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-04-

 俺は今、バルドに肩を掴まれた状態でギルド奥の通路へと連行されていた。

 リナは俺たちの跡を慌ててついてくる。


「ちょ、ちょっと待てくれ。水晶球を壊したくらいで、なんでこんな大ごとに? まぁ。確かに今は弁償する金は無いけど、必ず弁償するから!」


「“壊した”なら問題ねぇ。だが“壊れた”んだ。つまり、お前の魔力値が上限をぶち抜いたんだよ」


「水晶球は上位魔術師でも光るだけです。砕けた例なんて、聞いたことありません」


 これって、もしかして、弁償とかお金の問題以上に厄介な事なのだろうか。なんだか、胃が痛くなってきたぞ。




 案内されたのは、ギルドの最上階。厚い扉が重々しい音を立てて開かれた。


 広い部屋の中央に、長い楕円形のテーブル。その先端に座るのは、白髪混じりの厳しい目をした男。


「ギルド長のロドルフさんです」


 リナが小声で教えてくれた。


「座れ」


 その声は低く、岩のように重い。


 俺は促されて席に座る。バルドは壁際に立ち、リナは緊張で背筋を伸ばしていた。


 ロドルフはゆっくりと口を開いた。


「水晶球破壊の件、リナとバルドより報告を受けた」


「す、すみません。あれ、高かったんですよね?」




 沈黙。




「値段の問題ではない」


 背中に冷たい汗が流れる。

 ロドルフは机の上に、割れた水晶球の破片が詰められた箱を置いた。


「シンタロー、と言ったな。貴殿の魔力量は、計測不能。正直、規格外だ」


「で、ですよねぇ」


「単刀直入に聞く。貴殿は、転移者か?」


 室内の空気が一変した。


 リナもバルドも息を呑む。


 俺は、しばし迷い。ゆっくりと頷いた。



「やはり、な・・・」


 彼は手元の資料に目を落としつつ、静かに続けた。


「この世界には“時折”転移者が現れる。だが、君のように初期状態で水晶球を粉砕した者は、記録にない」


「そんなに珍しいんですか?」


「珍しいどころか、災害級の扱いだ」


「えぇぇ・・・」


 ロドルフは立ち上がり、窓際へ歩いた。背中越しに低く言う。


「ゆえにギルドとしては、君を即座に拘束するという選択肢もあった」


「えっ! マジで!?」


「ギ、ギルド長っ! シンタローさんはまだ何も悪い事はしてません!」


「そうだぜロドルフさん。コイツは危険だが、根は悪くねぇ」


 ロドルフはふたりを黙らせるように片手を軽く上げた。


「だが、君に敵意がないことは理解した。それに・・・」


 ロドルフはゆっくりと振り返りながら言葉を続ける。


「この世界は、君のような存在を必要としているのかもしれん」


「世界が必要としている? どういう意味です?」


「いずれ説明しよう。だがまずは、ギルドとして君の監視と保護を兼ね、ある任務を受けてもらいたい」


「任務?」


「近隣の森で、通常では考えられぬ魔物の異常発生が確認されている」


 リナとバルドが顔を見合わせた。


 ロドルフはシンタローを真っ直ぐに見据えて言った。


「シンタロー。君には“調査クエスト”を任せたい」


「クエスト、ですか」


 俺はギルド長の言葉を反芻しながら、背筋を伸ばした。


「そうだ。近隣の《グレイウッドの森》で、魔物の異常増殖が起きている。原因は不明。既に調査に向かった冒険者は三組。だが、いずれも連絡が途絶えた」


 重い沈黙が落ちる。


「それ、俺で大丈夫なんですか? 新人ですよ?」


「新人だからこそ、だ」


「え?」


 ロドルフが歩み寄って来る。一歩一歩近づくほどに、彼の威圧感と真剣さが空気を変えていく。


「君の魔力量は、普通の冒険者とは比較にならん。どれほど経験を積んだ者でも、未知の脅威には太刀打ちできん時がある」


 ロドルフの視線がシンタローを射抜く。


「しかし、“規格外”は、未知を切り開く力を持つ」


 胸にずしりと重いものが落ちた気がした。しかし、不思議と嫌な重さではない。


 リナは心配そうにシンタローの袖を引いた。


「む、無理しなくていいんですよ? シンタローさんが行きたくないなら、・・・」


 バルドは腕をくみながら大笑いした。


「オッサンの規格外っぷりなら、森の魔物が逆にビビって逃げるかもな!」


「そんな訳ねぇだろ」


 ハッキリ言ってこんなクエストは受けたくない。

 俺の強さなんて、ウサギ1匹よりも少しだけマシな程度だ。魔物が異常増殖してる森なんて、死にに行くようなものだ。


 でも、断ったらお金を稼ぐ手段を失うだけでなく、最悪はギルドに拘束されるって事だろ。


 俺は深呼吸をひとつして、ゆっくりとギルド長に向き直る。



「わかりました。そのクエスト、受けます」


 ロドルフは満足げに頷き、テーブルに手を伸ばして一枚の書類を差し出す。


「リナ、バルド。君たちも同行し、シンタローの補佐を頼む」


「へ? ええぇぇぇ!」


「おっしゃ、任せろっ!」


 俺は書類にサインをしながら、胸の内がざわつくのを感じていた。


 異世界の初クエストか。不安しかねぇ。

 てか、二人も付いて来るのか。俺の手伝いというよりは、クエストを受けたフリして俺が村から逃げないように監視する為か。



「それじゃあ、オッサン。出発は明朝だ。準備はリナが手伝ってやれ」


「はぃ」


「帰ってくるまでがクエストだ。覚悟しとけよオッサン!」


 バルドには魔物が異常増殖してる森でも、遠足気分かよ。なんでこんな筋肉ダルマがギルドで受付してるのか、そこが一番の謎だ。



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