異世界初日
ちょっと話が長くなりました。
転移門を抜けて俺達は周りが壁に囲まれた六畳程度の小部屋へとついた。
ここから屋上のテラスへと続く階段は安全地帯に設定しているので、後はこの一人通るのがやっとなほど狭くて長い階段を登るだけである。
ほんとは直接テラスに転移できるよう設定したかったのだがそれはここのフィールドの性質上あきらめている。
ちょっと考えれば分かることなのだが、起伏のなだらかな丘に聳え立つ城はとにかく目立つ。
一時は≪神の丘≫に新しいダンジョンができたと噂され、好奇心溢れるプレイヤー達が罠で全滅するという事があった。
まあ、ほんとは城に入ろうとする時点でギルドマスター権限を使えば進入できないのだが、仕掛けた罠の性能を見たかったからあえて拒絶しなかった。
それが悪かったのか、この城についてネット掲示板いくつものスレが立ってしまった。それがダンジョンでなくギルド≪記録≫であると判明した途端、爆発した。
あの時はうちのギルドメンバーがどれほど嫌われているか良くわかりました。
まさかいくつものギルドが一時的とはいえ、ひとつのギルドに統合して≪ギルド戦争≫を仕掛けてくるとは予想外だった。
その中には屋上のテラスに昇って風景を楽しもうとしていた俺を弓矢でスナイプしよう――実際ヘッドショットを受けてHPバーが五分の一ほど減った――とする馬鹿が出てきたのである。
そんなわけで俺はテラスにあった転移ポイントを消去して、わざわざ作った小部屋と階段なのだがその後も色々あって忘れ去られていた。
つまり、コレを使うのはこれが初めてだったりする。
「・・・・・・罠とかねだろうな?」
「そこは最強さん自身の≪罠感知≫で判断すればいいんじゃない?」
「にーさんの仕掛けた罠と思ったら心とも無いな。」
「それ褒めてる?貶してるの?」
「両方。」
酷い言い様だ。この人は俺を何だと思っているのだろう。
・・・俺がギルドメンバーからどう見られているのか後で皆に聞いてみようかな?
いや、何人かの答えは予想できるけどさ。
・・・ダレとは言わないケドネ。
「不快な感じがするのでPKしていいですかね?」
「やめてくださいアキさんお願いします。」
この人勘良過ぎ。
その後は皆黙って階段を登る。
この階段は後から付け足したものであってテラスに行くには少しばかり時間がかかる。
実際のところ地上からテラスに向かうのとさして変わらないといったところか。
「なあ、にーさん。隠し事はやめにしてもらえないか?」
そんな沈黙を破ったのは≪吟遊詩人≫の自称≪音楽家≫、ムーさんこと≪音無≫だった。
名前は体を表すというか、あまり会話に参加せず聞いて楽しむというのがスタンスの人なのだがこれは珍しい。
内容的にも、という意味が含まれるが。
「・・・・・・隠し事っていってもなぁ。どのことだかさっぱりだな。」
「別にいいんだ。今までのことは。だがこればっかりは違う。この状況はおかしい。一から十まで全部が異常だ。運営が宣言した終了時刻はとうに過ぎている。なのになぜ僕らはまだここ≪アポカリプスオンライン≫に存在してる?」
皆がずっと気にしていたことをなんでもないかのような口調で問いかける。
振り返ればそこにはいつものように達観した表情があるのだろう。
この人はそういう人だ。
そんな人だからこそ、このギルドで唯一のサポート役を任されている。
しかし、俺は振り向かず、歩みを止めることもない。ただ静かに言葉を紡ぐ.
「そもそも人間の意識をサーバーに留めるのは現代の技術をもってしても無理な話なんだ。」
「・・・・・・・・・。」
「つまり俺達が言うVRゲームってのはプレイヤーの脳とサーバーが情報交換しているだけに過ぎない。つまりバグとかエラーがサーバーで起こったとしても人の脳に直接害が及ぶことはないんだよ。だがな、さっき俺は嘔吐感に似た、不快感を感じた。これがどういうことか分かるか?」
「僕達は今何かに害されていると?」
「その可能性もあるかもしれん。だけどな・・・・・・ムーさん、さっき言った脳とサーバーの情報交換ってどうやるか知ってるか?」
「それは、知らない。そもそもそんなの知っている人の方が少ない気がするが。」
「かもな。でもまあ、俺は知っているわけだ。それはな――」
――コンソールなんだよ。
皆の緊張感が伝わってくる。
本来ならば俺はこんな不安を煽ることなどしてはいけないのかもしれない。
だがもうすぐ階段を登り終える。
答えはすぐそこにあるのだ。
「このことから一つだけ分かることがある。それは、この世界がサーバー内ではないということだ。」
おお、みんな驚いている。
アキさんやムーさんが驚いていることなどそうそうないぞ。
「・・・・・・つまり、あれか?小説や都市伝説にありがちな異世界漂流みないなものか?」
「そうかもしれない。後はこれが夢って線もあるが、俺はこんなに意識がはっきりとしてる夢なんぞ見たこと無いな。」
階段の先から光が見える。
俺は焦る気持ちを抑えて歩調はそのままに一定の速度で登る。
突然の明るさに前が見えなくなるがそれも一瞬。
そして目の前には――
「勘弁してくれよ、ほんと。」
目の前にはなだらかな丘は無く、森が広がっていた。
どこからかこの場に似合わない牧羊的な鳥の鳴き声が聞こえる。
テラスから吹く風の心地よさが今は鬱陶しく感じる。
こんな感触はいままでのゲームではなかった。
「おめでとう。ムーさんあんたの考えてた通りだ。」
ここまできたらどんな表情を浮かべればいいか分からない。
だけど精一杯の見栄をはってシニカルな笑みを浮かべる。
「ここ異世界っぽい。」
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さて、所変わってまたまたギルドの地下八層にあるギルド本拠地という名の談話室。
ここで俺達は無言で時を過ごしてたりする。
そしてそんな無言に耐えかねた俺は積極的に会話しようとがんばってみたりする。
「異世界がどうたらとかそんなのいいけど腹が減るな。」
「死にますか?」
「すいませんでした!」
会話時間約七秒。
がんばったよ?がんばったんだけどさぁ。
あの目はないよ、反則だよ。
「けど、誰かのいうことはもっともです。食料とかどうしましょうか?」
さすがはアキさんいいことを言う。
・・・・・・なんで俺の言うことに聞く耳を持ってくれないのかわからんが。
このゲームにも一応食べ物とかがあって種族によって違ったりするがある程度食べてないとステータスにペナルティがかかる仕様がある。
アキさんは種族が≪悪魔≫に分類されたはずなので他の種族に比べて燃費は良いほうだがそれでも飲ます食わずとはいかないのだろう。
「ゲームならば他の人の魔力を奪うことで補えたのですが現在の状況だと分かりませんから。」
そう言いながらこちらを実験動物を見るような目で見ないでくれませんかね?
冗談だよね?こいつなら魔力奪ってもいいかな、とか思ってないよね?
「ま、それは後で確かめるとして・・・・・・にーさん。」
「現在全力で逃走プランを立てているにーさんになにか?」
アキさんはつい、と指を俺の顔に向けてそしてそのまま――
「≪ファイヤボール≫。」
火球を打ち込んだ。
「っつおおおおおおお!!」
腰を曲げてなんとか回避。
「あ、魔法は使えるんですね。」
「使えるんですね、じゃなくて!」
顔!今俺の顔を狙いやがったよこの人!
「今の当たってたらどうするつもりだ!!」
「?」
「そこで不思議そうにする!?」
この人血も涙もねえよ!
「いえ、たかが≪ファイヤーボール≫なら死なないでしょうに。それに魔法が使えるならにーさんのスキルだって使えるでしょう?」
ならどこにも問題は無いでしょうに。
そんなことを平然と言ってのけるアキさん。
・・・・・・この人、このメンバーで一番この世界に順応してねえか?
さっきの驚いた顔はどこにいった。
「でもこれなら動物に襲われても大丈夫でしょう。」
「かも知れんがどうだろうな?ここがゲームの時は俺達は一人で無双できたけど、いまの俺達の実力が外ではどれ程の者か見当もつかない。それにこの世界に住んでいる人がどんなのかもわからんしな。」
そもそも人がいるかどうかが心配だ。
一応見たところ人が住める環境ではあったが本当にいるのかは後々調べる必要がある。
頭の中にいくつものプランを組み立てながらこれからのことを考えていると、視界の端に異様なものを捉えた。
「どうしたマイさん?」
見ればマイが微かにだが震えているのがわかる。
顔は前髪のせいで窺うことはできないがあまり良くないことは容易に想像できてしまう。
「・・・・・・ごめんなさい。」
それは、蚊の鳴くような、精一杯搾り出した、声だった。
「こんな、ことに、な、なると、思わな、かった。わ、わたしのせい、で、わがまま、で。」
前髪の隙間から光の反射を捉える。
おそらく目から涙がでるのを必死耐えているのだろう。
どもりながらも喋る姿がなんとも痛ましいが俺はできるだけフランクに喋る。
「マイのせいじゃないと思うが?」
むしろ、≪神の丘≫にギルドを設立した俺のほうに責任がある気がする。
だけどもそんなことは彼女にとっては何の意味もないようで震えは大きくなるだけだった。
「・・・・・・OK。ならちょいとここでアンケートだ。――ここに、この世界、≪アポカリプスオンライン≫で過ごした|俺達≪・・≫がいる世界に永住してもいいよと思う奴は手を上げろ。」
挙がったのはマイを除いた七名。
「なあ、ムーさん?」
「なんだ逆月さん?」
「そのムーさんの知っとる小説にはNPCはどうなっとるか、教えてくれんかの?」
≪さかさま・ムーン≫の逆月さんはこの状況になってもゲーム時のキャラを押し通す姿がかっこいい。
女性だけどね。
「確か、AIといった感じではなく、生き物として動いていたな。」
「ほう!!」
その言葉に目を輝かす逆月さん。
・・・なんだろう、すごく嫌な予感がする。
「つまりアレか、わしが手塩をかけて育てた彼女等もAIではなくなるということか。」
「そうと決まったわけではないが・・・・・・。」
ムーさんの呟きなんぞ聞こえてないのか今の彼女は完全に妄想トリップしてる。
うへへへ、とかほんと美人がそんな笑い方でいいのかと思ってしまうがそんなのはまったく持って気にならない彼女である。
彼女は自他共に認めるレズビアンであり彼女のホーム、地下六層はそんな彼女が作り上げた彼女のハーレム村になっている。
外見だけで中身が残念の良い例だ。
VRゲームは外見を弄る要素が『骨格などを変えると現実との齟齬が生じる』ということで顔のパーツや体脂肪率、種族的な特徴を除いて他は全て現実と同じということになっている。
そして顔や体脂肪率などを弄ると勘のいい人間だとわかるのだがこのギルド内にはそんな弄ってる奴はいない。
・・・全員『外見?なにそれおいしいの?』といった廃人プレイヤーという理由もあるが。
といってもアキさん、マイさん、逆月さん、最強さん、の女性陣は全員が全員美人の枠に入るのだから世の中は理不尽である。
「決めた。わしはこの世界に住む!!!」
「下心満載だな。」
あきれを通り越してむしろかっこいい。
だからと言ってああはなりたくないもんだと思ってしまったりもする。
「何?みんなして現実よりこっちがいいの?」
手を挙げた俺が言うのもなんだがすごいな。
さすが≪アルカナオンライン≫でチート呼ばわりされたメンバーだ。
「で、マイさんはどうするよ?」
「え?」
それまで黙っていたマイが呆けた表情をする。
「この中に誰もこの世界に来たことを後悔してる人はいない。そこで聞くがマイさん、あんたはこの世界と現実、いやもといた世界、どっちを選ぶ?」
よく皆の意見をまとめていたマイさんだからここにいるメンバー本気でこの世界がいいと思っている事がわかるのだろう。
彼女は少し考え込んでゆっくりと口を動かす。
「私はさ、ぶっちゃけると、高校生、なんだよね。」
え?その身長で?
だってこの子一四〇あるかないかですよ。
俺、中学生と思ってた。
「へえ、驚いたな。」
いろんな意味で。
「だけど両親は、事故でなくなって、叔父にひきとられたんだけど、完全に、邪魔者扱いで、それで。」
「そうか・・・・・・。」
少しばかり重たい空気。
しかしここは茶化す場面ではない。
彼女は真剣に話しているのだからこちらも真剣に――。
「ケモノにはまったの。」
真、剣、に?
「もうあのふわふわかんが堪らなくてでも家で飼えないしだからVRで我慢しようとか思ってたら案外これがよくて最高で家のことなんかどうでもよくなって向こうも成績さえ良ければなんの文句も言ってこないし休日なんか丸一日アポカリプスやっててどんどん嵌ってケモノ最高って感じで――――」
「ちょ、タンマ。」
え、どうしてこうなった?
なんで?どうして?
ここシリアスな場面じゃなかったの?
「えっと・・・・・・つまり?」
「ホームに戻ってケモノ達をモフモフしたい。」
「素晴らしい本音だな。」
いや、褒めてないから、顔赤くして照れないでいいから。
忘れてた。彼女もまたこのギルドのメンバーだった。
「えっと・・・・・・それじゃあ、みんなこの世界に住むという方向でいいのかな。じゃあ一度ここで解散してまた後にまた集合するということで。」
こうなるともはや話し合いどころではない。
まずは皆を一度ホーム戻らしてまた後で頭が冷静になった頃に話し合うことにしよう。
その頃になったらまた意見も変わるかもしれない。
「「はいっ!」」
言うが早いかそのまま音速に匹敵する速さで飛び出す二人。
どうやら転移するということも頭にないくらい興奮しているようで。
そしてその後に続いてちらほらと部屋から出て行くメンバー。
一人だけ転移していったアキさんが笑みを噛み殺している表情を浮かべていたのが印象的だった。
でもってぽつんと一人佇む俺。
「なんだかなぁ。」
なぜだろう、誰一人としてもとの世界に戻りたいと言うところが想像できない。
こうして俺達ギルドの異世界での生活が幕を上げた。
感想おまちしております。