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FILE31 死闘

移動はそこまで苦もなくできた。やはり人が多い所にはゾンビ達が多数群れていたが、川沿いの堤防を歩いているとゾンビはまばらに点在しているだけだった。見晴らしがいい分危険性も少ない。


「案外楽だな。ゾンビも大していないし。大方のヤツらは街中にいるんだろうな。」


上田がカメラでゾンビを撮影しながら呟く。


「多分そうだと思うよ。あ、なんか前方に事故車がある!」


かなえが指差した先には正面衝突したのだろうか、二台の軽自動車が大破していた。


「あの壊れ方じゃ中の人は生きてないだろうな‥」


北川が警官らしい見解で事故車を見て言った。



その時、大破した車の向こう側から叫び声が轟いた。

若い女性の叫び声だ。


「おい!まだ生きてるヤツいたんじゃねえか!皆、助けに行くぞ!」


嶋村が率先して走りだす。それに続いて川田、北川と走りだした。


「こっちに来い!今助けに向かってるぞ!!」


川田が嶋村を抜き、事故車の向こうへ行った時、そいつは『いた』


高校生、川田や嶋村と同じ年代の少女の後ろに、巨大な体躯をした青白い肌の大男。

右前椀からは金属に似た鋭い刃物が不規則に突き出し、肩からはしなやかにしなる触手が伸びている。

その大男、いや、化け物が少女を悠然と大股で歩き追跡している。



「な‥なんだありゃ?‥」

川田はその異様さに絶句した。

続いてやってきた嶋村と北川も化け物の姿を見て驚愕する。


「マジかよ‥あ、アイツって昨日戦ったようなおかしなヤツの仲間なのか?」


嶋村の頬を汗が流れる。


「私も昨日戦ったが、あんなヤツよりもこいつはまがまがしい‥」


北川も緊張を隠しえない。


「少なくともこいつは俺達の味方って訳じゃないな。」


川田はベネリM3をポンピングした。頼もしい金属音が鳴り、その音に気付いた化け物が川田達をその虚ろな目で捉えた。


「助けてください‥助けて‥」


泣きながら少女が川田に抱きつく。


「大丈夫、とりあえず後ろに仲間がいるからそっちに隠れてて。」


川田は少女を後ろに促すと、ようやくやってきたかなえ、岡本、上田、西野、イリャーナの方へ保護してやってくれと伝えた。



「おいおい‥こんなのアリかよ。」


上田が震える手でカメラのシャッターを押す。


かなえは少女の肩を抱き、怯えながらも化け物を見据えていた。


西野はイリャーナと共に怯えた表情をしている。イリャーナは怯えながらも異形の者に吠えたてて威嚇し始める。


「なんて事だ‥ワシも援護しよう。」


岡本が前に出ようとすると川田が言った。



「いえ、岡本さんは万が一こいつが俺達を殺したりした後、そうしなくてもそっちに攻撃を仕掛けたりする時に皆を守ってください。ここは俺達3人でなんとかします。」


川田はそう言うとベネリM3を構えた。


「勝てそうか川田?」


嶋村もウリカを構える。



「正直勝てそうにない。」


川田が自嘲めいた言葉を吐いた。



「しかし我々は負ける訳にはいかない。勝って生き残るんだ。」


北川がニューナンブを構える。


「よし、行くぞ!!!」


川田の掛け声と共に、3つの銃から弾丸が放たれる。

散弾が大男の胸に当たるが、少量の出血しかしない。

ニューナンブの38スペシャル弾も出血程度しかしないようだった。

大男は意に介さずそのまま前進する。


「クソッ、効かねぇぞ‥」

川田はなおも散弾を化け物に浴びせかける。


全員に焦りの表情が浮かんだ。


「この野郎!死ね!死ねよっ!!」


嶋村のウリカからセミオートで散弾が放たれ、化け物の胸元を穿つ。


「胸が厚いんなら、薄いとこを狙うだけだ!」


北川は頭部へ向けてニューナンブを発砲した。

川田も7発全てを使い切り、バンダリングからスラッグ弾を装填した。


「澄ました顔しやがって‥こいつは効くぜ!!」


川田はベネリM3を発砲した。先程とは桁違いの轟音が響き、化け物の胸を穿つ。

これはさすがに効いたようで化け物はよろめいた。

「撃て!とにかく弾幕を張るんだ!!」


川田の声と共に、リロードし終わった2人が化け物に向かって発砲する。

化け物の青白い肌に、赤やピンクの血液、組織、筋肉、骨が飛び散る。

地面には、血の跡が一本続いていた。


いきなり化け物は体勢を低くしたかと思うと落ちていた事故車の部品を掴んで投げてきた。

空を切り裂き、真っ直ぐ飛んでくる鉄片は直撃したら容易に死ねるだろう。


「クッ!」

川田は咄嗟に身体を捻って避けたが、左腕を擦り真っ赤な血が吹き出た。

鉄片は事故車のドアに直撃し、ドアを貫通して車内で止まった。


「川田っ!大丈夫か!?」


2人が川田を見るが、川田は軽傷で済んでいたようだ。

一瞬目を離した隙に化け物は目の前から姿を消していた。


「どこだ?‥」


北川が周りを警戒し、川田も立ち上がるがどこにもいない。

見えない敵ほど恐ろしい物はない。


(どこなんだ?周りにいないというならば残るは‥上空か!?)


まさかと思いつつ川田は上を見上げると、まさに化け物が降下してくる所だった。


「上だ!皆避けろ!!」


三人がそれぞれ跳んでかわした直後、三人のいた場所に巨体が落下していた。

凄まじい音と共に、コンクリートに亀裂が走った。


「反則だろこれは‥」


愕然としながら、近距離に来た化け物に向けて発砲する。

スラッグ弾が臀部に着弾し、皮膚を削り取る。


北川もすかさず背中に発砲するが異常発達した背筋によりダメージは微弱だった。

嶋村がウリカを発砲し、右腕に傷を与える。

腕の刃物に弾が跳弾し、鋭い音が響く。

化け物が右腕を振り回した。血液が飛沫となって飛び散り、刃が空を切る。


「危ねぇ!‥」


嶋村が間一髪で飛び退いて回避する。

川田がその隙にベネリM3を化け物の後頭部に向けて連射した。延髄が抉れ、組織が飛び散る。

化け物も痛みがあるのか、くぐもった獣のような声で咆哮を上げる。


「ウルセーんだよこの野郎!!」


川田もドスの効いた声で怒鳴りつける。



「こいつタフすぎるんだよ!!」


ウリカが火を吹き、散弾の雨が化け物を襲う。

化け物は再度跳躍し、一旦距離を取ってから嶋村へと突進した。

爆発的な筋肉の働きにより、スタートダッシュからものの2秒で嶋村の目前へと迫っていた。


「危ねぇ!!!」


川田はタックルを食らいそうな嶋村を突き飛ばし、身代わりに自分がタックルを食らった。

数メートルは吹き飛ばされて川田は地面を転がる。


ぶつかった衝撃で肺の酸素が抜け、川田は激しくむせた。


「ゴヘッ‥ガハァ!‥」


むせた川田の口からは血液が流れ出た。


(クソッ‥折れたか?いや、なんとか大丈夫だ‥)


腹部を触ったが骨折はしていなかったようだ。


事故車の後ろからかなえの絶叫が聞こえたような気がしたが、意識が朦朧としてよく分からない。


「川田ッ!川田ぁぁぁあ!!!」


近くで嶋村の叫び声がする。そして、必死でニューナンブを発砲する北川の姿。

(意識をしっかり持て!川田頼人!!)


自分を叱咤し、川田はなんとか立ち上がった。


北川と嶋村が応戦してる間にスラッグ弾を装填し、ポンピングする。


ジャキィッ!!

川田は鬼神のようなオーラを纏っているように見えた。


そこに嶋村と北川がが化け物に凪ぎ払われて吹っ飛んできた。


川田は無言でホルスターからM37エアウエイトを取り出すと、抉れた胸元に照準を付けて止まらず前進しながら引き金を引いた。

一発、二発、三発、四発、五発‥


全弾傷ついた胸元を抉り、化け物はよろめく。ぬらぬらとしたおびただしい血液が化け物の胸から流れ出た

弾切れしたM37エアウエイトをホルスターに戻し、スリングを肩から下ろしベネリM3を構える。

満身創痍の化け物は明らかに動きも鈍くなっている。


川田は突進すると、化け物の胸元に穿たれた穴にベネリM3を向けた。


「今、楽にしてやる‥」


一瞬化け物の濁った目が驚いたように見え、その後笑ったようにも見えた。


一瞬の静寂の後、ベネリM3から放たれたスラッグ弾の銃声が静寂をかき消した。

五発のスラッグ弾が化け物の胸内へと破壊しながら進んでゆく。

撃たれる度に化け物は痙攣していた。靭な筋肉を裂き、心臓へ達したスラッグ弾は心臓をメチャクチャに破壊し、とうとう化け物の生命活動を停止させた。


巨大な体躯がガクリと傾き、重々しい音で化け物は動かなくなった。


「終わった‥」


川田も満身創痍だ。地面に座り込み荒く呼吸している。


「川田君!!」


向こうからかなえを筆頭に皆が走ってくる。


「大丈夫!?大丈夫なの!?ねぇ!!!」


かなえが泣きながら縋りつく。



「なんとかね‥打撲と切創ぐらいだ。」


「よかった‥よかった‥」

かなえはまだ泣いていた。


「無事なんだから泣くな。」


「でもホントにこいつは何なんだ?ゾンビとは完全に別物だろ。」


嶋村も肩で息をしながら今は動かない化け物を見る。


「ああ、ゾンビじゃないな。こんなのはあの研究所しかやらないだろう。」


北川もリロードしながら化け物を見る。


「そいえば、あの子は?」

川田が言うと後ろから髪の長いかなえにも引けを取らない美人な少女が現れた。


「よかった、無事だったか。ケガとかしてないか?」

川田が問い掛けると少女は、


「大丈夫です。助けてもらって本当にありがとうございます。ケガはしてないです。あ、私は胡桃沢真里亜くるみざわ まりあっていいます!」


ペコリとお辞儀をし、真里亜は挨拶した。


「なぁにがケガないか?だ。お前が一番重症じゃねえか。」


嶋村が皮肉気に笑った。


「俺は頑丈だからいいんだ!って、俺は川田頼人。ヨロシク。」


その後それぞれ自己紹介をした。


「そういえば、私昨日川田君と嶋村君見ましたよ。街中で肩ぶつかってお互い謝って、その後はゾンビが出てから逃げてる時にファミレスから出て走っていくのも見かけました。」


真里亜はそう言うと、ニッコリ時笑ってみせた。


「ありゃ?会ってたのか。とにかくヨロシクな。」


川田と真里亜は握手をした。新たな仲間を見つけた一行は、先にある研究所を見据えた。

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