SP05 共に戦う友人たちと知り合ってください
お仕事のための準備回パート2。
共に戦う友人との親交を深めるとともに、これから進む世界の不思議を味わいます。
ラミーシャはタオルで身体を拭き終わると、新しいショーツを手に取った。
目の前にショーツをしばらく見つめ、動きを止めたが、軽くうなずいてから目線を落とし、ショーツに足を通す。
すらりとした長い脚がマリトの視界に入る。
続けて、胸当てを手に取ると、背中側から回して、両乳房を支えるようにして、前の位置で留めた。
マリトが意識しないようにしてはいても、着替えの様子は目に入ってきている。
ラミーシャは最初のうちは別の方向を見ながら着替えていたが、途中から気にするのを止めたらしい。
自分自身が聖人君子ではないという自覚はあるのだが……
――太ももも、乳房も、しっかり見えているのだが、何も感じない。湧き上がってくるものがない……
信頼には応えられていると思いつつも、マリトには、それが必ずしも健全な状態だとは思えなかった。
――女性の脳の構造が影響して、異性としての女性の体に関心が持てなくなっているのだろうか。
ラミーシャは、続けてグレイのスカートを履き、白い上着をかぶり首を通し、袖に腕を通す。
最後に胸元の明るいブルーのリボンを整えると、大きな姿見の前まで歩いていき、鏡に向き合った。
「もうこっちを見ても良いですよ」
言われるまでもなく、ラミーシャの目を通してマリトは、鏡に映る姿をすでに認識していた。そして……絶句していた。
――ウソだろ……!?
そこには、ひとりの金髪碧眼のJK、セーラー服姿の日本の女子高生が映っていたのだった。
「どうです?これがブリヤ魔法学園の制服です。すっごく可愛くないですか?」
そう言ってマリトの反応を伺うが、様子がおかしいことに気付いた。
「どうかされましたか?」
「これセーラー服だよね」
「はい」
「日本のJKの制服じゃないの?」
「ニホンは賢者様のいらっしゃった世界のことですよね」
「そこのジェーケーというところでも似た制服を使ってるんですか?」
――落ち着け。この一致は何かの説明ができるはずだ。
――理事長のところに召喚されていた賢者も日本から来たのだとすると説明は付く。
――日本語が話されていることも同じように説明できる。
――だが、時間軸に無理がないか?
「この制服はいつから使われているの?」
「はい。理事長が学園を設立された300年前からの伝統的な制服です!」
――300年前と言えば、日本は江戸時代だ。その時代にJKの制服はない……
――元の世界とこの世界で時間の流れが違うのか?
改めて鏡に映る制服に目を凝らす。
スカートは膝丈よりやや短い長さのグレイのチェック柄のプリーツスカートで、見た目よりも軽くて涼しい生地だ。
セーラー襟風の白いブラウスは、伸縮性のある動きやすい素材で、こちらもゆったりして空気の通りやすく快適そうだ。
襟にはリボンと同じ明るいブルーの線が入っている。
胸元に紺色の刺繍のエンブレムが入っている。
FとGの文字に見える。
その下に文字を支えるように手が添えられている。右手だろうか。
「可愛い制服だね。とても似合ってる」
鏡に映るラミーシャの顔がパッと明るくなり、「ほんとですか?」と言った。
――いろいろと疑問は残るが、今は先送りしよう。
「じゃあ昼食を食べに行こう」
「はい」
◇
見慣れない形をしたドアを抜けて廊下に出る。
廊下を進んでいき、突き当たりで左に目をやると、テーブル席に三人の男女が座って話をしているのが見えた。
ラミーシャに気付くと、三人が立ち上がって話しかけてきた。
「大丈夫だった?」「心配したよぉ」
三人は全員、ラミーシャが着ているのと同じ制服を着ている。
トップスは白でボトムスはグレイだが、それぞれ少しずつ違っているようだ。
全員靴下ははいておらず、病院のサンダルに似た造りのシューズを履いている。
全体に夏の装いだ。
まるで、日本の高校生の男女が、夏休みに入院中の友達のお見舞いに来たような絵面だ。
「シノハ、アラン、ケイ、来てくれてありがとう!」
そう言いながら、心の中でマリトに説明してくれる。
「背の高い黒髪の子がシノハで、私のルームメイトです」
「おっきな男子はアランで、隣のケイと付き合ってるんです」
内緒話っぽくなっているのが楽しいようだ。
「説明はありがたいけど、余計なことをするとぼろが出るから、友達との会話に集中して」
シノハと呼ばれている女子学生は、170cmほどあるだろうか、長身で、腰まで伸びるまっすぐな黒髪をしている。
目は黒く切れ長で、どことなく落ち着いた和の雰囲気がある。
ラミーシャほどではないが、肌は白い。
トップスは同じセーラーブラウスだが、ボトムスはスカートではなく、膝上までのキュロットのようだ。
真ん中の男子学生は、190cmを超える長身で体格も良い。
ヨーロッパ系で、目はグレイに近い青で、髪色はラミーシャよりも薄いブロンドだ。
彼の制服は女子のセーラーブラウスとは異なり、ポロシャツ風のデザインで、襟はセーラーブラウスと同様に明るいブルーの線で縁取られている。
ボトムスは膝下までの長さのハーフパンツだ。
彼の右にいる女子学生は東洋系で、やや色黒の肌で、身長はラミーシャと同じくらいで華奢な印象だ。
髪色は栗色で、目は黒い。
隣に大男のアランがいるためか、小さく見える。
ラミーシャと同じタイプのスカートを履いているが、それ以上に目立つのは左足が包帯で撒かれており、松葉杖をついた状態で、包帯を巻いた足を宙に浮かせていることだ。
ラミーシャの昼食のトレイはすでにテーブルの上に置いてあったので、そこに腰掛けた。
「私たちのお昼ご飯も持ってくるね」と言って、シノハとアランの二人は席を立った。
◇
二人が戻ってくる間、ラミーシャはケイとふたりで話をはじめた。
そのとき、耳の後ろあたりで、筋肉がピクリと収縮するようなかすかな違和感を感じた。
ラミーシャとケイは素早く目配せした。
「来るね」とラミーシャ。
「レベル2くらい?」ケイが答える。
二人はうなずきながら、そっと食事のトレイを持ち上げた。
外から鐘の音が聞こえてきた。
「カンカン、カンカン、カンカン、……」
そして揺れが来た。
――地震だ。
――このふたり、地震を事前に察知したのか?
揺れは大きくはないが、数分間、意外なほど長く続いた。
その間、ラミーシャとケイは何事もないように話を続けている。
「今回の原因は結局、何だったの?」と興味津々のケイ。
「先生はリフレクションの結果、魔法アレルギーじゃないかと言ってた」
「魔法アレルギー?それ何?」
「さあ。私にも良くわからないんだ」
マリトはどうしても確認したいことがあるので、話の最中だが頭の中で話しかけた。
「今のは地震だよね?」
「はい。空隙震です」
――『クウゲキシン?』地震の種類だろうか。
「来ることが予知できるの?」
「はい。魔法学園の訓練で予知の方法を覚えます」
「今日来ている子たちは全員できます」
「予知できない人は、さっきの鐘の音『空隙震警報』を聞いて避難します」
「地震はよく来るの?」
「はい。今回のは小さいですが、レベル6くらいのも、結構来ます」
ラミーシャは再び会話へと戻っていった。
――なるほど、テーブルが固定されているのはそのせいなのか。
マリトがそれまでに感じていた違和感のいくつかが解消した。
固定されたり、ひもで吊るされていたものが多いのには気がついていたのだ。
「どうかしたの?」ケイがラミーシャの目を覗き込んで聞いた。
話が途切れたのが気になったようだ。
――危ない危ない。これは注意しないと、ぼろが出そうだ。
◇
二人が食事の入ったバスケットとトレイを運んできた。
バスケットには、共通の食材としてパンと野菜、そして全員分の筒状の水筒のようなものが入っている。
ラミーシャは学園の人気者らしく、とにかくよく笑い、よくしゃべる。
「その足、どうしたの?」とラミーシャがケイに尋ねた。
「この前の馬術で、馬に踏まれてしまって、ひずめで左足の親指が潰れてしまって」
「そのままだと治りが遅いということで、親指の付け根のところで切ってもらうことにしたんだ」
「三ヶ月もすれば、元どおりに生えそろうらしいんだけど、次の試合に間に合うかどうか」
――いま、生えてくるって言ったか?
――トカゲじゃあるまいし、人間にはそんな再生能力はないんだが……
マリトは、疑問が膨らむが、ぐっとこらえる。
「これじゃあ、寮まで帰るのは大変だね」
「アランに付き添ってもらって馬車で帰るつもり」
「遅い馬車だと月が笑うまでに寮に着けないので、次の馬車に乗ろうと思ってる」
「今日の月は満面の笑みだね」
――月が笑う?
――満面の笑み?
マリトはさすがに我慢ができなくなって聞いた。
「月が『上る』じゃなくて、『笑う』なの?」
「はい。『上る』とも言いますが、『笑う』のほうが普通です」
――まったくわけがわからない。
――『上る』と『笑う』の単純な言葉の言い換えなのか?
「太陽も『笑う』の?」
「いえ、太陽は笑いませんよ」不思議そうに答える。
マリトはさらに混乱するが、それ以上の追求は我慢する。
◇
話をしながら食事を口に運ぶ。
手には箸を持ち、器用に使っている。
このあたりも、日本とよく似ている。
エビ料理の食感も味も、ほぼ想像どおりのものだった。
――ここは本当に異世界なのか?
――日本としか思えないんだが……
そう油断していたマリトは次の瞬間、恐怖に直面することになる。
ラミーシャのトレイにはもう一つ、一回り大きなエビの蒸し物のような料理も載っていた。
見た目はシャコに似ている。
そちらは頭が付いていた。
赤い色であるが、あまりエビの頭のようには見えない……。
――あれ?この形はどこかで……
――まさか、虫の頭!?
気付いたときには、悲鳴を上げたい衝動をかろうじて抑えた。
「ちょ、ちょ、ちょ、これ、虫じゃないか?」
マリトはラミーシャに頭の中で問いただす。
「さっき食べたのもそうなのか?エビじゃなかったの?」
「先ほどの炒めたやつですか?エビですよ」
「エビは虫じゃないですか」当たり前のように答える。
「いや、エビは魚介の一種で、海の生き物だよね」
「違いますよ。森の木の上にいる生き物ですよ」
「お父さん、エビのことをご存じないんですね」
「ボルディアでは海の生き物を食べる習慣はありません」
「津波が来るので海に近づくのは、禁止されているんです」
マリトは驚愕で言葉も出ない。
「エビは頭の中まで食べられて美味しいんですよ」
「この大っきいやつとか、すごく美味しいと思います」
そう言いながら左手で頭をつかんで、箸で引っ張って身を切り離す。
ひっくり返し、箸で頭の中の身をほじくり出すようにつつき回し始めた。
巨大な虫への嫌悪感が湧き上がってくるのを感じる。
触覚が動いたような気がした瞬間、背筋がぞわりとする。
「いま、動いた?」
「はい、大きなヤツは、つつくと調理後も少し動いたりするんですよ」
そう言いながら、箸で取り出した身を口に近づけてくる。
マリトの精神防壁が限界を超えた。
「い・や・だ」
「無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理、無理!」
「ミーシャさん、待って、待って、待って、待って」
「お願いです」
「覚悟ができるまで、時間をください!!」
その様子に、ラミーシャはクスリと笑って、エビの頭をトレイの方に戻した。
その様子をケイは見逃さなかった。
「ミーシャ、なぁに?思い出し笑い?」
「お父さんがね、エビがダメなんだって。」
その答えを聞いてアランとケイが顔を見合わせて、ラミーシャに向かって聞いた。
「ミーシャ、お父さんって、いたっけ?」
ラミーシャは答えに窮して固まった。
焦りが伝わってくるが、マリトにも打開方法は思いつかない。
――ここはしらばっくれるか?
ラミーシャは「えーと、その」と言って、シノハの目を見た。
視線に気付いたシノハは、軽くうなずいて口を開く。
「あ、私の父のことよね」
「前に私の家に遊びに来たときに、父が、エビが苦手だという話をしてたのを思い出したのね」
――この娘は頭の回転が速い……
ラミーシャは、首をぶんぶん振ってうなずいた。
「へえー、シノハのお父さんは有名な剣豪なのに、そんな弱点があるんだ」
「そうなの。意外でしょ」
◇
学生たちの話が盛り上がっている中、彼らから死角になっている柱の後ろにたたずむ人影があった。
その人影は、なにやら考え事をしている様子で静かに柱から離れ、学生たちとは反対の方向へ歩きはじめた。
嵐の前の静けさはここまで、最後に怪しい人物が出てきました。謎の敵勢力が行動を開始します。
次回、序盤の高難度試練の始まりです。
※ブクマといいねで応援もらえるとうれしいです。




