エレナは目を手でこすると、無理やり泣き止んだ。

少しはにかんだように言葉を切り、そしてルークの顔を

覗き込んで笑顔で言った。

「ねえ、もうすぐ精霊祭よね?」

「そうだな」

「私、精霊の巫女みこをやるのよ。ビショップも選ばれたん

だけど、女の子のカッコなんてやだッ、て辞退しちゃっ

たの」

「へえ、パートナーは誰を指名するんだ?」

 精霊祭とは、聖クリシュア村に伝わる伝説を元にした

祭りだった。

 精霊の巫女は一度村人全員の前で一人で踊った後、選

んだパートナーと共にもう一度踊るのだ。

「私は、ルークを指名したい、と思うの」

「俺!? 他にも男はいるじゃん。エレナなら、どいつ

だってよろこんで――」

「私はルークがいいの!!」

 エレナはルークの声をさえぎった。

彼以外とは、誰とも踊りたくはない。

 彼だから、踊りたいのだ。

告白に近いような言葉だけれど、意味が分かっていない

のかルークはきょとんとしていた。

「なんで?」

「な、なんでって……」

 まさかこの場で、あなたが好きだから、とも言えない。

赤くなったエレナはルークを怒鳴りつけた。

「ルークの鈍感どんかん!! もう知らない!!」

「な、なんだよ~!!」

 ルークの不満そうな声を聞きながらエレナは走り出し

た。

 何で怒ってるんだ、と訳が分からない様子の彼の耳に、

まだ声変わり前の可愛らしい声が響く。

「ルーク、またお姉ちゃんを怒らせたの?」

「ビショップ!! いつからいたんだ!!」

 ルークはギョッとなって振り返る。

すると、そこには金髪の男の子が立ち、小首をかしげな

がらじいっと見ていたのだ。

「ルークのバカ、あたりから」

「いたなら声かけろよ!!」

 エレナの弟、ビショップ=ルクウィッドはくすくすと

笑い出した。

 まだあまり男っぽくない、可愛い顔立ち。

エレナより少し薄い緑の目に、淡い色の金髪の子だ。

「お姉ちゃんの言ってた事、あってると思うよ。ルーク

が卑屈だからって言うの、さ」

「お前までそう言うのかよ!! 俺だってなあ、やれば

出来るんだよ!!」

 やけになったルークは、木の枝を構えさっきと同じ事

をした。

 が、さっきとは違い、現れた光の玉は、かなり大きか

った。

 丸太に直撃しそれを弾き飛ばし、バラバラにする。

ビショップの目が大きく見開かれ、ルークは思わずへた

り込んだ。

「で、できた……」

 お見事、とほうけたようなビショップの声だけがその

場に響いていた――。


 力が使えるようになったルークは、すぐにエレナに会

いに行った。

 彼女にこの事を教えようと思ったのだ。

だがエレナは精霊の巫女の踊りの最終確認をしていて、

忙しそうだった。

 すでに巫女の衣装に着替えていて、ふわふわとした白

い衣装がとてもよく似合っていた。

 髪にはさっきの、百花白蓮の髪飾りがまだあった。

「何、ルーク? どうしたの?」

 エレナは何か期待したような目で言った。

似合うよ、と褒めてくれる事を望んだのだ。

 ルークはそれには気づかず、エレナの髪飾りにのみ目

がいっているようだった。

「なんでもないよ。それよりさ、その髪飾り、もっと綺

麗なの持ってるんじゃないのか? 替えたら?」

「え」

 エレナが固まった。その目が、次第に怒りに染まって

いく。

 まるで般若はんにゃのような形相ぎょうそうに、ルークは驚いて後退した。

エレナはおびえるルークには構わず、つかつかと彼の元へ

と歩み寄るとキッと睨みつける。

「ルーク!? これの事、忘れたの!?」

「何の事だよ?」

「バカッ!!」

 返事は怒鳴り声とパンチだった。

かなり本気で繰り出された拳が、ルークを天幕から追い

出す。

 ついて来てはいたけれど、中には入らなかったビショ

ップは、目を丸くして聞いた。

「……またお姉ちゃんを怒らせたの?」

 腹が立っていたルークはボカリと彼の頭を殴りつけて

泣かせ、見学に来ていた祖父に怒鳴りつけられた――。


「ルークのバカ」

 エレナは髪飾りに触れ、うつむいた。

彼女のこの百花白蓮の髪飾りは、ルークが幼い頃にくれ

た物だったのだ。

 四歳の頃の精霊祭の時のあの日、ルークが屋台で買っ

た物なので安物だが、エレナはとても気に入っていた。

「ルークのバカ」

 もう一度すねたように言ってから、エレナは踊りの確

認を再開した。

 それから六時間が経った頃、ようやく夜になり精霊祭

が始まった。

 光輝く祭壇にエレナが立ち、くるくると螺旋らせんを描く

ように踊り出した。

 純白の衣装が金色に煌めき、小さな蝶々のような光が

彼女が舞う度に飛んだ。

 その幻想的なダンスに、全員が目を奪われる。

実の弟と、その祖父さえも。それほどに彼女の舞は美しか

った。

 ぼうっと見とれていたルークは、彼女の声で我に返る。

「精霊の巫女エレナ=ルクウィッドは、ルーク=ウレイア

をパートナーに選びます!!」

 エレナに選ばれたかったらしい青年や少年達の顔色が、

落胆に染まった。

 可愛らしい笑顔と見た目のエレナは村一番の美少女でも

あり人気者なのだ。

 ぱぁっと明るい顔になって、ビショップがルークの肩を

つつきながら声をかける。

「ルーク、祭壇に上がって」

「え、あ、えっと……ああ」

 ルークは一瞬自分でいいのか、とつい考えてしまった

けれど、動揺しながらも祭壇に上がった。

 幸せそうに、色白の頬を桃色に染めている彼女の姿が

目に止まり、つい赤くなってしまう。

 しばらくエレナに片思いをしている者達が舌打ちした

り、野次やじを飛ばしたりしていたが、ビショップが黙って睨

みつけると静かになった。

 エレナの弟であるビショップが怒っても怖くはないが、

彼女に嫌われるのは避けたいようだ。

 静寂せいじゃくだけがその場を支配する。

ルークはおずおずと手を差し出して、エレナがその手を取

ろうとした。

 二人の手が微かに触れあった、その時だった。

――突風が二人の間にのみ吹き荒れ、ルークの手が離れた。

 他の村人達は何が起こっているのか分からないようで、困

惑したような顔をしている。

「ルーク!」

「エレナ!!」

 空中に飛ばされた彼女を受け止めたのは、黒衣を着た怪し

げな男だった。

 にやり、と血のように赤い唇が笑みを浮かべる。

「精霊の巫女はいただいていく!!」

「エレナを返せ!! この野郎!!」

 ルークの放った光の玉は、しかし、男に当たる事はなかった。

結界のような物に弾かれて跳ね返り、返された倍増された力は

そのままルークを祭壇からたたき落とした。

 痛みに構う事なく、ルークは立ち上がると彼女の名前を叫ぶ。

「エレナ!! エレナー!!」

「ルーク!!」

 エレナは男と共に消えてしまい、後には白く輝く髪飾りだけ

がその場に残された――。

 落ちこぼれ勇者と精霊の巫女と

呼ばれる役目をさずかった少女の

恋愛物語です。

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