FILE1 発生
4月某日
今日はいつも以上に天気がいいな‥
俺の名前は川田頼人。この春から高校二年になる。
俺は休日の昼間に友人の嶋村裕也と電車で街に繰り出していた。
『こないだは寒かったのに変な天気だよな?』
嶋村がおどけた調子で笑いながら言う。
『同感だな。ホント最近は異常気象が多発してるよ。どうなってんだか』
俺も笑いながら嶋村に話しかける。
嶋村とは幼稚園からの仲で今までずっとつるんでいる。嶋村はとにかく陽気で楽天家なヤツだ。高校も同じでクラスも同じだが入学当初から手当たり次第に話しかけている程だ。
俺はそこまで気楽に話しかける勇気はない。どちらかというとゆっくりと仲を深めていくタイプだ。
『さ、これからどうする?昼だから何か食べるか?』近くのファミレスを見ながら言った。
『そうだな。ここのハンバーグは美味いって人気だしな。俺はここでOKだ。』
嶋村は親指を立ててウインクした。
『じゃっ、ここで決定な。おまえ前に昼おごったんだから今回は俺におごれよ。ドリンクもつけてな。』
意地悪くニヤリと笑いながら嶋村の頭を叩いた。
『わかったわかったよ!でもあんま高いの注文するなよ!川田は遠慮しないからなぁ。』
嶋村が苦笑しながら言った。その返事はせずにファミレスのドアを開けた。
『いらっしゃいませ!』
ウェイトレスの女性が元気よく声を出した。
『とりあえずあそこ座ろっか。』
俺は嶋村の返事を聞かずに席に座った。
『さて、何にするかな。』俺は備え付けてあるメニューを手に取った。
『どれにしようかな‥よし、俺はパスタでいぃや。』そのまま嶋村にメニューを渡す。
『どれどれ。俺は人気メニューの特製ハンバーグに決定だ!』
嶋村が大きな声で言ったので近くの席の親子連れの女性が迷惑そうにチラッと見た。
『おい、迷惑になってるから少しボリューム落とせよ。』
嶋村に眉をひそめて言うと『悪い悪い。少し小さくするよ。』
と反省の色なくニヤニヤ笑っていた。
とりあえずウェイトレスを呼び、注文をした。待ち時間は暇だったのでウェイトレスが持ってきた水を飲み干した。
しばらくして料理が運ばれた。二人で談笑しながら料理を食べているとなんだか外が騒がしくなっていた。『ん?騒がしいが何かあったんかな?』
窓から見るが特に異変はない。
『どうしたんだろ?事故でもあったのか?』
二人で話していると、入り口から悲鳴が聞こえた。
振り替えると血だらけになった女が先程俺達の注文を受けていたウェイトレスの首筋に噛み付いていた。
喉から鮮血をほとばしらせ、ゴボゴボと音を立て何か言おうと口をパクパクしているが、口からは血が溢れるだけだった。
周りにいた客達が連鎖したかのように悲鳴や怒号をあげる。その間にもウェイトレスの首に女が噛み付き、貪っている。
『おい!なんだよアレ!?なんで噛み付いてんだよ!?映画の撮影か!?』
嶋村が取り乱して叫びだす。近くの席の親子連れは子供が泣きだし、親も慌てている。
『俺だってわかんねぇよ!でもどう見たって映画の撮影じゃないって事は確かだ!首から気管が出てやがる!アイツは‥』
俺は嶋村に叫んだ。
『アイツはなんなんだよ!?川田!』
嶋村が人食い女を見て叫ぶ。人食い女は次にウェイトレスの肩を喰い始めた。
次々とファミレス内の客がパニックになりテーブルの上の皿を落としファミレス内に皿の割れる音が響く。『アイツはゾンビだ!顔を見てみろ!片目が飛び出し、腐ってやがる。』
俺は立ち上がり周りを見回す。そして厨房へ入る。
厨房内もパニックになり、店員や調理員も我先にと外へ逃げようとしている。
『ちょっと置いてくなよ!ゾンビって映画の中だけじゃねえか。どうなってんだよ?』
嶋村が困惑した表情で付いて来る。
『俺だって知るか。とにかく素手じゃ危険なのは確かだ。ならばすべき事は?』嶋村に問い掛けた。
『逃げるのが先決だろ!?早くここから出ようぜ!』嶋村が地団駄を踏む。
『落ち着けよ。逃げるのも重要だが武器がないと逃げの一手だ。まずは武装だ。ほら見ろ、そこにモップあるだろ。とりあえず柄の部分で戦うしかないな。あとは‥あった。包丁だ。ホラ、おまえに一本渡すからこれで戦うぞ。』
俺はモップから先端の金具を外し棒にする。
そしてそのまま客席に戻る。ゾンビは崩れ落ち、絶命したウェイトレスに覆いかぶさり腹部を噛みちぎっている。
『おまえ、まさかアイツを殺すのか?』
嶋村が驚愕した表情でこっちを見る。
『仕方ないだろ。命の危険が迫ってるんだ。正当防衛にでもなるさ。』
俺はモップを構えゾンビに接近する。
『ちょっと待てよ!殺さなくても‥』
嶋村が言い切る前に俺はモップを上段から振り下ろした。グヂャ!っという鈍い音がしてゾンビの頭部が陥没する。
鮮血が辺りに飛散し、割れた頭部から脳髄が滴れている。しかしゾンビはまだ死んではいなかった。
『これでトドメだ!』
棒を袈裟斬りの要領で右上から左下に一閃した。
頭部は完全に破壊されゾンビは絶命した。
『川田‥よくやるな。躊躇したりしないのか?』
嶋村が少し怯えた表情で言った。
『躊躇してたらその直後に噛まれて終わりだぞ。嶋村はゾンビになりたいか?』棒でゾンビの頭を突きながら俺は言った。
『いや、ゾンビなんかになりたくないって!』
嶋村は大きな声で言った。『なら躊躇するなよ。よし、早くここから出よう。』俺と嶋村は血なまぐさいファミレスから出た。
周りを見回すとそこは地獄だった‥‥
そこらで人間がゾンビに追い掛けられていた。
逃げ遅れた老人が若い男のゾンビに倒され肩を噛みちぎられ絶叫している。
逃げている人々は他人を助ける余裕などなく自己を守る為にとにかく走って逃げているか、車に乗り込んで猛スピードで走っていく人もいる。
どんどんと現れるゾンビに為す術もなく食われていく人々‥
『地獄だ‥みんな恐怖に負けて食われるだけだ‥』
二人で呆然と食われていく景色を見ていると俺達の近くにもゾンビが集まってきた。
『おいおい、何かヤバくねぇか?』
嶋村が近寄ってきたゾンビを見て言う。
先程噛まれた老人も虚ろな表情で口から血を流し、呻きながら歩いてくる。
『残ってるのは俺達だけ、か。‥よし!強行突破するぞ!』
俺は棒を構え比較的ゾンビの少ない路地へと向かって走り出した。
嶋村も包丁を構え走っている。前方から向かってくるゾンビの顔面に棒で突きを放つ。
ブジャ!っと音がして、腐敗した眼窩に棒が突き刺さり崩れ落ちる。
側面から迫ってきたゾンビに嶋村が包丁で頭部を突き刺す。驚くほどスムーズに入る包丁に嶋村が驚きの声をあげる。
『ひ、人を刺しちまった!殺しちまったよ!』
嶋村が走りながら叫ぶ。
『仕方ない!相手はゾンビだ!情け掛けると死ぬぞ』走りながら周囲を確認するのは意外と難しい。物陰からいつゾンビが飛び出してくるのかわからない。
曲がり角に来る度に確認して突っ走る。
この辺はゾンビが少ないようだ。
『なぁ、ここからどうするんだよ?』
嶋村が隣で言う。
『そうだな‥とりあえず危険なトコから離れたいんだが‥そうも言ってられないな』
前方にゾンビが4体いる。
『うおぉぉぉ!!』
棒を振りかぶり突撃する。一番近くにいたゾンビはこっちに手を伸ばし近寄ってきたが、俺の上段からの振り下ろしで頭部が破壊され絶命する。
二体目は横から噛み付こうとしてきたので腹に棒を一閃した。ブヂュ!っと音がして棒がめり込む。
すぐに下から上へとゾンビの顎に棒を突き出す。
顎から内部に棒が突き刺さってゾンビは崩れ落ちた。『あと二体!』
目の前のゾンビに気を取られているのがまずかった。横の路地からゾンビが一体いる事に気付かなかった。俺はいきなり背後から組み付かれた。
『うぁぁぁ!』
首筋に生臭い息がかかる。もう終わりか‥
俺は恐怖に負けて身動きできなかった。
あれ?なんだ?何故激痛がこない?
不思議に思っていると背後から声がした。
『油断するなよ、ちゃんと周囲に目を配らなきゃな。俺が助けなかったらおまえはガブリだったぜ。』
嶋村がゾンビの頭から包丁を引き抜き笑いながら言った。
『スマン、助かった!』
俺も嶋村に笑いかけた。
『でもまだ二体いるな。川田、右側の男頼むわ。俺左側の女がいい。』
嶋村が背の低い女ゾンビに包丁を向けて言った。
『結局おまえはラクい方かよ!?まぁいい。借りがあるからな。』
俺は男ゾンビに棒で殴りかかった。反撃する間もなく頭部に横から水平に棒が叩きつけられ、ゾンビの頭部が割れた。
嶋村も包丁で女ゾンビの首を刺して、その後に側頭部に包丁を突き立てた。
あっという間に二体のゾンビは動かなくなった。
『よし、一丁あがりだ。』俺は棒を振るって付着した血液を弾く。
『んで、ここからどうするんだよ?』
嶋村が倒れているゾンビを見て言う。
『そうだな‥早く脱出するのが一番だろうが、その前にもっとまともな武器が必要だ。俺の得意な分野はなんだったかな?嶋村クン』ニヤリと笑いながら嶋村に問い掛けた。
『川田の得意な分野って言ったら‥そりゃ銃しかないでしょ。まさか銃見つける気か!?』
嶋村が人差し指と親指だけを伸ばして銃の形にする。『そのまさかだ。やはり一番頼れるだろ?』
嶋村をこづいて言う。
『確かに頼れるけどここは日本だぜ?銃なんていったいどこに?‥』
怪訝そうな顔をして嶋村がこっちを見る。
『探せばいくらでもあるじゃねぇか。自衛隊に警察、猟銃だってない訳じゃない。ヤクザはまぁ論外だな。この街に自衛隊の駐屯地はないから‥残るは警察署だな。』
嶋村に説明すると、嶋村は周りを見渡して言った。
『でも警察署ってドコにあるんだ?俺達この街の人間じゃないから知らんぞ。』嶋村は困った表情をしている。
『そこなんだよなぁ。地図があればいぃんだけど、そんな都合よくないのが現実なんだよな。』
肩をすくめて苦笑して俺は言った。
その時!どこからか女性の悲鳴が聞こえた。
『キャァァァ!誰か助けて!い、イヤ!こないでよぉ!!』
声の大きさからして結構近くから聞こえたようだ。
『あれって、生存者ってヤツかな?‥』
嶋村が緊張した面持ちで言った。
『だろうな‥ゾンビに追い掛けられてるようだな。よし!救助しよう!』
嶋村の肩を叩き走りだす。『けど川田!ゾンビがたくさんいたらどうすんだよ!?危なくないか!?』
『危険は承知!!』
棒を一振りして俺は声のした方に全力で疾走した。