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ノンストップギルド  作者: エイ
5/8

エルフは保護ということで

戦闘シーンはまたの機会ということで。

「うわ、ほんとに殺し合ってるよ。あー、あー、あんなにも死人でてんのにどっちも引く気なしとかどうゆう神経してんのかね?」


  場所はいつも通り談話室。

 今さっき覚えたてのチャットでメンバーを呼び出したのでここにはNPCを除く全員が集結してる。

  アキさんの配下である偵察用ゴーレムが撮影してる映像を巨大モニターに映し出し今皆で絶賛鑑賞中である。


「しかしアキさんの言った通りだ。これを見ても何の感慨もわかない(・・・・・・・・・)。虫、または小魚あたりが死んでる程度にしか思えない。種族が人間でなくなったからか?でもエルフのほうを見てもなんとも思わないんだよなぁ。」


「多分、ゲームでの初期の種族は全て私達のような存在から見ると下位にあたるということでエルフも人間も全部ひっくるめて虫けらに見えるんだと思います。事実、私には人間とエルフの区別が難しく、こうも入り乱れたはどっちがどっちだかわかりませんね。」


「スキルや魔法を使えてNPCからは神様扱い。・・・・・・薄々感じてはいたがやっぱり俺達、人間をやめてたんだなぁ。」


  気付いたら人外でした、なんて恐怖を感じるものだと思っていたが実際、あまり良く分からないというのが本音だ。

 ただ自分と同じ形の生物(・・)を見ても同類とは思えないというのが少しばかり不思議に感じるが、それもどこか他人事のように思えて自分からすればどうとでもない事と思える。

 しかしそれは向こうからすればどうだろう?

 人間もエルフも自分達のような存在を見てどう反応するか謎である。


「というか、さぁ・・・・・・みんなはコレ見てどう思う?」


 俺は自分の配下であるNPCに城の半径一キロ程度しか探索させなかったがそれはNPCにも命があると分かったから、あまり未知の領域に単身で向かわしたくなかったという考えがある。しかし対するアキさんはというとゴーレムには命なんざないってことで三キロ程城から離れたところを探索させ、そしてたまたまこのような光景をゴーレムがキャッチしたということである。

 でもってその光景なんだが・・・・・・。

 モニターに映し出される映像では鎧を着込んだ人間が森に火を放ち、エルフに切りかかっている。

 対するエルフもどれも初級魔法ではあるが魔法で対抗しているものの、いかせん、人間側が圧倒的に数が多く盾で魔法を防ぎつつじわじわとエルフを追い詰めている。

 はいこれ人間側の略奪ですね、わかります。

 その光景に皆、苦虫を噛み潰したような苦い表情をしている。

 アキさんはさっき人間とエルフの区別がつかないといったわりには人間に殺意の篭もった視線を投げかけている。


「ふむ、言うならば自分の黒歴史を暴露されたような、誰とも知らない人の恥ずかしい場面に遭遇したときの居た堪れない雰囲気と言った感じかな。」


「ムーさんの言うとおりだ。これは元人間としてはかなり恥ずかしい。」 


 なんでそんなことするかなぁ。

 よってたかって弱い者いじめとかするなよ。

 ここが異世界だったとしても、いや逆に異世界だからこそ人間はどこでもこんな阿呆な種族なんですよーって事実を見せ付けられている思いだ。


「なんで異世界に来てまで人間という種のの恥部を見せつけられなきゃいけないんだ・・・・・・。」


 変な疲労感にも似た重圧を身体に感じるがだからといってこのままモニターを眺めっぱなしというのもどうか思う。

 ということで自分の身体に鞭を入れる気持ちでみんなの前に一歩出る。


「でこんなスプラッタで恥ずかしい光景を見ちゃったわけなんだが俺達はどうするべきか考えよう。」


「別にどうでもいいじゃんか、こんなの。」


 そういったのは最強さんだった。

 彼女は私服っぽい感じの服装で表情から心底どうでもよいと思っているのが窺える。

 戦闘とか何ソレおいしの?って感じで、うん。今回の戦力として期待しないほうが良いだろう。

 

「しかしそうも言ってられないんだよ。ゲームのときなら死んでもコンテニューしてといったトライアンドエラーを繰り返せば良いがそうもいかない。だからここでどちらかに恩を売って辺りの情報とかあわよくばこの世界について知っておきたいところだ。」


「恩を売ると言うなら今のところ形勢不利なエルフに加勢するべきでしょうね。その方がこちらの印象をよくできますし、それに――――」


 アキさんがモニターにちらっと視線を向ける。

 そこには侮蔑の表情がありありと見えた。


「――――アレを助ける価値はありません。ゴミはゴミ箱に、これ常識ですよ。」


「うわぁ。」


 言っちゃたよ。言いも言い切ったりだよこの人。

 そりゃ心の片隅で思ってたけどさぁ。

 元人間と言うこともあってできるだけ無視したかったのにこの人は。

 つくづく容赦のない人である。

 これでは人間(アレ)を生き物として見る事ができないじゃないか。

 しかしこれで終わりではなかった。

 あろうことか、そう本当にあろうことか天使もかくやという程の純度100%の笑顔をアキさんが浮かべ、そしてそのまま――――


「ということででがんばってくださいね、ギルマス(・・・・)?」


「え?」


 ――――まさかの単身突撃命令を下した。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






『目上の者は下々の者のため、馬車馬のごとくキリキリ働くのが世の常。』


 なわけねぇよつうかそんなこと言う時点であんたはどうなんだよ、と色々ツッコミたい気持ちをあの笑顔で鎮圧され現在進行中で森を隠密状態で駆け抜けている≪記録(レコード)≫のギルドマスター≪ニコ≫こと通称にーさんです。

 副ギルドマスターと言う名から分かるとおり、自分の部下である人にパシらせれる上司とはこれいかに。

 ギルドマスターってこんなのだったか?


「ギルドマスター=奴隷、ん?なんか新しい法則を発見したような?」


「いやいや、そんな法則ありませんから。というか反論一つせず、いやツッコミの一つもなく粛々と森に出かけるにーさんに違和感を感じるのは僕だけでしょうか?」


「あー、それな。それはちょいとわけがあったりなかったり。」


 と言いつつも、なんだかんだで俺のについてくるシト君はお人よしのように見えたりもするんですが。

 今、俺達は木々の枝を足場に全力で走っている(・・・・・)

 これもゲームでのステータスが現実のものとなったからこそできる芸当である。

 まさか自分が漫画のキャラよろしく、こんなことをしようとは夢にも思わなかった。


「あ、勘違いしないで下さい。僕も僕で思うところがあったので同行するだけですから。」


「じゃあ、そんあ無表情でツンデレ発言するシト君から言ってみよう。」


「僕はさっきも言った通りチキンなわけですけど、なんというかまぁこの年頃で男子ですし?エロゲの一つや二つやっちゃってるわけです。」


「そりゃな。俺でもそうだし。」


 というか、今の時代、大学生にもなってエロゲやってない奴なんて日本にごく少数だと思うが。


「でそんなエロゲやっちゃった僕なんですけど、陵辱ゲーだけはそのまじで勘弁ってタイプなんですよ。」


「それは個人の好き嫌いだからな。」


「で、この世界って一見、ファンタジーだからそんなことに連想しやすいんですよ。しかも先程映像で見ちゃいましたから、あの騎士の目。完全に略奪者って感じでした。」


「じゃあシト君は正義感燃やして悪党成敗しに行くぜー、みたいな?」


「いえ、そうではなく。あんなことするんです、戦闘力もあると思いますし試し切り(・・・・)にはちょうどいいかと。ほら、後々のこと考えると早めに慣れといたほうが得でしょうし。」


「・・・・・・うちのギルドは犯罪者予備軍の巣窟なのか?」


「というよりあんなの平和ボケ最高と思ってる人達から見れば即刻死刑だ、って言いそうなものだと思います。」


「そりゃそうかもな。でも最後のはないだろ。」


「僕は安全マージンを確立してからレベルアップに勤しむチキンなものなんで。ではにーさんの番です、どうぞ。」


「そのチキンですか、なんか納得。で俺か・・・・・・・・・っつてもなぁ。ま、あれだ。アキさんなりに気を使ってくれたってとこかな?」


 その言葉に疑問を持ったのか先を走っていたシト君が――素早さなど走力に関してはは向こうのほうが上なのだ――こちらを振り返る。

 それを黙って一瞥し、淡々と言葉を続ける。


「アキさんはまぁ俺はともかく他のギルドの連中にはやさしいからよ。いくら人外になったとしても人間殺しはきついだろ?ましてやマイさんみたいな花咲く女子高生にそんな血生臭いことさせれんよ。だから俺だけに行けって言ったのさ。シト君が僕も行きますって言うのは予想外だったけどな。で、俺が拒否すればアキさんが単身で向かう気だったと思うぜ?なんせあの言葉はアキさん自身にも当てはまるからな。」


「なるほど。」


 シト君はそう言ってあとは黙ったまま、無言になってしまった。

 彼は無口のほうだからこれがいつもの通りだ。

 いやむしろ、今日はよく喋るほうだと言ってもいいかも知れない。


「・・・・・・・・・・・・・・・。」


 彼は試し切りと言った。

 そこからは色々思うことはあるがこちらも黙っておくことにする。

 身長が160そこそこと、うちのギルドではマイさんの次に背が小さく、身体の線の細さや本人は前髪で隠しているつもりだがメンバーにはバレバレな童顔も合間って俺は高校生と決め付けていたが本人曰く大学生。

 そんな彼が今から自分の意志で人を切るとは一体どんな心境なのか聞いてみたい気もする。

 ・・・自分も大学生なんですけどね。

 それはそれ、あれはあれ。

 自分の気持ちなんざひたすら見栄はってるだけなんで多分彼に比べてどうも見劣りする。

 いや、女性にあそこまで決意されて、行かないチキンな自分ってどうよ?

 それは男として引いてはいかんでしょうに。

 

「にーさん、見えてきました。」


 耳を済ませれば大勢の叫び声が聞こえる。

 緊張はない。

 ただ自分が今からやることを想像してその後の自分がどうなるか思うだけだ。

 隠密状態を解除する。


「よし、いっちょ行きますか。」


 俺は気合をいれて剣戟の音が聞こえるほうに飛び込んだ。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「はい一旦手止めてこちらに注目!」


 圧倒的な威圧感を纏ったソレは森から飛び出してくるなりそう叫んだ。

 自分の手に集まった魔力が拡散していくのを感じながらもエルフのネッダは目が離せない。

 離せなかった。

 さっきまで自分達は人間と己の命を賭けた死闘を演じていた。

 だがアレは駄目だ。

 森からエルフと人間をちょうど横に割るようにして飛び出してきたあの二人は格が違う。

 ネッダとて魔術師のはしくれだ。だから相手の魔量容量などは相手の身体から発する微々たる魔力から大体ではあるが把握することができる。

 しかしあの二人から漏れ出してくる魔力は一般人に比べて遥かに少ない。

 少ないが質が違う。

 あれは火山の奥深くに住むと言われる火竜など御伽噺にしか出てこない、実際聞いても誰も信じないようなレベルだ。

 なんで、どうして。

 そんな思考が駆け抜けるが抵抗は無駄だと理性が冷たく言い放つ。

 アレは災害の類だ。


「話は通じるのか。・・・・・・ならそこの偉そうな奴。」


 さっき叫んだ男が人間の騎士達を指揮していた者を指差す。

 指されたものは何の反応もできないのかそのまま固まったまま――――


「森で放火とか馬鹿か?」


――――焼け焦げて死んだ。

 一瞬彼の指先から光が迸っただけで。

 何の抵抗もなしに死んだ。


「おいシト君気をつけろ。スキル≪無詠唱≫を持っていると、どうやら頭の中で唱えるだで呪文が発動するらしい。」


「それは知ってます。というか段々とわかってきました。多分、僕らの意識がコレに馴染んできたからだと思います。スキルが既に身体の一部、みたいな?」


「まじでか。俺はまだ少し時間がかかったりするかも。」


 彼らが何か言ってるが聞こえない。

 ただ目の前で自分達の仇敵が一瞬にして黒焦げになったことで頭が真っ白になってる。


「にーさんはエルフをお願いします。僕は残りを片付けますんで。」


「ういうい、了解。」


 そう言うが早いか、線の細い少年が防具で身を固めている人間の集団に踊りこんだ。

 その手にはいつのまにかガラスのような――――いや、文字通りガラスでできた剣が握られている。

 そのようなものでは――常識の範囲で語るのならば――あの屈強な兵士に傷一つつけることはできないだろう。

 が、そんなネッダの希望を刈り取るような一閃。

 それだけで三人の兵士がまるでバターのように盾もろとも切断される。

 途端、湧き上がる悲鳴。

 隊長があっけなく殺されて呆然としていたところに自分達に襲い掛かる死を確認したところでようやく恐怖心が出てきたのだろう。

 そのせいかエルフ側でも恐怖が伝達してゆくのを肌で感じる。

 しかし人間達のように我先に逃げ出すという事はない。

 皆、ただじっと剣を振るい、人間を虐殺してる者とは別の、彼を見ている。

 エルフというのは長寿の種族ということもあって、子を成すことは人間に比べ難しく、それゆえに結束が固い。

 皆を置いて一人逃げ出すなどそもそもエルフにとっては考えもしない行為なのである。


「えーと。ではあちらの光景はさらっと流して質問タイムだ。この中で一番偉い奴は誰だ?」


 彼の言葉に誰もが警戒の意を表す。

 先程の光景からしてこのままのこのこと出て行けば丸焼きになる可能性もある。

 それに、とネッダは自分の後ろにいるであろう少女を意識する。

 ネッダ達エルフを纏めていた長老は今この場におらず、エルフの本拠地にて指揮を執っている。

 ネッダ達は長老の一人娘を保護するためにもここまで来たのだ。

 当然偉いといえば長老の娘である彼女なのだがここで彼女を突き出すのは憚られる。

 ネッダは自身の身体を鞭打って堂々とした態度で声を張り上げる。


「私だ!」


「・・・・・・あっそ。ならこちとらあんたらに恩を売るってことで保護させてもらうからな。そこんとこ宜しく。それと、嘘をつくならもうちょい声を上げるタイミング、声の大きさ、態度、とかその辺りは改善することを勧める。」


「な・・・・・・。」


 保護するというのに若干の不安を覚え、最後の台詞に嫌な汗が流れ出す。

 しかし彼は嘘だとわかったとしても別に何かするわけでもなく、人間達がこちらを襲ってこないようにエルフの盾のように堂々と前を向いて立っている。

 が、気付けば辺りに人間はおらず先程の少年が何も持たず、ただ傷一つもなく木々の間から出てきた。


「にーさん、終わりましたよ。」


「あれ?結構早いな。」


「いや、途中でアキさんのゴーレムの群れがやって来て残りをほとんど取られました。どうやら、ちまちまと刈ってゆくのが不愉快だったようで、チャットで叱られました。ま、僕としてはあれで十分自身の性能を把握できたので問題はありませんけど。」


「それは納得。つか、あの人も心配性だなおい。ゴーレムの群れなんざ、俺達が出た後に出撃させたのだろうし・・・・・・本当にあの人はツンデレじゃないのかと思ってしまったりするのだが、これどう思う?」


「ノーコメントでお願いします。というか僕はにーさんみたいに殺されたら死ぬ身なのでそういう質問はやめてください。」


「・・・まあいいさ。でエルフ等はどうするよ?保護って言ってもこの人達警戒心バリバリで家とかその辺り喋ってくれそうにないし。」


 目の前で虐殺を行えば誰だってそうなるだろう、とネッダとしては言ってやりたいがそれをぐっと堪える。


「ならギルドでどうですか?」


「だな。ならさっそくアキさんに運搬用ゴーレム要請するか。」


 こうして何が何だかわからないまま、ネッダ達は彼等の言うところの『保護』されることとなった。



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