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SP06 敵の正体を見抜いて窮地を脱してください

ついに謎の敵勢力が仕掛けてきます。解決は、ほぼ不可能なレベルの高難度のお仕事です。

久々に友達と話ができたラミーシャはご機嫌だ。

友達が帰って病室に戻っても、楽しさの余韻が残っていた。

秘密が漏れかけたことは、まるで気にしていない様子である。

マリトも楽しい気持ちを共有していて、その良い雰囲気を壊すのは野暮な気もするのだが、今ここでしっかり振り返りをしておかないと、禍根を残すと思った。


「ミーシャ、お話があります」

「はい」

「ミーシャ、理事長も言っていたよね」

「私が君の中にいることは、絶対に漏らしてはいけないと」


「でも、さっきの会話の中で、何度も口を滑らせそうになったよね」

「もっと注意して話すようにしないと、秘密は守れない」

ラミーシャの楽しい気分は消え失せ、悲しい気持ちで一杯になった。


「絶対に秘密を守らないといけないって、私、わかっています」

「私なりに気をつけていました」

目に涙が浮かんできた。

「でも、わたし……お父さんが来てくれて、うれしくて」

「友達もお見舞いに来てくれて、うれしくて」

「いろいろな話をしているうちに、楽しくなって、気がついたらうっかり話をしてしまいそうになってるんです」

「でも気づいたときには、不自然でも話題を変えたりしていました」


「自覚はあるんだね。楽しくなってきた時は特に、注意して話すようにしてください」

「ただ、会話が不自然に止まったり、『お父さんが』というのはさすがにまずい」

「それなんですけど、そのどっちもお父さんが関係しているんです」

やや不満そうに抗議した。


「お父さんと話をするときは、注意をそちらに向けるので会話が止まっちゃうんです」

「それに、それに…」

目に涙を浮かべながら、言いよどんだ。


「私……私、お父さんの慌てぶりが、すごく可笑しくて、耐えられなくなって、笑っちゃったんです」

「でも、それを友達に見つかっちゃって、私もうどうしたらいいのかわからなくなっちゃって……」

「同じことが起こったら、私やっぱりうまくできる自信はないです」

泣きそうになるのを堪えながら訴えた。


――確かにそうだった。ラミーシャだけ責めることはできないな。

「私が騒いだのも悪かった」

「でも、私にとって、この世界は驚くことだらけだ」

「この先も、どんなことで慌てないとも限らない」

「ここは、二人で協力して克服していこう」

ラミーシャはこくりと頷いた。


「誰かと話をしているときには、その内容に集中すること、というのを大原則にしよう」

「私の反応よりも、相手の話のほうを優先して欲しい」

「話の途中で黙ったり、笑ったりすると、疑われてしまう」

「私が騒いでいても、そこに気を取られるとぼろが出やすい。だから、あえて気にしないようにしてください」


「わかりました。そうします」

ラミーシャは涙を拭きながら答えた。

――思えば、今日は朝から何度も泣いたり笑ったりしたものだな……

――泣いて、笑って、喧嘩して……そうやって家族の絆は作られていくんだな……


しかし、この判断が、この後に起きる深刻な事態の遠因となる。



ドアをノックする音が聞こえた。

この世界について、気の向くままにマリトと話をしていたラミーシャが顔を上げると、ナースが入ってくるのが見えた。

「シーツを取り替えに来ました」

そう言って、ラミーシャを椅子に移動させると、シーツの交換を始めた。

――さっき友達と話しているときにすればよかったのに……まあ、何かと都合があるんだろう。


シーツを交換しながらナースが話しかけてきた。

「ずいぶん、血行も良くなって、具合はもう大丈夫そうですね」

「お友達とは普通に話ができました?」

「はい。久しぶりなので、たくさん話しちゃいました」

「それは良かったですね」


「皆さんに、倒れた原因を聞かれたりしませんでしたか?」

「はい。みんな心配してくれて」

「どう答えたんですか?」

「魔法アレルギーのせいらしいという話をしました」


ナースの手が止まり、驚いた顔で振り向いた。

「えっ、その話をしてしまったんですか?」

――それも秘密だったのか!?

ラミーシャの驚きと焦りが伝わってくる。

「え……はい。まずかったでしょうか?」


「先生から『絶対に話をしないように』と聞きませんでしたか?」

「いえ。そういう説明になっていると言われました」

ナースが怪訝そうに首をひねった。

「……わかりました。先生に報告しておきます」

そして、深刻そうな口調で付け加えた。


「まさかとは思いますが、それ以上の話はしていませんよね」

ラミーシャの焦りはさらに深まる。

「それ以上の話と言いますと…?」

ナースは声をひそめた。

「賢者様が来られていると気付かれるような話は、してませんよね」


ラミーシャは、大きく首を横に振って答えた。

「いえ、それは大丈夫です。絶対」

「ちょっとヒヤッとするところはありましたが、シノハにも助けてもらって……気づかれてはいません」

ナースは微笑んだ。


「そうですか。十分に注意してくださいね」

「彼女の力を必要としている人たちは、たくさんいますからね」

「はい。彼女は本当に頼りになる親友です」

ナースは一瞬、不思議そうな表情を浮かべた。


――何かがおかしい。話が噛み合っていないのか?

――『彼女』というのは別の誰かを指しているのか?

――ひょっとして――『彼女』というのはオレのことか!?

――召喚された賢者は女性だと思われている……つまり、細かい事情は聞かされていないということ……

――理事長は病院関係者にも秘密だと言っていなかったか!?


――やられた!!

――たしか『ギルト・インダクション』というのだったか、何かの授業で習った気がする。

――相手に罪悪感を抱かせて、その穴埋めとして余計な情報を吐き出させる心理誘導だ。


――話しても構わない『魔法アレルギー』の話をしたことに罪悪感を持たせて、その補填として『賢者様のことは話していない』と主張したくなるように仕向けてきたのか!

――こちらに心当たりがないなら『それって何のことですか?』と聞き返したはずだ。


――計算された対話構成だ。

――事態がまずい方向に進んでいる。


ナースは何事もなかったように続けた。

「今日一晩寝たら明日からは学校の寮に戻れますよ」

「今晩はしっかり眠れるように、お薬を出しておきますね」

「腕を出してください」


そう言いながら、バッグから透明な筒状の器具を取り出した。

「お薬って、注射なんですか?」

戸惑いながらも、ラミーシャは言われるままに腕を差し出す。

針は付いていないが、透明な筒の中には薬液らしきものが見えた。


ナースが腕を、意外なほど強い力でがっしりとつかんだ。

――これは――やばい!!

マリトの心の中のアラームが鳴り響く。

ナースは筒を腕に近づける。


「逃げなきゃだめだ」

「逃げなきゃだめだ」

「逃げなきゃだめだ」

「逃げなきゃだめだ」

ラミーシャに気づいてほしいと念じながら、マリトは必死に繰り返す。

しかし、ラミーシャは目の前の会話の方に集中している。

――しまった……

――オレが騒いでも気にしないルールを守っている……


ナースが腕に注射器を押し当てた。

プシュッ。

短い破裂音と同時に、ラミーシャの気配がふっと消える。

身体は前のめりに力なく倒れ込み、ナースに抱きとめられた。


目は開いたままだが、焦点は外れている。

即効性の麻酔薬のようなものなのだろうか。

だが、どういうわけか、マリト自身の意識は途切れていない。


ナースがしばらく、こちらを凝視する。

先ほどまでの看護師の柔和な表情は軍人のような厳しいものに変わっていた。

手のひらを左右にひらひらと振る。

反応がないことを確認すると、

「入ってきていいぞ」と言った。

口調も軍人のものに変わっていた。


ドアが開く音がした。

視界の端にナース服を無理やり着せられたような大男が映る。

巨漢に似合わない滑らかで素早い動きは、訓練を受けたプロのものだ。


偽ナースはラミーシャの身体をベッドに寝かせながらつぶやく。

「チョロい娘だ」

「そのチョロ娘の中に召喚された賢者様も気の毒に」


マリトはラミーシャのことを馬鹿にされたことにムッとした。

――人を疑わない素直さが彼女の良いところじゃないか。

――それを利用しやがって。

客観的にはまったく的を射た指摘ではあったが、他人から身内のことを悪く言われると反論したくなる。

――あ……そうか。彼女に出会ってまだ半日ほどなのに、身内だと認識しているのか。

偽ナースはもう一度ラミーシャを見た。

「おやすみなさい。雲の上で、また、会いましょう」

再びナースの口調に戻してそう告げると、

ラミーシャのまぶたをそっと閉じた。


マリトに暗闇が訪れた。

身動きはできない。


挿絵(By みてみん)

 ◇


「最終の馬車の時間まであと何分だ?」

偽ナースの声が聞こえる。

「20分です」

「着替えさせている時間はないな。急ぐぞ」

「ガウンをベッドの上に拡げろ」


バサリ。

ベッドの上に衣類が拡げられている音が耳に入る。

マリトは、肩の後ろと膝の下に腕が入って持ち上げられるのを感じた。

腕と首が重力に引かれてだらりと下がる。

一拍おいて、背中がゆっくりとベッドの上に置かれる。


衣服の袖に腕を通される。

胸、腹、腰、太もものあたりで、留め具をひとつひとつ閉じていく感触が伝わってきた。

次に再び、持ち上げられる感覚。

そして、先ほどまでとは異なる椅子の上に下ろされた。


――車椅子に乗せられたな。

靴下と靴を履かせられ、足置きに置かれる。

手袋をはめられ、スカーフを巻かれる。

――おそらく理事長と同じタイプの車椅子だろう。

理事長の様子を思い返した。

腰、肩、頭の位置が、ずれないように椅子に固定される。


「よし、仕上げにベールをかけて完成だ」

頭の上から顔辺りのところに布が下ろされ、カサコソという音とともに空気の流れを感じる。

「OK。問題ない。どこから見ても金持ちのばあさんだ」

「我々も着替えてすぐに移動する」

彼らが素早く着替える音がしたかと思うと、ドアの開く音とともに、車椅子の背が前に押される感覚を覚える。

廊下に出た。


ラミーシャによると、この世界では、生活習慣に気をつければ、300歳くらいまで生きられるらしい。

ただ、200歳を過ぎると出歩くことは難しくなるため、金銭的な余裕のある人は、車椅子を使って外出をしているということだ。

外に出ると紫外線による悪影響が出やすくなるため、肌の露出は極力避けるようになっている。

待合室で話をしていたときも、同じタイプの車椅子をいくつか見かけた。

――外側からは誰が乗っているのかわからないので偽装に使おうとしているわけか……


――これからどこに連れて行かれるのだろうか?

――どうすればこの状況から抜け出せるのかはわからないが、できるだけ多くの情報を集める必要がある。

まぶたを開こうと試みるが、動かない。


――落ち着け。

――余計な力を抜いて、見たいという目的に集中するんだ。

まぶたの緊張がほぐれ、薄く目が開き、わずかな光が入ってくるのを感じた。

視界の前に広がるのは、白いベールの裏側だった。

しかし、ベールの内側からは意外なくらい外の様子がはっきりと確認できた。


 ◇


車椅子はしばらく廊下を進んだ後、何度か方向を変えながらスロープを使って下に降りた。

一階まで下りると、もわっとした暖かい空気に包まれる。

――かなり蒸し暑い。

――空調魔法が効いていないからだな。

堆肥が混ざった独特の土の匂い――家畜のいる場所特有の匂いが鼻をついた。


病院の玄関のところに馬車が待っていた。

幌の付いた二頭立ての大型馬車だ。

偽ナースが車椅子の先を歩いて、御者のところへ近づいた。

「こちらは、ブリヤ経由、ヴォリナ行きの送迎馬車です」

御者の声が告げる。

挿絵(By みてみん)

ヒロインは麻酔薬で昏倒。主人公はまぶたしか開けられない金縛りの状態で馬車へ。まさかのIT知識で解決できるのか?

次回、精霊の力も使って助けを呼ぼうと試みます。


※気になる方はぜひ、ブクマといいねで応援もらえるとうれしいです。

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