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SP09 誘拐工作部隊に追いついてください

ヒロイン誘拐の一報を受けた親友が、敵工作部隊の追跡を開始。近代的軍隊の銃の世界と剣と魔法の世界とがぶつかります。主人公は移送の途中、あり得ない光景を目撃します。

シノハがラミーシャの拉致を知らせる緊急念話を受け取ったとき、彼女は倒れた他の学生に対する面会を順番に行っていた。

シノハは現生徒会長として、ラミーシャだけでなく、他のすべての生徒の容態についても把握しておく責任があった。

ただ、最後に面会に行ったラミーシャの兄リスカールとだけは、結局話をすることができなかった。


リスカールは昨年度まで生徒会長を務めており、シノハは副会長として彼を支え、教員からの信頼の厚い生徒会運営を共に行ってきた。

周囲からは、公認の美男美女カップルとして憧れの的になっていた。

ラミーシャにとっても、親友のシノハと兄のリスカールの交友は誇らしく、よく三人で過ごしたものだった。

しかし、昨年の武闘大会決勝で二人が対戦し、シノハが圧勝してしまってから、二人の関係は決定的に崩れてしまった。


その後、彼は任期を待たずに生徒会長を辞任し、その後任にシノハが就いた。

シノハは、今年度も生徒会長を務めている。

この事件以来、二人が言葉を交わすことはなかった。

これが、ラミーシャが兄のことを許せない理由だ。


この試合結果が生じたのには込み入った事情がある。

シノハは、古くからの武術流派であるカルベ一門の現当主の一人娘であり、代々続く剣術の才を受け継いでいた。

カルベ一門の技能には特殊性があり、一定の研鑽を積んだ後に「覚醒」を経験することで、すべての技を統合して扱うことができるようになる。

決勝までは覚醒することのなかったシノハの剣技が、リスカールと対峙した瞬間に覚醒し、圧倒的な力量差を生み出し、彼を完膚なきまでに打ち倒してしまったのである。



病院で面会を求めたものの予想通り断られてしまい……

――あの試合のような出来事は遅かれ早かれ起きたのだろう。

――さすがにもう彼のことは諦めるべきだろうな……

シノハがそんな考えを巡らせていたそのとき、緊急の念話が届いたのだった。


シノハは、一階まで駆け下り、病院に来るのに使用した馬に飛び乗り、馬車の追跡を開始した。

同時に、警備隊の中でも優秀な道場門下生であるライドウ兄妹に念話で連絡を入れた。

まだ正式な出動命令は下りていないという返事が返ってきた。

――急がないとまずい。


学生たちが襲われたブリヤ近くの場所は、馬車で約二時間の距離だ。

この間差を埋めなければならない。

単騎の騎乗では馬車の数倍の速度が出るが、追いつけるかどうか、ぎりぎりだ。


病院を出て、急ぎ街道を南に進む。

途中、警備隊所属のライドウ兄妹が合流してくる。

兄のゴウと妹のリクは魔法大学の卒業生であり、現役の警備隊員である。

一方で、シノハは二人が通うカルベ道場の次期当主と目されており、道場でも圧倒的な強さを誇る師範代だ。


道場では実戦さながらの戦闘訓練が繰り返されており、シノハは戦闘力も指揮力も抜きん出ていた。

警備隊隊員への正規の指揮権があるわけではないが、有事の際には二人はシノハの采配の下で一体的に行動できる。


シノハを先頭にして、二騎がその後に続く体制で、馬を駆ること約二時間。

はるか前方に、ラミーシャを拉致した馬車を視認することができた。

土埃の向こうに幌が揺れている。


 ◇


工作員たちとマリトが馬車での移動を再開してからは、しばらくは何の変化もなかったが、日が陰りはじめた頃、マリトははるか後方に小さな土煙が立ち上がっているのを見たような気がした。

土煙は次第にその姿をはっきりさせ、しばらくすると、こちらに向かっている騎馬らしいものが見えるようになってきた。


従者とナースに扮した工作員たちの声が聞こえる。

「少佐、追っ手です」

「先頭に一騎、その後方に二騎が続いています」

「そうか。だが、もうすぐ目的地に到着する」

「なんとか間に合った」

「後は地上班に任せる」

「スピードを上げるぞ」

さきほどよりさらにスピードが上がる。

そして、15分ほどして止まった。


数名が駆け寄ってくる足音が聞こえる。

「追っ手が来ている。急いでくれ。すぐにここに着く」

「この娘を乗船させるのが最優先事項だ」


「今見えている追っ手は、騎馬三名だが、その後ろに本隊が続いているはずだ」

「先頭の三名だけはここで止めろ」

「銃を使え。接近戦は避けろ」

「うちの部隊最強のこいつが、一番弱そうな学生相手にこの様だからな」


「この娘を運ぶのに一人は必要だが、残りは何人銃撃に回せる?」

「八名います」

「全員で、確実に一人ずつ仕留めていけ」


馬車に向かってくる人影は、はっきりと視認できる距離にまで迫っていた。

先頭は深紅の髪色の女性だ。

学生服を着ており、首にチョーカーを付けている。

午前中に見舞いにも来てくれたシノハという女子学生に似ているが、彼女は黒髪だった。

――別人だろうか?


先頭の彼女のずっと後方に二騎が続いている。

異なる制服を着ているが、学生のものとはちがう。

――警備隊だろうか?


――おそらくこれが救出の最後のチャンスだ。

――間に合うのか?

――三人で足りるのか?

――相手に銃があることは、知っているのか?


馬車の後方に銃を構えた八名の兵士たちが、片膝をついて散開した。

指揮官と思しき兵士が、その後ろに立つ。

――これだけで十分な抑止力になる……

――だめかもしれない……

マリトは絶望感に襲われる。


体格の良い兵士が客車に上がってきて、ラミーシャの身体を車椅子から運び出した。

そして、地面の上に転がされた。

「しっかり縛り上げろ。目を覚まされると相当厄介だぞ」

両足と両手首が手際よく縛り上げられる。

口も猿ぐつわもかけられ、無造作に肩に担がれた。


偽ナース、偽従者、そして新たに加わった体格の良い兵士の三名からなる誘拐工作部隊で、街道を外れて林の中に分け入る。

山道のようだ。

負傷者一名とラミーシャがいるため、ゆっくりとしたペースで部隊は登っていく。


 ◇


街道では、ついに救援のシノハたちの騎馬が到着しようとしていた。

三騎とも銃を構えた兵士に気付いたようだったが、速度を緩めることはなかった。

先頭の学生が急速に距離を詰めてくる。

五十メートルほどまで接近した瞬間――

指揮官が腕を下ろしながら、号令を放った。

「ファイア!!」

それと同時に、轟音が響いた。

挿絵(By みてみん)

 ◇


マリトは山道の途中で、銃声が響き渡り、馬のいななくのを聞いた。

――今のは救出チームへの銃撃だろうか?

――あれだけの数の銃を相手に、丸腰で勝てるはずはない。

――自分がこの世界に来たせいで、何人もの犠牲が出てしまった……

申し訳ない気持ちで、マリトの胸は締め付けられた。


山道の登りがしばらく続いた後、停止し地面に降ろされた。

どうやら、下りに備えて体勢を整えるらしい。

登り道はまだ続いているが側道から下ることができ、その先は平原のような地形が広がっている。


マリトは平原を1キロほど進んだところの上空に、フットボール型の巨大な迷彩色の物体が浮かんでいるのを見た。

――飛行船か!

――これを使ってボルディアに侵入してきたのか……


マリトはその飛行船に乗せられようとしていると理解した。

――これに乗せられてしまうと、もう救出の手段はなくなる。

そのことが、はっきりとわかる。

体格の良い兵士が改めてラミーシャの身体を担ぎ直す。


マリトの視界に飛行船の向こうに広がる空が映った。

そして、地平線から登ってくる月を見て、息を呑んだ。

――『そんな……ばかな……!』――マリトは絶句した。

日没直後の暗めの空、低い位置に白っぽい月が大きく浮かんでいる。

欠けたところのない、まん丸の満月。

そこまでは、マリトの知っている月と大差はない。

しかし、決定的に異なるものがあった――月の表情だ。


その月は笑っていた。

薄い色ながら明確に、赤い目が光り、三日月型のギザギザの口が赤く光を放っている。

まるで、ハロウィンのカボチャのジャック・オー・ランタンのようだ。

マリトは、今日の昼、学生が食堂で言っていたことを思い出した。

――これは確かに『満面の笑み』だ。


それは、彼の頭を理事長の言っていた『世界の終わり』という言葉がよぎり、そして、ここが異世界だということを確信した瞬間だった。

挿絵(By みてみん)

誘拐工作は最終段階。飛行船に運ばれてしまうのを阻止しなければいけません。次回、シノハが使う魔法武術が近代軍隊を圧倒します。

※毎週火土の二回更新に移行します。


よろしければ、ブクマといいねで応援してくれるとうれしいです。

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