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FILE20 痕跡

『そろそろ移動しようか。行くぞ。』


少年は数時間前偶然見つけた犬、イリャーナと一緒に移動を始めた。

町中ではゾンビ共の呻き声しかしない。

たまに人間であろう絶叫が町中にこだましているだけだった。


少年はイリャーナを連れて住宅街から離れようとしていた。(それにしても生きてる人間はどれぐらいいるんだろう?‥全く会わないぞ‥)

一人そんな事を考えていた少年は住宅の少ない、田んぼ道を歩いている。

やはり人が少ない所にはあまりゾンビはいないようだ。しかも周囲に隠れる場所が少ないし、拓けているので居ればすぐに分かった。

少なければ逃げるのは容易で、少年とイリャーナは動きの愚鈍なゾンビから苦もなく逃走できた。

『とりあえず移動してるけど、どこに行けばいいんだ?ここらは田舎っぽいからヤツらも少なくていいけど‥』


一人と一匹は宛てもなく田舎独特の車両が通って草が無くなり、日本の線ができた道を歩いていると、少年の足元にコツンと何かが当たった。


『ん?何だこれ?』


少年は金属の殻のような物を拾い上げ、まじまじと見つめた。金属は、開けた所と反対側に何か細い物で打ち付けられたような跡があった。


『何だこれ?‥どっかで見たことあるような…あっ!これ銃弾のヤツだ!確か薬筴だ。』


その周辺にはいくつも薬筴が散らばっている。

そして、少年の行こうとする先には俯せに倒れ、血溜りを作っている人だったモノの姿がいくつか見える。

『誰か既に通って行ったらしいな。どうしようか‥薬筴が落ちてるんなら生きた人間がいるのかも。』


イリャーナは落ちている薬筴に鼻を近付けクンクンと匂いを嗅いでいる。

少年はイリャーナを連れ、川田達が死闘を繰り広げた集落へと歩みを進めた。

所々に血溜りが広がり、死体が倒れ、体の一部分が散乱していた。


『うっ!なんだこれ!?バラバラじゃないか…』


少年は口を押さえ、匂いを嗅ごうとするイリャーナを押さえつける。


集落はというと、集落内のどこかから火の手が上がっていて、空へ向かって煙が上っている。

少年は集落に入り、用心深く内部を探った。どうやらゾンビはいないようで、辺りには川田達が始末した死体が散乱している。

少年は古びた納屋を見付け入ると、中には使い道もない錆びたトラクターや、農作業で使う道具が置いてあった。


『こっちの方が使えそうだな。』


少年は片隅に置いてあった小さな手斧を取り、今まで持っていた武器を捨てた。

『あんな化け物と戦いたくないからコレを使うのは最終手段にしよう。』


少年はその後、煙を上げている場所へと向かった。

一番大きな屋敷がそこにあった。門は壊れ、中央には大破した軽トラックやガスタンク。そして、何十もの死体…


『いったい何があったんだよここで!?』


少年はその凄惨な場面を目撃して戦慄した。

『何があったんだよいったい?クッソ!訳わかんねえよ。』


少年は唯々凄惨なこの現場に動揺していた。

肝が据わっている川田が見たなら、

『大量のハンバーグの出来上がりだな。俺はやはり名コックだ。』


なんて、タチの悪いブラックジョークを平然と言っただろう。

『とにかくこんなとこに誰かがいるなんて思えないな。これをやった本人の死体がここにあるかは分からないけど、痕跡を追って助けてもらおう。』


少年は気分の悪さを思案する事で無理矢理抑えつけ、そのまま集落を後にしようとした。

しかし、どこからか足を引き摺る音が聞こえ、ビクンと震えた。

イリャーナは警戒し、低い唸り声をあげている。


足音はゆっくりと、しかし確実にこちらに近づいてきている。

(逃げろ!早く逃げなきゃダメだ!)

少年の心の声はそう叫ぶが、肝心の体はまるで鉄のように動かない。

(時間がない!時間がない!時間がない!もう来るぞ!来る!動けよ俺ぇ!)


少年は焦るが、一向に体は動かない。人間は本当に恐怖すると動かなくなる。いや、動けなくなる。

少年はそんな事起こらないと決め付けていたが、実際に起こりパニックになりかけていた。


体とは打って変わって、額や背中からは滝のように冷や汗が流れ出て、顎から滴り、服に染みを作る。

少年は先程の死体の山(数時間前に川田が軽トラックごと爆破したゾンビ達)を見て、改めて死の恐怖、人体が破壊される痛みを理解してしまい、それが恐怖という名の鎖になってしまっていた。


ズルズルと音を立てながら曲がり角からゾンビが現れる。作業着を着た中年の男が腸を垂らしながら近づいてきて少年を食らい、食欲を満たそうとする。ズルリと湿った音がして腹部から地面に腸が落ちるがゾンビは意に介さずただ少年に近づく。


(頼むよ!マジでヤバい‥助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!!)


近づくゾンビから目を逸らせず、ただ食われる時を待つしかできなくなってしまった‥

ゾンビが少年の肩を掴み、首筋に顔を近付ける。生臭い腐臭を嗅ぎ、吐き気をもよおす。少年は目を瞑り、両眼から涙を零して助けを求める。


『誰か‥』


少年はポツリと呟いた。

その時、鈍い音が少年の耳に入った。

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