FILE32 経緯と捜索
化け物男との死闘の後、川田と嶋村と北川は手当てを受けていた。
嶋村と北川の怪我は打ち身や擦り傷と大した事ないが、川田は切創、打撲と治療が必要だった。
「大丈夫ですか?私があんなのに追われてなければ‥」
悲痛の表情で真里亜が川田の応急手当てをする。
女の子らしいカワイいハンカチで川田の腕の血を拭き取り、止血していた。
川田の着ているOD色のシャツに赤黒い染みが付いている。
あの化け物との戦闘で予想以上の痛手を食った自分を苦々しくも思った。
「いや真里亜ちゃんが気にする必要はないよ。どっちみちあの化け物は俺達を見つけてただろうし。仲間が増えただけでもよしとしよう。」
川田は痛む身体に自分でも応急手当てをしながら真里亜に言った。
「でも昨日もお前ムリしてたんだからよ。そろそろ限界じゃないか?」
嶋村はずっと一緒にこの地獄を生き延びてきた相棒の事を心配している。
「確かに楽勝ではないが限界でもない。俺に限界が来る時は死ぬ時だけさ。」
川田は皆に心配を与えないように強がってみせた。
しかし、確かにキツいがまだまだ戦う事もできる。
「とりあえずこれ飲んどけ。鎮痛剤にもなる。」
岡本がリュックから錠剤の入った小瓶と水が入った水筒を川田に差し出した。
小瓶には様々な症状に凡庸的に使えるような事が記載されていた。
「ありがとうございます。」
川田は錠剤を3錠口に入れ、水を流し込んだ。
「それで、胡桃沢さん。貴女のこれまでの経緯を聞きたいんだが。」
北川は情報を集めようとしているようだ。
「はい、わかりました。私は昨日友人の紅坂唯と街へ出掛けてました。それで、川田君と肩がぶつかって一度会ってます。それから二時間もなかったと思います。救急車がやけに走ってて、パトカーも一杯いるから何かが起こったんだとわかりました。」
真里亜は思い浮べるように言葉を出す。一度間を置いた真里亜は周りを見回した。
「それて、私は不安になって唯と移動しようとしたら、いきなり人が人を襲い始めて‥私達もパニックになっちゃって‥とにかく逃げようと思って二人で走ってたらファミレスから川田君と嶋村君がゾンビを倒しながら移動してるのが見えました。それて、なんとか私の家に着いてしばらく隠れてました。テレビも映んないし、電話も使えないので三階で双眼鏡を使って見てたら街がすごい事になってて‥」
思い出したのか真里亜は口に手をあてる。
「そこでも川田君達を見ました。なんか、ナイフ持ってるキモい人と戦ってました。」
川田があの時か。と呟いた。
「それからなんでかわからないけど家にもゾンビが来て、二人で逃げたんです。それで、内側から鍵がかけれるプレハブで夜を明かしました。それからそこにあった缶詰めでご飯をとって、街から出ようとしたらあの化け物が‥逃げてる途中に唯が別の道へ行っちゃってはぐれちゃったんです‥」
一通り説明を終えた真里亜は友人の事が心配で仕方ないようだ。
「大変だったね‥真里亜ちゃん‥」
かなえが真里亜の長い髪を撫でた。
「その友達はどこに行ったのか分かるか?」
「そう遠くはないんですが‥」
この近くならそのまま探してあげた方がよいのではないかと川田は考えていた。
研究所は目前だが、生存者が増えるなら研究所は後回しにしてもよさそうだ。
「離ればなれになった子の捜索を優先した方がいいかもな。」
「でも研究所も早めに押さえとかねえといけねえぞ。」
嶋村が川田と別の意見を唱えた。
どちらも今後の行動のために重要なだけ、安易には決められない。
「だが研究所は動かないんだ。そっちより人命を優先しよう。」
上田が紅坂唯捜索に賛成をした。
「ワシも捜索した方がいいと思う。」
「そうだよな。焦る必要はなかった。そうと決まれば移動しようぜ。」
嶋村も納得し、研究所の付近1キロ程度を捜索する事にした。
研究所に近づくにつれ、ゾンビも増えてきているようだ。川田は的確にゾンビの頭部へM37エアウエイトを発砲する。
人体の全てを司る脳を破壊されたゾンビは血をほとばしりながら絶命する。
岡本も熟練の射撃術でゾンビに散弾を叩き込んだ。
嶋村も、少しづつではあるが上達が見られる。
北川は愛銃ニューナンブを見事に扱い、的確に急所を狙う。
「多分ここら辺だと思います。」
真里亜が示した場所は普通の道である。唯が逃げたルートを見ると、何かが落ちているのが見えた。
近づいて拾ってみると、白色の携帯電話だった。
「あ!これ唯の携帯電話です!」
川田から携帯電話を渡してもらうと真里亜は携帯電話を開いた。
画面はヒビが入り、少量の血液が付着していた。
「イヤッ!」
真里亜は驚きと恐怖の表情を見せた。
「血‥か。ここらに血が落ちてない事を考えると手遅れではないな‥」
川田は冷静に推察し、更に足を進めた。現れるゾンビどもにはM37エアウエイトかベネリM3で鉛弾を食らわした。
既に全員は死に慣れてしまっていた。嫌でもこんな状況にいれば誰でも慣れちまうだろうな。
と川田は一人ゾンビを始末しながら考えた。
「どこにもいないじゃねぇか。」
上田が見つからない事に苛立ちを押さえられなくなっているようだった。
かれこれ1時間捜索しているが、現れるのはゾンビだけだった。
そして、いつしか一行は知らぬ間に徒使波バイオテクノロジー研究所の前へとやってきていた。