FILE26 推察
小雨が服を濡らし、体や髪を濡らす。銃身にも雫が滴り、グリップが滑ってくる。
「キツいな。郵便局まで後どれくらいなんだよ?」
嶋村が不満を言っている。
「こんぐらいでキツいなんて言うなよ。油断してたら死ぬぞ。郵便局まで後少しだから我慢しろ。」
川田が険しい表情で嶋村に言い放つ。
「僕も雨の中傘も無しに歩くのはキツいかも。」
西野も苦笑しながら言っている。
先程から30分くらい徒歩で移動してるが、ゾンビには会っていない。
その代わり、生きた人間にも会ってはいないのだが‥
服を雨が濡らし肌に張り付く。ベタベタとした感触が気持ち悪い。
「そりにしても、君達の知り合いとやらは無事に郵便局に着いてるのだろうか?」
岡本が雨で濡れた顔をタオルで拭きながら言った。
「多分大丈夫ですよ。ただ怖いのが俺達を置いて先に移動してる事ですかね。相変わらず携帯も使えないし。」
川田は携帯をポケットから出して開けるが、やはり電波は圏外のままだ。
川田は考えていた。
いくら事態が切迫しているとはいえ、もうこの町に生存者は極少ないだろう。
死者が警察や病院に電話をかける訳がない。
それに今は警察署も、多分病院も機能していないであろう。
警察署は自分の目で見てきたのだから‥‥
となると、考えられるのはやはり『誰か』が妨害電波を流しているのだろう。
しかし、何故?
こんな事をしてメリットはあるのか?‥‥
ほとんどが歩く死者で埋めつくされたこの町で何をしたい?
いや、何かをするからこそ妨害電波なんかを流しているのであろう。
生き残っている我々に外部と連絡を取らせないように‥‥
大体、こんな大惨事になっているのに警察のSATや自衛隊が来ないなんて事ありえないだろう。
圧倒的な情報流出の遮断。
外部にこの事態を知らせたくない者の目的とは?
こうなったからこそやれる事があるのか?
わからない‥まだ何もわからない‥
自分達は生き延びる事に必死でそんな裏に隠された話など考えてもみなかった。
多分、この町から我々を出そう等と毛頭も考えてないはずだ。
多分、トラックが爆発し、かなえ達と分断された後に遭遇した謎の化け物男達‥
ヤツが刺客なのだろう。
ならば、俺達は既に狙われていたのだ。
なんにせよ、この町から出る為にはそいつらと衝突する羽目になりそうだ。
これからは、ヤツらの計画も考慮しながら行動しなければ。
今も闇の中で息を潜ませて俺達を狙っているかもしれない。
そう考えていると、嶋村が何かを言った。
「おい、あれじゃねえか?」
その言葉で川田は思考を中断させた。
目の前には、郵便局と書かれた建物があった。