FILE8 分断
『なんだありゃ?』
轟音をあげている物体に向かって、なんともアホらしい事を言ってしまった。
こっちに向かってきているのはよく見慣れた大型トラックであった。
この惨状に見舞われてからはまともに動いている車を見ていなかったのである。
大型トラックは前方にいるゾンビ達を轢殺している。
『よし!その調子だ!ゾンビどもを皆殺しにしてくれ!』
嶋村が意気揚々とゾンビ達を轢殺するトラックを応援している。
ゾンビ達は何トンもの重さのトラックに潰され、血溜りと臓物を道路にブチまける。
そして、その上をトラックが通り赤黒い軌跡を描いている。
『助け船だな。よかったよ‥』
北川巡査は安堵の声をあげてトラックを見る。
『でもあれ運転してるの誰なんだろ?』
かなえが運転席を目を細めて眺めている。
しかし、轢殺される凄惨な光景に目を背ける。
トラックのバンパー周辺は血液やよくわからない臓物、皮膚などが付着して真っ赤になっている。
スピードを緩める事なくトラックはゾンビ達を轢殺していく。
ドシャ!グシャ!
と潰される鈍い音が道路に響く‥
『おい‥この距離であのスピードってヤバくねぇか?‥』
俺は額から冷や汗をかいていた。いや、背中にも冷や汗をかいている‥
俺の勘はよく当たる‥
この後いい事は起こらないだろう‥
『ありゃどう見ても80キロ以上でてるぞ!みんな逃げるんだ!』
北川巡査はかなえを引っ張って来ていた道を走って引き返す。
やっぱり俺の勘は当たった。半ば自身の勘の良さに冷笑しながら目前の驚異に集中する。
『川田、早くあっちに行くぞ!』
嶋村がかなえ達の方向に走りだそうとした。
『バカッ!そっちはもう無理だ!こっち行くぞ!!』
俺はそう叫びながら嶋村の腕を引っ張ってかなえ達とは反対方向の道へと全力疾走で走った。
トラックが最後の一体を轢き殺した音が聞こえた。
トラックとの距離は後10メートル足らず!
(もう後は走り抜けるしかない!!)
心中でそう感じ取り、本気で走る。
道路を走り抜けた直後、背後で大型トラックが民家の壁に激突する。
ゴガガガガガ!!ドガシャー!!!
コンクリートが壊れなんとかトラックは停止した。
『ふぅ‥助かったぜ‥』
乱れた呼吸を落ち着かせ、汗を拭う。
『マジで死ぬかと思った。んだよ、あのトラックはよ!』
嶋村が息を切らせながら悪態をつく。
『おい!危ない!!!』
トラックの向こう側から北川巡査の叫び声が聞こえてきた。
(え?なんで?)
そう思った刹那、背後で鼓膜が破れるかと思う程の爆発が起こった。
ガソリン漏れがエンジンのスパークで引火したらしい。引火したガソリンは一気に爆発へと変わった。
この住宅街一面の壁が、地面が、空気が、世界が振動する。
俺と嶋村は派手に吹き飛ばされた。
そして数メートル飛んだかと思うと、この世の摂理に例外なく重力によって地面に叩きつけられる。
『うぐぁ‥ぐはぁ!』
地面に叩きつけられた衝撃で肺の中の酸素が抜けて一時的に呼吸ができなくなる。
『かはっ!‥はっ!』
しばらくむせ返るとなんとか呼吸が安定してきた。
『がはッ!ハァ‥ハァ‥』
隣で嶋村も倒れながらなんとか呼吸している。
『ゴホッ!‥つっ‥嶋村、無事か?…』
顔を歪めながら嶋村の背中を叩く。
『な、なんとかな‥クッソ、なんでこんな目にあわなきゃなんねぇんだよ‥』
苦しそうに腹部を押さえながら起き上がる。
『フッ、とんだアクション映画だな‥』
少し笑えた事に素直に喜びを感じた。
まだ俺は冗談を言える余裕が残っている。
辺りにはトラックの部品やパーツであったろう物が転がっている。
『おーい!川田君に嶋村君!!無事なのかぁ!?』
『ちょっとー!お願いだから二人とも返事してよー!!』
北川巡査とかなえの声が聞こえる。
どうやら二人は無事だったらしい。
『なんとか大丈夫だ!そっちは!?』
嶋村が立ち上がり二人に問い掛ける。
『こっちは爆発の前にある程度距離があったから二人とも大丈夫だ!』
『じゃあよかった。なぁ!二人ともなんとかこっちにこれないか!?』
俺も立ち上がり二人に聞いてみた。
トラックは炎上し、見た限り消防車でもないと鎮火できないだろう‥
『無理だ!火の手が強すぎる!近づくのも困難だ。それに、丁度T字路で道を塞いでいるから回り道もできない!この住宅街は防犯意識が高くてな、塀も尋常じゃない高さなんだ。
道幅もこのトラックでギリギリだ!』
北川巡査の説明が俺達が完璧に二つに分断された事を証明した‥
『分断されちまったな‥
なんとか合流しなければいけない。どこか合流できる場所はないか!?』
俺は少ない土地勘を探る。もともとあまりこの街には来ないのだから詳しくなどない。知っている場所もたかが知れている。
『じゃあ、ここから南の方角にあるショッピングセンター分かる!?』
『嶋村どうだ?場所分かるか?』
『いや、分からん。』
嶋村は速答した。
『悪いが俺達じゃ分からない!それにショッピングセンターってメッチャゾンビいる筈だぞ!映画じゃあるまいし、別の場所にしようぜ。』
俺はかなえの提案した場所は辞めておいた。
『それならここから西にある郵便局にしましょ。
そこなら地図見なくても看板とかあるから分かりやすい筈よ。
そこは戸締まりも厳重だし、荷物とかも一杯あるから万一の時、バリケードも作れるわ。
私が中学生の頃、郵便局で働いてる親戚いたから入らせてもらったの。裏口からはパスコードが必要なんだけどね‥たぶん正面入り口は塞がれてると思うから裏口しかないはず。』
かなえがそう提案する。
『じゃあ裏口のパスコードは何なんだ?』
俺がそう問い掛けるとしばらくしてかなえから返事がきた。
『わ、忘れちゃった‥もう中学の頃だから覚えてないわよ。』
かなえがいかにも、
「やっちゃった」
というような口調で答えた。
『そんなんじゃ入れないじゃんか。』
嶋村がおいおいと言っている。
『確か郵便局に関係ある数字だったはず‥4桁だったのまでは覚えてるけど‥
とにかく、郵便局に着くまでには絶対に思い出してみるわよ!』
かなえが自信気に言った。
『了解した。とりあえずここから西の郵便局ね。俺達より先に郵便局に着いたら隠れて待っててくれ。』
『じゃあ私達はこの道を戻って郵便局への道を探すとしよう。
川田君も嶋村君も気を付けてくれよ。かなえさんは私が責任持って守るよ。』
凛とした北川巡査の声が聞こえてきた。
『そっちこそ気を付けて。かなえをヨロシク頼みますよ。』
俺はなんで父親みたいな事言ってんだ?
と、自分で笑った。
『とりあえず早めに郵便局で合流しような!』
嶋村が服についたら汚れをはたきながら言う。
『何かあったら無線で連絡くれ。周波数は全ての無線機に繋がるように合わせてあるから触らないでくれよ。』
腰に付けた無線機が頼もしく見えた。
『了解。じゃあ後程郵便局で‥』
俺達は炎上するトラックに背を向け歩いて行った。
北川巡査とかなえも、来た道を戻っていく。
そして川田と嶋村が道を進み、北川巡査とかなえが曲がり角を曲がって20分後‥
炎上するトラックの荷台のドアが吹き飛んだ。
そこからは三体の物体が転がり落ちてきた‥
そして三体とも立ち上がり、一体は炎上するトラックの下を這って進み、北川巡査とかなえ達の方面へ向かい、もう二体は川田と嶋村達の方面へと向かって行った‥
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