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Ⅲ-02 三大魔導書を守り抜けますか?

【あらすじ】

ITの存在しない剣と魔法の世界に召喚され、少女ラミーシャの第二人格として転生したIT企業のコンサルタントのマリトが、力を合わせて世界を危機から救い、元の世界への帰還を目指す物語――

身体・魔力測定の途中で生徒会役員として緊急招集されたマリトたちは、学園内で魔法体系の重要書物の盗難事件について知らされる。最後の重要書物を収めた理事長室で、マリトは思いもよらないものと対面する――

――これはどういうことなんだ?


理事長室の机の上を見たマリトは、驚きのあまり言葉を失う。

そこには、元の世界で彼が回収したのと同じ、エーテルアームの右腕が台座の上に据えられていたのだ。

この世界で金属があまり使われていないこともあり、金属でできた未来的なフォルムに強い違和感を感じる。


一瞬、近寄るのをためらうが、意を決して歩み寄って確認した。

アームに取り付けられたプレートには見慣れた傷が――大学の研究室時代に自分の不注意でつけてしまった傷があった。

古びた様子もない……


――なんてことだ。これはダンジョンからオレが回収したアームそのものじゃないか!

――何が起きているんだ?

思わず背筋が寒くなる。


マリトの脳裏に忘れてかけていた、召喚前夜の惨劇の記憶がフラッシュバックする。

動悸が速くなるのがわかる。

気分が悪くなる。


「お父さん、大丈夫ですか?」

ラミーシャが心配そうに声をかける。

「すまない。落ち着くまで交代して」

ラミーシャに身体を返した。


二人は脳を共有しているため相互に感情が干渉するが、身体を使っている人格の感情が優勢になる。

ラミーシャの落ち着いた心が、マリトの動揺を癒やしてくれる。


マリトは心の中で聞いた。

「この腕は何に使うものなの?」

「『導きの手』と言いまして、理事長先生が賢者様と一緒にボルディアに持ってきてくださったものです」

「学園の入学者を選考するのに使われています」


「やりかたは、さっきお父さんにしてもらった魔力測定と同じ感じです」

「受験生はいくつかの準備を行ってから、この手に魔力を伝え、十分な魔力があれば、魔法を使う資格が得られ、入学が許可されるんです」

「お父さんは先ほどの測定結果では魔力が少ないので入学できませんが、馬車で契約の光を出しているので、魔法は使えます」

「理由はわかりませんが、私が資格を持っているからなのかもしれません」


マリトは、実は前の世界で回収したエーテルアームと同じものだということは、伝えないことにした。

――ミーシャを怖がらせても仕方がないからな……

それ以上に、彼自身も何をどう理解したら良いのかわからず、混乱していた。


「どうしたの?」

シノハが声をかけてくる。

「お父さんが、『導きの手』を見てびっくりされたんです」

「ああ、そうなんですね」

「この『導きの手』も学園が大切にしているものの一つです」


「そんなに大切なものなら、もっと管理が行き届いたところに置くべきでは?」

心の中でマリトがラミーシャに問う。

「そうなんです。私も不思議に思っていることがあります」

「導きの手は、いつもは入学者選抜の時だけ学園に持ち込まれて、すぐにゾンリーチャの市庁舎に戻されると聞いています」

「今年はなぜか、ずっとこうして理事長室に置いてあるままなんです」


挿絵(By みてみん)

◇参考挿絵:元の世界で回収したものと再会する


ラミーシャもシノハのいる奥の本棚へ移動する。

校長は木札に描かれた魔方陣を使って本棚の鍵を開ける。

蓋のついた本棚を開くと中に分厚い本が置かれている。


表紙に「CHIAN MAHOU TAIZEN」の文字が見える。

これもマリトが違和感を覚えていることのひとつだが、この世界の言語は日本語なのだが、文字はローマ字が使われている。


落ち着いたマリトは第1人格に戻って聞いた。

「鍵となる魔方陣を知っているのは誰ですか?」

「この魔方陣は今朝、私が定めたものです」

「なので、私が持っているこの木札の魔方陣でなければ開くことはできません」


「魔方陣を覚えられてしまいませんか?」

「この魔方陣は記憶阻害がかかっているので覚えることができません」

校長は中身を確認して呪文で扉を閉じる。


部屋の中を確認して回る。

窓がカーテンで閉じられているためやや暗い。

ライトキューブの白い光が部屋全体を明るくしている。


カーテンを開け窓を開いて首を出す。

4階建てで、登ってくるのは難しいことがわかる。


窓も樹脂製で簡単には壊れない。

内側で木製のしっかりした留め具でロックできる。

ロックを確認するとカーテンを閉める。


守るべきものを確認した後、マリトたちは理事長室を出てしっかりと扉をロックした。



続いて、一行は、アランを控え室に残して、前々日から今日までの事件現場を見てまわることにした。

校長の後について、廊下の反対側の奥にある校長室へ向かう。

教員の控え室が手前にあるので、そこを通って部屋に入った。


盗難があったのは、朝の2限の時間帯で、教員の多くは控え室を出払っており、部屋には数名しか残っていない状況だった。

しかし、校長室に入るには教員のいる部屋を通って、ドアを開いて入る必要がある。

教員の前を通らないと入れない。


その日、校長は外での用事を済ませた後に、2限の時間帯に学校に到着した。

現代魔法大全の本は数冊学内にあるが、校長室にある1冊は、いつもデスクの上に置かれている。

校長は朝、学校に来て、デスクで書類作業を始めたが、そのときにはいつもと同じように、魔法大全の本はデスクの上に置かれていたという。


書類作業を終えて、ふとデスクを見ると確かに、さっきまでそこにあった魔法大全の本がなくなっているのに気付いた。

落としたのかと思って机の下を見たが見つからない。


校長は作業中、誰も部屋に入っては来なかったと言う。

そして、控え室の教員にも、校長室へ入る人はいなかったと言っている。


「知っている人も含めて、部屋を出入りした人は誰もいないのですか?」

ラミーシャと再び交代して第一人格になっているマリトは聞いた。


「はい。誰も部屋には入ってきていません」

「外の教員も誰も見なかったと言っています」

「本は確かにデスクの上に、いつものようにあったんです」

「突然、本だけが消えたんです」


「不思議でしたが、何かの勘違いかもしれないと思って、そのときはあまり気にせず、残りの仕事をして帰りました」

「盗難事件だということに気付いたのは、昨日、マイスナー先生からの相談があってからのことです」



医療棟は講義棟とは別の建物で、マリトたちが世話になった救護室がある。

二日目の盗難の現場にいたのは、彼らも知っている医療責任者のマイスナー医師だった。

マリトたちは、1階でマイスナー医師と合流すると、3階の一番奥にある彼の研究室に向かった。

手前には共同研究スペースがあり、彼の助手と学生が忙しそうに働いている。


昨日は、上級生向けの講義があったため、マイスナー医師は医療魔法大全を持って授業を行った。

そして、授業が終わった昼休みに、魔法大全を研究室の本棚に戻したとのことだ。


「その日は論文をまとめていたのですが、少し確認したいことがあって、本棚に本を取りに戻りました」

「しかし、ここからが不思議なんですが、確かにそこに置いたはずの医療魔法大全がなくなっていて、代わりに現代魔法大全が置いてあったんです」


――どういうことだ?盗んだ本を返してきたということか?

――狙いはその本じゃなかったということか?


「この間に誰も出入りはしていません」

「昼休みで人数は少なかったですが、数名は残っていました」

「誰も見ていないと言っています」

「校長先生が本をなくしたという話を小耳にはさんでいたので、相談したんです」


「お父さん、怖いです」と心の中で伝えてくる。

「魔法で、本を消したりすり替えたりはできないんだよね」

「はい。魔法は物理法則に従っています」

「原因もなしに、ものが消えたり、入れ替わったりはしません」


校長とマイスナー医師は、警備隊本部とも連絡を取り、次に治安魔法大全が狙われるかもしれないので対策を取ることにした。

そうした本が禁書庫にあることは知られているので、格納場所を理事長室に移し、両方に警備隊員を置いた。

いつもの常駐隊員の二人では足らないので、禁書庫の警備のために緊急で隊員を派遣してもらっている。



「今朝、ここでさらなる盗難が確認されて、皆さんを招集したのです」

マイスナー医師も一緒に、最後の現場である禁書庫に着くと校長はそう言った。

禁書庫は図書館棟にあり、一般の図書室のひとつ上階にある。


禁書庫には窓はない。入り口は一カ所だけだ。

今は警備隊員が立っている。

そして、誰も近づいてないという。


校長とマイスナー医師は、念のため、禁書庫内の様子を確認することにした。

「治安魔法大全を抜き取った場所は、当然ですが、何も変わっていませんでした」

「しかし、マイスナー先生がデスクを指さすので、そこを見ると昨日盗まれた医療魔法大全があったのです」

「慌てて、他に変わったことがないかを調べたところ、別の機密書物が盗まれていることがわかったのです」


「それが『ボルディア詳細地図』なのですね」

「はい。ボルディアが地上のどこにあり、ゾンリーチャなどの都市の配置がどうなっているのかは、極秘事項なのです」


校長は一連の事件について総括した。

「いずれも白昼に書籍がなくなったり入れ替わったりという現象が生じています」

「方法もわかりませんが、あと三つわからないことがあります」


「ひとつ目は動機」

「盗んだ本を入れ替えて戻すことに何の意味があるのか、という点です」

「二つ目はタイミング」

「いずれも、白昼、書籍の管理者がいるところで行われているところです」

「盗むのであれば、夜に、管理者がいないタイミングを狙った方がよいはずなのです」


――まるで『透明人間』がいるみたいだ。ミーシャに聞いてみるか……

「人間を透明にする魔法とかあったりするの?」

「そんなのあるわけないです!透明な人間とか、怖いこと言わないで下さい!」

「変なことを聞いて、ごめん」


校長は続ける。

「三つ目は予兆」

「それぞれの事件の前に共通に起きていたことがあるのです」

「いずれも事件の数分前に、現場にいた全員に誰からかわからない匿名の念話の呼び出しがありました」

「事件と関係があるのは明らかなのですが、何を意味するのかがわからないのです」


――携帯電話のワン切りみたいなことか?

――まるで、事件予告で挑戦状を突きつけているみたいだ……



「これまでの状況が共有できたので、理事長室の控え室に戻りましょう」

シノハがそう話している途中で念話が入った。

「アランからです」

「魔力測定中の女子更衣室に『ボルディア詳細地図』という本が置いてあるという連絡があったそうです」


ラミーシャの第1人格となっているマリトは、考え込みながら言った。

「陽動かも知れません」

「しかし、極秘の書籍をいつまでも更衣室に置いておくことはできません」と校長。

「本件自体が秘密で、場所が女子更衣室となると、私が受け取って禁書庫まで届けるしかないですね」

校長がうなずくと、シノハは更衣室に向けて駆け出した。


「私達も急ぎましょう。いつ向こうが仕掛けてくるかわかりません」

マリトたちと校長、マイスナー先生の3名は早足で、理事長室のある講義棟へと向かった。



講義棟に入り、階段を上る。

3階を過ぎたあたりで、マリトたち全員に匿名の念話が入った。

三人は顔を見合わせた。

「急ぎましょう」とマリトが言い、急いで階段を駆け上がった。


マリトは、4階の廊下に出て理事長室の方を見る。

――2名いたはずの警備隊員の姿がない――


走りながら控え室にいるアランに声をかける。返事がない。

控え室を覗き込む――

――アランの姿もない。

――何が起きている?


校長はドアを確認した。ロックはされている。

「ドアは閉まったままです」

「しかし、これまでも密室の中で盗難が起きています」

「部屋の中を確認しましょう」


「シノハが戻るのを待った方が良いのでは?」

マリトは提言した。

――陽動だとすると、シノハを引き離すことに意味があったはず……


「いえ、それで手遅れになるのを避けたいです」

「私の責任で部屋に入ります」

そう言うと呪文でロックを外し、ドアをゆっくりと開けると、全員で理事長室に足を踏み入れた。


挿絵(By みてみん)

◇参考挿絵:理事長室へ階段を駆け上がる


【次回予告】

マリトたちは事件現場を確認した後、最後の重要書物を収めた理事長室に戻る途中で、盗難事件の予兆である匿名の念話を受け取りました。次回、理事長室で透明人間との対決が始まります――

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