FILE36 再会
「かなえさん、こっちだ。奥にまだ部屋がある。」
嶋村とかなえは捕まった仲間達を探しにキマイラの開けた穴から通路へと進んでいた。
川田を残し、進んで行く彼らの後方から銃声やキマイラのあげる雄叫び、川田の怒声が聞こえていた。
二人はその戦闘の音を聞きながら気が気じゃなかった。
自分達が戻った時には川田は既に絶命し、肉塊にでもなっているのではないかという不安が渦巻いていた。
だが、川田は約束したのだ。必ず生きて帰ると。
今は川田を信じて進むしかない。
「ねぇ、銃声が止んだよ?‥川田君、勝ったんだよね?‥大丈夫だよね?‥」
かなえがそうだと言ってくれとばかりに嶋村に詰め寄る。
「あ、当たり前じゃん!川田が負けるはずないよ。とにかく俺達は皆を助けださなきゃ。」
無理に笑顔を作って嶋村がかなえを励ます。
嶋村だって親友が化け物と死闘を繰り広げているのを見て、不安が募っていた。
いくら強い川田でもあんな化け物に勝てるのかわからなかった。
「よし、ここを見よう。」
嶋村が散弾銃を構えて慎重にドアを開ける。
金属の擦れる甲高い音が辺りに響く。
内部は物置のようで埃が積もっていた。しばらく二人で漁ったがたいした物はなかった。
「次行こうか。」
かなえが次のドアを慎重に開けた。
「ここだ!」
嶋村が勢いよく中に入ると磔のようにされた仲間が今にも処置されそうだった。
全員、猿轡をかまされて喋れないようだ。
「待ってろよ、今助ける!」
嶋村とかなえが手枷や足枷を解き、全員が無事救出された。
「た、助かった‥マジで死ぬかと思ったぜ。」
上田が首を振って骨をならして言った。
「怖かったよ‥もう生きて出られないと思った‥」
真里亜が目に涙を浮かべてかなえに抱きつく。
「大丈夫。大丈夫だからね。」
かなえが慈愛に満ちた母のような穏やかな表情で優しく真里亜を抱き締める。
「こんなとこにはりつけられて肩がこって仕方がなかったわ。」
岡本がわざとおどけた笑顔を見せる。
「僕ももう終わったと思ったよ。」
西野も冷や汗を浮かべて肩をほぐしている。
「とにかく助かったよ。それより川田君は?」
北川がそう言うと一同は静まり返った。
「私が説明するわ。」
かなえが今までの経緯を一同に説明し始めた。進んでるうちに、闘技場のような場所に出て、あの科学者から皆を助けだしたいなら化け物と戦えと言われ、当初三人で戦ったこと。
化け物はキマイラという名で、双頭の合成生物でかなり強い敵だったこと。
途中、キマイラが突撃した壁が崩れ、穴が開き、川田が自分を残して先に救出に向かえと自分達を送り出したこと。
向かってる途中で銃声が止み、戦闘は終わったらしいがどちらが勝ったかわからないこと。
「そんな事があったのか‥」
北川が全ての話を聞いて驚いた。
「とにかく、川田君のいる所に戻ろうか。」
北川を始め、全員が嶋村達が通ってきた道を戻っていった。
すると、前方から乾いた足音が聞こえてくる。
暗く、埃が舞う廊下の向こうから現れたのは川田だった。
「川田君!良かった!生きてたのね。」
かなえが走り寄って川田に涙混じりの笑みを浮かべる。
「大丈夫だったのか。マジで良かったよ‥川田がもし負けてたらって思うと気が気じゃなかったぜ。」
嶋村が胸の支えが取れたかのようにため息をする。
「俺は絶対に負けねぇんだよ。」
川田が皮肉そうな笑みを浮かべ皆を見渡す。
「でも、体とか大丈夫かい?傷だらけじゃないか。」
北川が川田の全身についた傷を見て心配そうにしている。今までの戦闘で服には血の染みが滲んでいた。
「今回はさすがに厳しかった。正直ブッ倒れそうだ。」
川田は激しい戦闘の連続に体を酷使しすぎていた。
体格がいいとはいえ、まだ成長期途中の少年だ。
さすがに堪えているだろう。
「ムリしちゃだめだよ。」
かなえが川田の傷口を見て心配そうに言う。
「ムリしなけりゃ死ぬのが相場だろ?とにかく、ヤツの所へ向かおう。」
川田は全員を連れてヤツのいる場所へと向かおうとした。
必ず建物内のどこかにいるはずだ。
痛む体に鞭を打ち、川田は部屋を一つ一つ調べていく。
調べていくうちに、敷地内から街の外へと脱出できる道と車両があることがわかった。
これを使えば感染区域であるこの街から一気に脱出できるだろう。
「これで脱出できるのね。早く安全な場所に行きたい‥」
真里亜がある車両のある場所を見て呟いた。
西野も早く乗りたくて仕方がないようだ。
「先にこの車両を準備しといてくれ。俺はヤツとケリをつけてくる。」
川田がベネリM3に散弾を込め、M37エアウェイトにも38スペシャル弾を込める。
「また一人で行く気なのか?」
上田が心配そうに川田の行動を見守る。
「大丈夫ですよ。終わらせてきますから。」
川田は強い決意をその目に浮かべていた。
もう彼の信念を曲げることはできないだろつも感付き、上田は引き下がった。
「川田君!絶対絶対戻ってきてよ!約束だよ!もし破ったら私銃弾千発飲ますからね!」
かなえが手をメガホンのようにして川田に叫ぶ。
なんだそりゃと川田は言って背を向けて歩きだした。
「川田‥」
背後で嶋村の声がした。
「どした?」
川田が振り替える。
「必ず戻ってこいよ。また帰ったら一緒に遊びにいこうぜ。」
嶋村が屈託のない笑顔を見せる。
川田は寂しげな笑みを浮かべてそのまま奥へと向かっていった。