FILE14 少年
少し放置していましたがまた再開しました。のんびり更新していくんで応援ヨロシクお願いします。
川田と嶋村が集落でゾンビの集団と死闘を繰り広げてから少し後、集落から1キロ程離れた場所である男が行動していた。
男の服装はジーンズに半袖で紫のTシャツというラフな格好をしている。
歳は川田達と同じぐらいだろうか。少し童顔な男だ。男‥いや、風貌からしたら少年は街中を息を切らせて疾走していた。
走りながら周りを確認する。どうやらゾンビに追われているらしかった。しばらく走り、追っ手を撒いた事を確認すると荒い呼吸を整える為に少年は立ち止まった。
膝に手を乗せ、肩で息をする。路上には少年から発せられる荒い息遣いしか聞こえなかった。
少年は走った為にカラカラに乾いた喉を唾を飲み込んで僅かでも潤す。
体中から汗を流してTシャツに汗染みができていた。
『なんでこんな目に合わなきゃならねぇんだよ‥』
少年は誰ともなく不満を口にした。『喉が乾いたな。ここらに自販機ねぇのかよ。』
この緊急事態でも人間、運動をすれば喉は乾く。少年は周りをキョロキョロと見渡すと、一台の自動販売機を見つけた。
『ラッキー!マジでツイてるぜ。』
こんな状況になってる事自体ツイてないと思うが彼にはそんな事まで頭が回らなかったようだ。
少年は自動販売機に駆け寄りポケットから財布を取り出して小銭を出す。
150円を投入してペットボトルのコーラを買った。ボタンを押して落ちてきた時の音が非常に響く。
『そういえば、あの訳分かんねぇヤツらから逃げてる途中にどこかで爆発みたいな音聞こえたけどなんだったんだろ?走ってたからわかんなかったな。』
独り言を言いながらペットボトルの蓋を開けようとする。しかし少年の目は釘づけになった。
『マジかよ‥そりゃないぜ‥』
隣のよく分からない店から若い男のゾンビが出てきた。獲物を見つけたゾンビは少年に歩み寄る。
『うああぁあぁああ!来るなぁぁぁ!!』
少年はその場から離れようと再度走りだした。
ゾンビの歩行スピードは遅い。すぐに少年との距離は開いて見えなくなった。
少年はやみくもに走ったので正確な現在地を把握できないでいた。
彼はこの町の住人である。ここは町の東部であまり来ないといえど、町内である事には変わりない。
彼はこの中垣町の北部に在住しているが、こっちに住んでいる友人とたまに遊ぶのだが、今は完全にパニック状態だった。
とにかく彼は走った。
息の続く限り走った。
そして安全そうな工場の資材置場へとやってきたのであった。少年は木材の影に腰を下ろすと、呼吸を整えてからペットボトルの蓋を開けた。
突然ペットボトルからコーラが吹き出す。
当たり前だ。あれだけペットボトルを振って走ったのだから中身が吹き出ない筈はない。
『おいちょっとマジかよ!クソ!』
慌ててペットボトルに口を付けるが3分の1以上はなくなってしまった。
資材置場のアスファルトに炭酸が染み込んでいった‥
少年は残ったコーラを一気に飲み干し、むせた。
そしてしばらくはここで休憩しようと留る事にした。
発汗し、火照った体に心地よい微風が流れる。
この状況には不釣り合いな穏やかな風が吹いていた。しかし、日々の喧騒は皆無に等しい。死人が徘徊し、人を食らう地獄に憐れした神様がささやかなプレゼントでもしてくれたのだろうか。
これが川田だったら、
『こんな風なんかより銃と弾薬をくれた方が100倍嬉しいね。』
と皮肉るであろう。
しかし少年はこの心地よい風に身を任せて熱くなった体と心を冷やし、落ち着こうとしていた。