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-07-

 

「やるじゃねぇか、シンタロー!」


「は? バルド、生きてたのか?」


「あの程度のブレスで死ぬ訳ねぇだろ」


「その通りです。バルドさんは殺した程度では死んでくれません。心配するだけ損です」


 それはそれで、ボスウルフ以上にヤバい存在じゃねぇか。



 ボスウルフの胸部の裂け目から、ゴロリと、赤黒い“石”が落ちた。しかも、今までの小さな石とは明らかに違う、禍々しい輝き。


「おい、シンタロー。なんか嫌な予感しかしねぇぞ」


 石に手を伸ばそうとした瞬間、石が“脈打った”。


 ドクンッ。


「え? 今、動いた?」


 その脈動とともに、森のさらに奥から、無数の唸り声が響き始める。


「まさか、まだ、いるの?」


 バルドが斧を構え直す。


「おいオッサン。次の相手、もっとヤバいかもしれねぇ!」


 俺は新しい武器、対魔殻穿孔槍を握りしめ、深いため息を吐いた。




 あれだけの化け物を倒したにもかかわらず、奥からはまだ冷たい風が吹いてくる。


 リナが震える声で言う。


「シンタローさん、あっち、まだ空気がおかしいです」


 バルドも鼻を鳴らした。


「血の臭いじゃねぇ。これは、もっと嫌な臭いだ」


 三人は慎重に茂みを抜け、さらに奥へと進んだ。

 森は異様な静寂に包まれ、鳥の鳴き声すら消えている。




 木々が開け、小さな谷間に出た。その中央には、巨大な穴がぽっかりと開いている。


「洞窟か?」


「違ぇな。自然に出来たもんじゃねぇ。ありゃあ、何かが“くり抜いた”跡だ」


 辺りには、あの変異魔物たちが残した奇妙な黒い粘液が散らばっている。それがまるで、穴の中へ引きずり込まれているような痕跡を作っていた。


 リナは顔を青ざめさせ、シンタローの腕を掴む。


「シ、シンタローさん。あれ、聞こえます?」


「え?」


 そう言われて耳を澄ます。


 ・・・ズル・・・ギィ・・・ズズッ・・・


 何かが、地中深くで蠢く音?


 バルドの表情が一瞬で険しくなる。


「巣だ。奴らの“巣”がここにある」


 リナの手が震えた。


「これだけの魔物が出てきた巣。全部この穴から?」



 バルドが斧を担ぎながら言う。


「どうする、シンタロー? 引き返すなら今だ」


「一応聞くが、ここで引き返してもクエストは成功扱いになるのか?」


「たぶん、成功という判断に成るだろうな。それと同時に、この穴の調査クエストを命じられるだろう」


「チッ、結局行くしかないのか」


 リナも強くうなずいた。


「わ、わたしも行きますっ!」


 バルドは豪快に笑い、斧を地面へ叩きつけた。


「上等! 三人で根こそぎぶっ潰してやろうぜ!」


 三人は暗闇の穴を見つめる。

 そこは、森の異変の中心。何かが“繁殖”し“発生”し、そして、この地を侵している巣。


 俺たちはその闇の中へ、一歩を踏み出した。




 巨大な洞穴に辿り着いた。入口周辺には普通の動物の痕跡がまったくなく、代わりに黒い結晶が岩壁に張り付いていた。


 リナが震える声で言う。


「この反応、魔素が異常に濃いです。まるで誰かが意図的に集めたみたい」


 洞穴の奥は真っ暗だ。

 リナの魔法で周囲を照らしながら先へ進む。


 三人が洞穴に足を踏み入れた瞬間、


 ズズ・・・ッ・・・!!


 壁の黒い結晶が、まるで生き物のように脈打ち始めた。


「ヒィッ!」


 俺たちは警戒しながら歩み続ける。

 奥へ進むほど、空気は重く、粘りつくようにまとわりついてくる。


 そして洞窟の最奥。


 そこはまるで“心臓部”のような空間だった。


 中央にそびえ立つのは、ひときわ巨大な黒い結晶体。脈打つように淡く光り、周囲の魔力を吸い込んでいる。


 リナが青ざめた顔で呟いた。


「魔素結晶。いえ、これは異質すぎます。自然では絶対に生まれません!」



 結晶に近付くと、俺の中の何かが反応した。

 ん? 

 俺の魔力が、結晶に引かれている?


 結晶が低く共鳴し、黒い光が脈打つ。

 バルドが慌てて俺の肩を掴んだ。


「やめとけ! 吸われるぞ!」


 俺は結晶から一歩退いた。


 リナは震える声で言った。


「この結晶が魔物に“変異”を引き起こさせてます。魔力を歪ませて、暴走させるようです。もし村や大きな街に運ばれたら・・・」


「とりあえず、変異の原因はわかった。あとは、コイツをどうするかだけど・・・」


 そう呟いた瞬間、


 バキィン!!


 黒い結晶の表面にヒビが入り、内部で何かが蠢いた。

 そのとき、俺の耳に低い囁きが響く。


 “解放ヲ・・・”


 ゾクリと背筋が凍る。


「な、なんだ? 今の声、聞こえたか?」


「・・・? いや、何もっ!」


 結晶の中の巨大な影が動いた。


 バルドは斧を肩に構え、結晶と俺の間に割り込んだ。


「気をつけろ。こいつが“変異”の元凶だろう」



 バキッ・・・バキバキバキッ!!


 巨大な結晶にいくつもの亀裂が走り、黒い光が漏れ出す。

 次の瞬間、結晶が爆ぜた。


 黒い霧と破片が洞窟を埋め尽くし、石床が波打つほどの衝撃が走る。

 俺は腕で顔を覆い、後方へ跳んだ。


 煙が徐々に晴れ、そこに立っていたのは、人型の“ナニ”かだった。

 だが、明らかに人ではない。

 漆黒の骨格、歪んだ筋肉、裂けた嘴のような口。そして瞳は、深い闇と炎が混じったような赤黒い光を宿していた。






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