プロローグ
VRMMORPG。それは全世界の人間を熱狂の渦に巻き込んだ、今では社会問題ともなっている品物である。
基本は携帯端末でプレイするオンラインゲームとなんらかわりない。
ただ現実と全くと言っていいほど違和感のないリアル感があるだけだ。
初期のVRMMORPGはそうでもなかった。
ただのフルダイブ式ということだけで『そこそこリアル』という感想が大多数で――それでも初期の頃は凄まじい人気だったが――今では最新のVRMMORPGの陰でひっそりと運営している。
そして一つ、また一つと徐々にその数を減らしていき、ついには初期のVRMMORPGは残り一つとなった。
そして昔は大人気だったVRMMORPG『アポカリプスオンライン』。それも今終わろうとしていた。
「お疲れー。」
「おつー。」
「ほんと疲れたー。」
サービス終了を前に運営側が全プレイヤーを虐殺する気で――どうやら本気でその気だったらしい――創られたレイドボス、『邪神』を今ログインしている全プレイヤーでやっと倒し、ファンファーレが鳴り響く。
そんな気楽な声が飛び交う中俺は、苦い顔をしてこの場に似合わない辛気臭い雰囲気をかもしだしているグループに歩み寄る。
その数六人。
全員が俺と同じギルド≪記録≫のメンバーだった。
ちなみにギルドメンバーはギルドマスターである俺を含めて七人だったりする。
「ほんと、こんなとこで何やってんの?ドロップ品が全部外れだったか?それとも他のギルドからPKされたとか?」
「んな奴いるかよ。あたしらはPKされる側じゃなくてむしろする側だろうが。」
「そもそも今回のドロップ品は皆同じように設定されているはずじゃしのぉ。」
俺の言葉に怒りを隠さないギルドメンバー。
うん、だろうな。
「なんだよ。もしかしてあれか?最後は大人数でボスに挑んで勝ってそのままさよならってんのは好みじゃないとか?」
「あー、そうだな。多分それであってる。さすがギルマス言いこというじゃないか。殺意が沸いてくるけど。」
「それは僕も賛成です。このギルドはあまり皆さんから良い目で見られることなんてありませんしね。」
「・・・ギルドでみんなとお喋りしたかった。」
うわー、みんなが俺を睨んできてますよ。うちのギルドの良心と言われるマイさんまでもがジト目ですよ。
「ま、まあ。そういうことなら今からギルドに戻ってすればいい話だ。つーわけでさっさと転移するぞー。」
俺ができるだけライトな雰囲気を出しているにもかかわらず、ギルド帰還専用の転移結晶を使うまで剣呑な雰囲気だったのは言うまでもない。
そんでもって帰ってきました我がギルド。
外から見れば丘のうえにひっそりと佇む古城といったものだが本拠地は地下八層にあったりする。
アイテムもそこに保管してあるのでじゃあ城いらねえじゃん、ただの飾りじゃねえか、馬鹿なの?死ぬの?と散々ギルドメンバーに罵倒されたがこれには深いわけがあるのだ。
考えてみてほしい。
地下深くにギルドをつくってそのまま丘にぽつんとひとつ穴を開通した所でなんの面白みがあろうか?
え、これがギルド?ただの穴、それか初級ダンジョンの入り口だろ?しょぼwww。と言われるのが落ちである。
鬼畜ゲーで知られる『アポカリプスオンライン』きってのトップギルドがそんなので許されるか?いや、許せない。つまりこれはギルドの威信に関わるものであってそこには個人的な欲望などまったくないわけで――
副ギルドマスター:つまりただの見栄ですね?
ギルドマスター:はいその通りでございます。(土下座)
いや自分の城って全世界の男が共通して夢見るものだと思うんだよね。
そんなこんなで古城の制作費はギルドマネーではなく全て俺のポケットマネーで支払うこととなり、おかげで城が完成したときには俺の残金が5ケタほど消えていたのは今でも忘れられない。
あれはいろんな意味で涙が止まらなかった。
閑話休題。
「で、このゲームも後十分ほどで終了となるけど誰かこれだけは言っておきたいとか、あったりする?」
皆が皆、他のメンバーの顔色を伺う。
他のプレイヤーの事など一切合切、気にもとめないが仲間内となると周りを気にするのがうちのギルドメンバーだ。
ギルドマスターとしてはなかなか嬉しいことである。
え、俺?なんのことですかね?俺もミナサンにヨクしてもらってマスヨ?
・・・うん、どこにでもいじられ役っていると思うんだ、それがギルドなスターでも、ね。
物思いに耽っていたら一人、おずおずと手を上げた。
「あー、それならあたしからでいいかな?」
「お、では最強さんからどうぞ。」
「その名で呼ぶなって。・・・・・・えっと、これでこのゲームも終わるわけなんだけど皆はこれからどうする?」
「どうするって?」
いつもの勝気な短気な彼女らしくもない随分と遠回りな言い方だった。
「ほら、また別のオンラインゲームでもするのかなって。いや、別にしないという選択もあるけどさ。」
「んー?俺はこのまま引退するのも悪くないと思っている。他は?」
「僕はいま迷っている。」
「私もです。」
「わしもかの。」
「僕もですかね。」
皆口々に迷っているに賛同の声をあげる。
俺としては結構意外なことだった。
こいつらの性格からして迷うなんて早々お目にかかれることじゃないからな。
「みんなゲームじゃなくてここが好きだからだと思う。」
そう発言したのは先程話し合いを提案したマイだった。
≪キリキリマイマイ≫略してマイ。彼女はこのギルド唯一の良心と呼ばれその小柄な体躯とは裏腹に一癖、二癖もあるギルドメンバーの意見をまとめることができる人だ。
「みんな他の人から嫌われたりチーター呼ばわりされてきたから。でもここはそんなことなかった。多分にーさんが色々がんばってくれたからだと思う。けどにーさんが抜けるとみんなが纏まることは無いと思う。方向性がみんなしてばらばらだから、多分無理。みんなそう思っているから、だからにーさんが引退するからみんな迷ってる。」
たどたどしくもはっきりとした意思表示。
その目は俺から焦点を外すことなくただ俺の答えを待っていた。
「ん。なら続ける。」
「決断早いなおい。」
「おいおい最強さん。男として年下の女の子にここまで言わしといて即決以外何がある?」
「あたしは女だ。」
「ていうか、年下違うし。」
「いや、マイがその体躯で俺より年上だったらびっくりだ。」
「そんなことないし。」
「拗ねるな、拗ねるな。で、それでは次にみんなでプレイするゲームについてだが・・・。」
「私達の意見は無視ですか?」
「カカッ、そういうなアキさん。どうせにーさんの答えでもうみんなわかっていることじゃ。」
「・・・・・・否定はしませんよ。」
「僕も同意見です。」
「次のゲームか・・・。うん、楽しそうで良いじゃないか。」
そこからはみんなしてあーだこーだと意見交換。
このとき俺達はあるたった一つの事を失念していた。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
ならばそのときの俺達にとって十分とはあまりにも短い時間だっただろう。
だから――
「え?」
気付いたころには遅かった。
周りの風景が徐々に白くそして眩しい光が辺りに満ちていた。
その光は徐々に俺たちを包み込むようにして――
俺達は意識を失った。