FILE7 再出発
FILE7はいつもより結構長めかもしれませんが、お楽しみくださいm(__)m
俺達は北川巡査に言われた通り、少し離れた場所に待機していた。
しばらくして一発の銃声が響き、北川巡査だけが戻ってきた‥‥
『あの‥中谷さんは?‥』
かなえが心配そうな表情をして北川巡査に問い掛ける。
『彼は‥中谷は死んだ‥ヤツらに噛まれてしまったから自分で生命を絶った。
そして、これを最後に渡してくれたよ。』
北川巡査は.38スペシャル弾の箱を何個か取り出した。
『え‥そんな‥中谷巡査が、死んだって‥』
嶋村が驚愕の表情で北川巡査の服を掴んだ。
『な、何故‥こうなっちまったんだ!』
俺は震える声をなんとか抑えつけて拳を握る。
爪が食い込む程力強く‥
『すまない‥中谷を助けだそうとしたがその時に噛まれて‥中谷がなんとか噛み付いたゾンビを殺したが、足をひどくやられてもう立ち上がるのも困難だった。そして彼はゾンビになるよりも死を選んだんだ‥』
北川巡査は涙を零しながら無理に淡々と説明した。
『そんな‥‥こんなのってないよ!どうしてこんな事になっちゃったのよ‥』
かなえが泣き崩れて叫ぶ。
さっきまで普通に話していた人間が一瞬後には死に絶え、そしてゾンビになって襲ってくるのだ。
そんな事経験した事ある人間なんていないだろう。
誰でもショックを受ける筈だ。
『彼は最期に、協力し、ここからみんなで生き残ってほしいという願いを私に託した。私は何があっても君達を守る。』
北川巡査は決意に満ちた目で俺達を見渡す。
『絶対にみんなで生き残ろうな!』
嶋村が頷きながら真剣に言った。
『あぁ、これ以上誰一人欠ける事なく生き残って脱出しような!』
俺も真剣に心の底から願った事を話した。
『私も絶対にここを脱出する!早く帰ってシャワー浴びたいなぁ。』
かなえは無理に明るく振る舞っているがしっかりとした決意は涙が流れていたその目から読み取る事ができた。
『よし!じゃあ行こうか。じゃあな、中谷。』
北川巡査は振り返り、敬礼をしている。
俺もそれに見習い敬礼をする。嶋村もかなえも見よう見真似で敬礼をする。
『みんなありがとう。これで中谷も浮かばれるよ。』
優しい表情をした北川巡査が向き直って微笑みを見せた。
『これからどうする?警察署とはおさらばだけど、行き先が決まってなかったよな。』
俺は腕を組んで考える。
すると中谷巡査が胸のポケットから地図を取り出した。
『今はここだ。分かるね?警察署がここにあって近くにはデパートが多数ある。ゾンビ達の侵攻はたぶんこの街一体に広がっていると考えよう。
そうなると脱出経路は‥』
『デパートとかはたぶん一杯ゾンビがいると思うからなるべく人通りが少ない道にしようよ。』
かなえが地図のデパートを回り込むルートを指で記した。
『その通り。デパート近辺の人が集まってる所は大混乱が予想される。
だからかなえさんが言ったようにデパートへは近寄らず、迂回するルートを通ろう。』
かなえが指し示したデパートの裏の住宅街を抜け、回り込むように進むルートを行く事にした。
『でもこの住宅街、T字路が一つある以外ずっと一本道だな。ゾンビが大量にいたら危険だな。』
俺は顎をさすりながら険しい表情で指摘する。
『どっちみちデパート付近にはもっといるんだからこの道しかないじゃん。
川田、もし大群だったら引き返してまた別のルートを探そう。』
嶋村が俺の肩を叩いた。
『じゃあここを進もう。ん?出やがった。』
角から現れたゾンビに向かってM37を発砲する。
一発で鼻の横に穴を開けてゾンビを殺した。
『さすが川田だな。射撃の腕は確かだ。』
嶋村が自分のニューナンブを撃つ真似をしている。
『川田君は俺より射撃上手いかもな。』
苦笑しながら北川巡査がホルスターにニューナンブをしまう。
『ま、とりあえず進もうぜ。えーと‥確かこっちの道だよな。』
お先に歩くと後ろから声が聞こえる。
『川田君、こっちだよ!』
三人が笑っている。
嶋村なんて腹を抱えて爆笑していた。
『おいっ!そこまで笑うなよ!』
俺はツカツカと戻った。
『君も意外と抜けてるとこあるんだね。』
北川巡査もずっと笑っている。
『もうわかったから早く先に進もうぜ!』
俺は三人の背中を押して正解の道を進む。
それからしばらくして住宅街に到着した。
周囲を見渡したが被害はあるようだ。
コンクリートの壁に所々血痕が付着している。
『やっぱここにもいるようだな‥』
M37をホルスターから抜いて慎重に前進する。
『またここにもいるの?』
かなえがニューナンブを慣れない手つきで構えて怯えている。
『よし、じゃあ俺が先行する。』
M37を構えて進むと嶋村が追い掛けてきた。
『俺も一緒に行くぜ。かなえは北川巡査がついてるから大丈夫だぜ。』
嶋村もニューナンブを構える。
『了解した。じゃあ嶋村は右側の家を頼む。入り口に潜んでるかもしれないからな。俺は左側をやる。』
一軒一軒入り口にリボルバーを向けて侵攻していく。しばらく進んだ民家の玄関にゾンビが立っていた。
『くたばれ‥』
M37をゾンビの頭へ向けてトリガーを引く。
.38スペシャル弾がゾンビの頭部を破壊し、壁にもたれかかるように崩れ落ちる。開いた入り口からは女性のゾンビがヨロヨロと出てきた。
嶋村が片手でニューナンブをゾンビの額に向けて発砲した。
倒れたゾンビはしばらく痙攣すると静かになった。
『やっぱ初心者が片手で撃つと多少反動キツいな。』
嶋村が苦笑しながらリロードする。
俺もシリンダーを解放させて.38スペシャル弾を装填した。
振り向くと50メートル程後方からかなえと北川巡査がニューナンブを構えながら追ってきている。
嶋村側の民家の入り口から次は4体ものゾンビが現れる。
『クソがっ!まだいやがるのか!』
M37をゾンビに向けて連射する。
パァン!パァンパァン!!
乾いた音が何回も響き、ゾンビを2体殺したが一発はゾンビの胸に着弾している。ゾンビは少しよろめいただけで進んでくる。
パァン!
嶋村が1体を射殺した。
俺は近くに落ちている鉄パイプを手に取り、バットの要領でフルスイングした。鈍い音がして脆くなった頭が千切れ落ちる。
『弾は節約しなきゃな。バカ撃ちしてたら重要な時に弾切れしちまう。』
リロードしながら前方を確認するとちょうどT字路が見える。
『あそこでちょうど半分か。まだ長いな。』
嶋村が汗を拭っている。
T字路まで来るとそこにはゾンビの群れがいた‥
その数はゆうに15を越えている‥
『おい‥マジかよ‥さすがにこの数はな‥』
大量のゾンビに逆に笑いが漏れる。
冷や汗が流れて体が本能的に拒否反応を示す。
『川田‥どうするよこれ?ヤバくねぇか?‥‥』
嶋村も引きつった笑みを浮かべている。
そして一番近くにいるゾンビが振り向いた。
それに併せて他のゾンビ達も気付いたらしい。
ウゥウァァ‥
アアァオゥ‥
うめき声がコーラスのようにT字路に響く。
かなえ達は近くまで来ている。
『ゾンビが大量にいやがる!ここを突破しなければ街から離れられない!援護してくれ!』
二人に叫ぶと二人は走ってきた。
『うぇっ、こんなに一杯いるの‥』
かなえは嫌悪の表情を浮かべてニューナンブをホルスターから抜く。
『さすがにこの数は‥』
北川巡査は呆気に取られながらニューナンブを構える。
『よし!行くぞッ!!』
M37を構えて走りだそうとした時、前方、ゾンビ達の向こうから轟音が聞こえてきた‥‥