FILE12 集落
今回はかなり長い話になっております。サクサク読みたいかたにはかなり長く感じると思われます。読む時は集中して?お読みください。それではお楽しみください。
かなえ達が上田と遭遇した少し後、川田と嶋村は住宅街を抜けていた。
住宅街から抜けると民家も少なくなり、普通の田舎っぽい雰囲気になっていた。
『ようやく住宅街抜けたな。あんなトラック突っ込んでくるようなとこ、もう二度と行きたくねぇ。』
嶋村がブツブツ言いながら道を歩いている。
『それにあの意味分からん弓矢使うようなヤツもいるからな。ちょっとしたトラウマだぜ。怪我もしちまうしよ。』
川田もブツブツ言っているが、肩口の傷からの出血は弱まっているものの、止血できていなかった。川田は黒い服を着ていたので血は目立たないが‥
『ホントだよ。てゆぅか川田、傷大丈夫なん?』
嶋村が傷を見ながら心配そうに話し掛ける。
『まだ止血できてないけどたぶん大丈夫だろ。出血ほとんどないし。』
服がガーゼの役割をしてるのか、今は少し痛むぐらいだった。
そうこうしているうちに、田んぼ道へとやってきた。この中垣町は、そこまで発展している訳ではない。
中心街は結構発展しているが大きな町ではないので、首都近郊などとは比べものにならない。
カンタンに言えば、
「田舎よりは街らしく、賑やか」
だ。
街を出ればすぐ山だらけになったりする。
実際、川田頼人が住んでいる場所は中垣町から何個か離れた小さな町である。
しかも山間部、一言で山の下に住んでいる。
嶋村裕也も、川田と同じ町に住み、山の下ではないが近くの普通の民家に住んでいる。
この二人は腐れ縁と言ってもいい程昔から付き合いがある。
故に二人の結束は強く、言いたい事はアイコンタクトで分かる程お互いの事を理解できている。
以心伝心できていると言った方が正しいのだろう。
なので二人はこの状況でも不安は少ないだろう。
しかし経験した事のない事態に二人は内心、いつ死ぬかもしれない状況に戦戦兢兢としていた。
『おい嶋村、久しぶりのご対面だぜ。』
ニヤリと不敵な笑みを川田が浮かべる。
『一体だけか。なら大丈夫だな。』
川田はM37エアウェイトを両手で構えるとゾンビの眉間に照準をつける。
銃声が轟き、ゾンビは倒れて動かなくなる。
すぐさま川田はシリンダーを開き、空の薬筴を排出し、リロードする。
『まだまだ弾丸あるからいいけど少なくなってきたら節約しなければな。』
川田はポケットに入れたバラの.38スペシャル弾を触り感触を確かめると先に進んだ。
『弾薬は温存しないと後で大変になるよなぁ。映画とかでもあるんじゃね?』
嶋村がニューナンブを片手に質問する。
『あぁ、映画とかじゃよくあるぜ。バカ撃ちし過ぎて大事な時に弾切れ。んでもってゾンビの集団に囲まれて食われて、ジ・エンドってのがな。』
自分で言ってそれが他人事ではない事に気付く。
自分がそうなった時の事を考えたらゾッっとする‥
『それだけはカンベンだ。てゆぅかまだ死にたくねぇよなぁ。』
『そりゃモチロン誰でもそうだろ。』
話しているうちに田んぼだらけの道に出てしまったようだ。
『なぁ川田。この道で合ってんのか?』
嶋村が周りを見渡しながら言う。
『かなえの言う通りならこっちでいいハズ。たぶん大丈夫だって。』
田んぼにはゾンビが何体かいたが、遠かったし走れば難なく切り抜けられた。
無駄に銃を使わない事は弾薬の節約にもなるので、二人は逃げれる時は逃げる事にした。
田んぼ道を抜けると、どこにでもあるような道に出た。畑があったりとまだ田舎だというのは確認できる。
古い家屋が複数ある、集落のような場所に出たらしい。ほとんどが木造家屋だ。
『郵便局って普通こんな田舎なとこにあんのか?』
嶋村が集落を見て呆れたように言う。
近くに看板のような物があったので確認しに行く。
看板は、この辺りの工事をどこまでやるのかという地図付きの看板だった。
『ホラ見ろよ。やっぱこの先で合ってるぜ。この集落を抜けて、しばらく行った所に郵便局の近くに出るんだとさ。』
『そうか。それならよかった。迷ったなんてのは嫌だからな。』
二人は集落に足を運んだ。周りにモチロン人はおらず、ゾンビも数える程度しかいない。
二人は集落に入ると木造家屋が点々としている道を歩いた。どうやらここは安全なようだ。
『なんだか全然生存者見ないよな‥』
嶋村がボソリと呟いた。
『どこかに逃げたかゾンビになったか隠れてるかのどれかだろうさ‥』
逃げてくれてれば一番いいのだが街中での多さを考えると多くは犠牲になったのかもしれない。
二人が歩いて集落を通っていると、建物の陰から女のゾンビがフラフラと現れた。川田は慎重に狙いをつけるとトリガーを引き絞り発砲した。
集落にM37エアウェイトの銃声が響く。
しかし、倒れたゾンビの向こうからまたゾンビが現れる。今度は嶋村が発砲してゾンビを倒す。
建物の陰からは今だに呻き声がする。
『まだ‥いるのか?』
二人はソロソロと建物に接近し、リボルバーを構えて飛び出す。
しかしそこには予想を越えた数のゾンビがいた!
ゆうに数は30を越え、既に一クラス分の人数のゾンビがわらわらと集まっていた。老若男女のゾンビが一斉にこちらに向かって呻きながら進軍している。
『こいつらってこの集落のヤツら全員じゃねぇのか!?作業服着てたりしてやがるぞ!』
川田はゾンビの集団に向かって発砲しながら嶋村に言う。嶋村も発砲しながらそれに答える。
『たぶんな!ここらの人間がそこでみんなゾンビになったんだろ!向こうの地面は血の海だぞ!!』
『クソッ!!このまま突っ切るぞ!』
ゾンビ集団が建物からこちら側に来る前に突っ切ろうと疾走するが、その先を見た瞬間二人はつんのめって止まった。
『ハハハ‥マジかよ…』
横から来るゾンビ集団が到着する前に突っ切ろうとしたが、その先には軽く10を越えるゾンビ集団がいた。
『第二部隊って訳ね‥』
嶋村が愕然として言葉を出した時には川田はM37エアウェイトを構えて前方のゾンビ集団に照準をつけて発砲していた。
数発発砲し、ゾンビがその数だけ倒れる。
嶋村も横から来るゾンビ主力部隊に発砲した。
集落に銃声が幾度も轟き、非日常の世界を物語っている‥
『ムリだ!引き返すぞ!』
川田と嶋村は来た道を戻った。田んぼから迂回すればいいと思って田んぼに入ったが、何故か田んぼにもゾンビが10体程‥
後方の道にもゾンビの集団がいる‥
『マジで?‥こいつら異常な程チームワーク良すぎだっつぅの!』
『おい川田‥ヤバいぜ‥四方八方固められた。』
『まさに四面楚歌だな‥とにかく逃げるぞ。』
二人は比較的ゾンビの少ない後方の道へ走った。
走りながらゾンビに向かって発砲し、倒すのだが二人はそれが無駄だと知った。
後方の道。要するに今まで来てた道を川田と嶋村は戻ろうとしてるのだが、集団の向こうからまた新たな集団が来ているのだ…
『この集落に一人でも人間が入ったらみんなで襲う訳か‥』
川田がその光景を唖然として眺める。
『あんなん二人じゃ対処できねぇぜ‥どうするよ?』
『こんなとこで死ぬ訳にはいかねぇ!!あがけるとこまであがくぞ!!』
川田がシリンダーを開きリロードする。
『そう言うと思ったぜ。相棒。』
嶋村もニヤリとしながらリロードする。
『こんなとこにいたら捕まるのは時間の問題だ。集落に戻ってあのデケェ家に籠城するぞ!』
『オッケ!じゃああそこまで戻るぞ!!』
川田と嶋村は雑草の生い茂る道を疾走し集落まで戻った。
集落内には既にかなりの数のゾンビが溢れている。
『おらぁ!どけや!!』
目の前のゾンビに飛び蹴りを食らわし吹っ飛ばす。
『うおりゃ!』
嶋村がゾンビの殴り倒す。ゾンビが食い付こうと両手を伸ばし群がる。
『せあっ!!』
川田はゾンビの頸部にハイキックを食らわせると、ゾンビの首はゴキッっと音を立て砕けた。
『嶋村!入り口開けろ!』
M37エアウエイトを構えて嶋村に指示を出す。
『わかった!ちょっと待ってろ!!』
嶋村はゾンビにタックルを食らわせ倒すと入り口に駆け出した。
今付近には15体ぐらいのゾンビがいるだろうか。先程から時々ゾンビに掴まれ、それを吹き飛ばしているがだんだんとキツくなってきていた。
銃声が響き鮮血を流し崩れるゾンビ達。しかしM37エアウエイトやニューナンブなどの警察用リボルバーは装弾数5発ですぐ弾切れになってしまう。
『クッ‥もう弾切れかよ。5発は少なすぎるぜ。』
川田はゾンビの頭部をM37エアウエイトのグリップで殴り付ける。
『川田ァ!開いたぞ!』
嶋村がニューナンブで援護しながら呼び掛ける。
嶋村の援護で道が開き、川田はその隙を突いて走る。なんとかゾンビに捕まらずに辿り着き、入り口というよりも大きな門から中に入った。
『川田、閉めるの手伝ってくれ!』
二人で門を閉めるがゾンビが何体か傾れ込む。
『嶋村!俺が閉めるからこいつら始末しろ!』
渾身の力で門を閉める。
(なんて重い門なんだよ!?)
嶋村はニューナンブで侵入したゾンビを射殺するが弾切れになり、リロードをしていた。
肩を何かに掴まれて振り向く。モチロン嶋村などではない。
片目が飛び出て神経一つで繋がっている老人だった。
『うああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!』
今まで出した事もないような大声で絶叫する。
ゾンビが口を開き、腐敗した口内から腐臭を放ち、肩口にもう噛み付く寸前だったからである。
何故か体が動かない。否、圧倒的な恐怖で動けないのである。
もうダメだと思って諦めようとした時、ゾンビの頭に穴が開きゾンビがズルズルと崩れ落ちた。
『大丈夫かよ川田?間一髪だったな。』
嶋村が続け様に他のゾンビを撃ち殺した。
はぁぁぁ‥
川田はため息をついた。たった今、死を覚悟したが助かったのである。
嶋村のお陰だ。アイツはよき親友でありながら生命の恩人だ‥
休む暇なく門を閉じる事に専念し、力を込めた。
重い音を立てて門は閉じられる。すぐにカンヌキをかけて侵入できないようにして、ようやく一安心できた。
『嶋村、助かったよ。お前は生命の恩人だ。』
俺は嶋村に近寄り顔の前に手を出す。
『気にすんな。俺がピンチになったら助けてくれればいいんだしよ。それに、俺だけだったらたぶんここまで生きてこれなかったろうしな。』
嶋村は笑顔で顔の前に差し出された手をパンッ!っとこぎみよい音を立てて握った。
『じゃあおあいこだな。これからも頼むぜ相棒。それより、これからどうしたもんかね‥』
門の外ではゾンビどもがずっと呻きながら門を叩いている。
『しばらくは大丈夫だろうが、あの後方の道からのゾンビが加わればかなりの人数になるからな‥そしたらたぶんこの門も突破されるだろう‥』
『やっぱ突破されるのは時間の問題かぁ‥川田は何か計画あるのか?』
嶋村は門を見ながら不安気な表情を浮かべる。
『今考えてる。その間に準備しとこうぜ。』
川田はポケットから.38スペシャル弾の箱を取り出すとM37エアウエイトにリロードした。
嶋村もニューナンブにリロードを始める。
(どうすりゃいいんだ?籠城したはいいが、あまり長く保ちそうにない。何かこの屋敷で使える物を探すしかないな。)
『よし、嶋村。とりあえずこの屋敷の中で使える物を探そう。』
『了解。じゃあこっちから行こうか。』
嶋村が左側の裏玄関らしき所から入ろうとする。
『いや、時間がないから二手に別れよう。ゾンビには気を付けろよ。あと俺をゾンビと間違えて撃たないでくれよ。』
『わかったわかった。注意するよ。とにかくなんか見つければいいんだな?』
『そうそう。なんか打開に使えるのがあれば持ってってくれ。じゃあ開始。』
川田は右側の表玄関から内部に侵入する。
内部はどこにでもありそうな風景だったが、田舎独特の土地のデカさで屋敷自体がデカいので規模が違う。
とりあえず棚などを漁るが特に何もない。
台所は一般とは変わりない物ばかりだった。
『特に使える物はないな‥他はどうだ?』
川田はくまなく探したが特に使える物はなかった。
しばらくすると嶋村が裏からやってきた。
『なんかあった?』
『こっちは収穫ゼロ。なーんもない。』
お互いに収穫ゼロ‥
まだ何かあるかもしれないが時間がない。
川田と嶋村は二階に上がる事にした。
二階からの景色は、この辺を一望できるぐらい高かった。田舎故に家屋自体がデカいので二階も高い。
『眺めいいよなぁ。なんて呑気な事言ってる場合じゃないけど‥
『でも眺めいいのは確かだな。一般の家よりはってレベルだけど。』
しばらく二階を探したが見つけれたのは子供部屋で見つけた双眼鏡だけだった。
『これじゃあなぁ‥』
嶋村は自棄になって、最期に景色を見まくるんだ!とか言って双眼鏡で外をずっと眺めている。
外ではさっきよりもゾンビの合唱が大きくなっている。正直虚しくなってきた…
『ちょっ、おい川田見てみろよ!』
嶋村に双眼鏡を渡され、少し遠くにある畑に軽トラックが放置されていた。
しかも何故かヘッドランプがついていて、エンジンもかかっている。
たぶんこの集落の人が逃げようとしてやられたか、軽トラックを放置して逃げたかだろう。
『やったぜ!これで逃げれるぜ!!』
『でも車の周りにゃ軽く10体はいる。てゆぅか、あの軽トラ、ボロボロじゃねえか。』
よく見ると軽トラの窓は割れ、タイヤも一本パンクしている。
『じゃあ逃げれねぇじゃねぇか!』
嶋村が落胆するのが分かった。
『つぅかさ、嶋村って運転できるの?』
根本的な問題を問い掛けると嶋村は首を横に振った。
『全く分かんない。川田はどうなの?』
『意味ねぇじゃん!俺は一応運転ぐらいなら分かるけど‥』
つい嶋村に突っ込んでしまった。川田が運転できる、というよりも、操作を多少知っているのは川田の父親の教えだった。
川田の父親は車関係の仕事をしている。(正確には部品の下請け会社だが)
車はモチロン、機械類にはかなり詳しいので幼少時から色々教えられたのだ。
川田はあまり興味がなかったので父親から教えられた知識は車の運転ぐらいしか正確に記憶していなかったのである。
『あの軽トラダメだわ。所々壊れてる。』
窓は割れ、タイヤも一本パンクしている。
しかも地面に様々な部品が落ちていた。
軽トラックの持ち主が乱闘でもしたらしい。
『マジかよ‥あれ動かないのか?』
『いや、動かない訳じゃないだろうがほとんど走らないだろうな。』
『ようやく逃げれると思ったのに‥』
嶋村は肩を落として絶望しているようだ。
しかし川田の思考はフル回転していた。
既に川田の戦略的思考で新たな作戦は作られていた。
『クックック‥まだ絶望するには早いぜ。俺のプランに乗るか?』
『プラン‥って、なんか思いついたのか?俺はモチロン乗るぜ!』
それには答えず、川田はニヤリと笑みを浮かべ、双眼鏡で再度オンボロ軽トラックを眺めていた。