なろう×公平論 人気集中は偏見か必然かと具体的な改善方法を考えてみる
「小説家になろうを全作家に公平に! 偏見をやめろ!」というエッセイや、小説家になろうチアーズという収益化プログラムが出たので、便乗して色々語ってみることにしました。
いやあ、まさか投稿する少し前に、強制退会させられているとは思いませんでしたが。
まず「現在の小説家になろうは公平か?」から語りたいと思います。
これについて、二次創作など一部を除き公平であると言っていいと思います。
理由はランキングの評価制度が一定であるためです。
「人気ジャンルの同じようなものばっかり並ぶのは公平じゃないだろ!」
そう思う方もいるでしょう。けどそれは逆。そのジャンルの需要が高いから人気なわけで、むしろ公平であると証とすら言えます。
少し前に、将棋で女流棋士がプロ棋士に編入しやすくなる新制度の話が出てきました。
けれど、これに多くの人が苦言を呈していました。
「男女問わず一定の条件でプロになれる制度があるのに、女性だけ条件を増やすのはおかしい」
「女性のプロ棋士がいないのは、純粋にその水準の実力を持つ棋士がいないから」
概ねこの二つが反対意見の大多数を占めていましたね。
この『実力』を、読者数や作品評価に置き換えれば大変わかりやすいでしょう。
読者数が少なく作品評価が少ないから総合ランキングに上がれない。この状態で他のジャンルが上位に入るなら、それは他のルートで下駄を履かせるしかないわけです。それはむしろ不公平でしょう。
これは小説家になろう発の賞も同じ。『この作品ならば書籍化すれば売れる』から賞を取れるのです。独創性や目新しさはむしろ『確実に売れる要素』からは離れてしまいます。
そしてすべての作品を同じ条件で選別しているのですから、これもまた公平です。
とはいえ、完全に公平かと言われればそんなこともないと思います。
まずランキングがジャンル分けされているから。
ジャンルという区切りを与えて、その中で人気を得たものが上位に上がるのは、『下駄を履かせる』の一種であると思います。
決してそれが悪いとは言っていませんよ? ただ、公平さはそういった区切りがなく、一緒くたにした状態で成立します。
また、異世界ジャンルを『異世界〔恋愛〕』といった形で細分化したことで、人気ジャンルが『異世界〔恋愛〕』により集中しました。
そしてハイファンタジー〔ファンタジー〕も明らかに女性向けの恋愛ジャンルに偏るようになりました。
作品に対していいねや評価といったアクションを付けるのは女性の率が高くなると言われています。
そのため総合ランキングや、人気ジャンル異世界系は、女性向けのなろう系作品、それも主に短編が上位を締めるようになっています。
なお、結果として、男性向けのなろう系はカクヨムに流れてしまいました。
『女性の方が評価を付けやすいシステム』という意味では、公平性に欠けるとは言えるでしょう。
元々女性の方が評価率が高いなら、現状はこれで公平。男性の評価率を上げるのは下駄を履かせるのと同義という解釈もできますけどね。
ただ、小説家になろうは作家と読者の境界が緩く両立できるのが強味です。それで元々いたユーザーが離れた以上、システムとしての公平性が保たれていたかは、やはり疑問です。
わたしは特定ジャンルしかあまり読まれないのは、需要と供給において、嬉しくはないけれど仕方のないことだと思っています。
しかし、元々需要があって存在していたユーザーが離れて、カクヨムがその受け皿となってしまったのは、流石にちょっと話が違うよ? これは最適化じゃなくて先鋭化して人を失ってない? と心配になりました。
需要の高いジャンルと作品にばかり評価が集まるのは、それこそが公平だから。
じゃあ現状に不満を持つ人たちが求めているのは何か? それは『公平』ではなく『平等』であることです。
身も蓋もなく言えば、「需要とかどうでもいいから、もっと全体に同じようなPVを分配せよ」が本音じゃないでしょうか?
一旦分配した状態から出る人気・不人気なら、一定は受け止められるのだろうと思います。
これを実現するために、ある程度ジャンル毎に分けて人気ジャンル以外もランキング入りしたわけです。でも、これだけだと全然補填できていないのが実情。
ただし、これは読者需要の差です。最初から読者の読みたいジャンルや文体はある程度決まっていて、それが需要に沿って最適化されるのがランキングシステムと言えます。
ならば仮に、平等なPVが行き渡るようなシステムを作ったとしたらどうなるでしょう?
読者が「いや、読みたいのはこれじゃない」と拒否するし、「読みたくないものばっか読ませようとしてきて、このサイト使いにく過ぎ。他のサイト使うわ」でプラットフォームごとバイバイする結末しか、わたしには見えませんね。
たとえサイト運営者であっても、小説家になろうを利用するユーザーの意思を無理やり曲げることはできず、読者が求めてないものはどう足掻いても読まれません。
ならば、まったく別の考え方や手法を用いるべきでしょう。まずはここで、昨日発表された『なろうチアーズプログラム』です。
少なくとも、ユーザー増加を狙った戦略であるのは間違いありません。
なろうチアーズは現状を改善する要因になるでしょうか? 結論から言えば、多分ならないです。どちらかと言えば先鋭化がより進むのではないかと思います。
まず、なろうチアーズ用の広告を配置するようですが、ほとんどのWeb広告自体が1pvにつき1円にもなりはしません。またそれを100%ユーザーに還元するとは思い難いです。
運営の取り分や、最低でもなろうチアーズのシステム維持費などが発生するのは必然です。
だとすれば、ほとんどのユーザーが実際に得られる収益は皆無か、雀の涙程度。小遣い稼ぎすら難しいと思われます。
一番手っ取り早く収益を狙うなら、人気ジャンルでランキング上位に入りPVを稼ぐことです。
つまり、現在人気ジャンルの異世界〔恋愛〕に、人気がより集中しやすくのは想像に難くありませんね。
結局そんな、あるかないかもわからない収益性よりも、多くの作者は『読者』を求めます。
Web小説はたとえオリジナルでも一種の同人活動であるとわたしは思います。稼ぐことより読まれる方がずっとプライオリティが高いのです。
ただ、リワード(収益)の集計条件として『継続的な作品の更新や投稿を行っている場合には、より多くのリワードが付与される』とあります。
短編で更新頻度を上げる場合、毎回シチュエーションを考え、話のオチを付けるのは結構な負担です。
それにまずは短編で人気を得て、本命の連載で高評価を狙うのは現在でもまだ定番の手法でもあります。
そのため、毎日更新がしやすい連載作品の数が増えて、短編との比率差改善にはなるかもしれません。
ここまで、概ね夢も希望もないお話をしてまいりました。
「タイトルで具体的な改善方法を考えると書いてるじゃん」と思うのは当然でしょう。
残念ながら、完全な解決方法は存在しません。
Webという媒体や投稿するプラットフォームがある以上、そこには必ず需要や場に合わせた最適化が発生します。
それに、競争があるから人気があり、書籍化などのチャンスを得られるのです。仮に真の平等が実現したならば、今度はプラットフォームとして成立しません。
ただし、マシにする方法はあります。それは読者が個々に持つ需要をより最適化して、作品を提示すること。
早い話が『需要がマッチする人しかどうせ読まないんだから、今よりその人に届くシステムにするしかないよね』って理屈です。これを現在実践しているのが、SNSとフィルターバブルです。
まずX(旧Twitter)のように、アカウントの情報に好きなジャンルを登録。お気に入りユーザーを、フォローやフォロワーといった直感的にわかりやすい名称に変えます。
そして、実際に読んだ作品や、『いいね』したブクマ(更新したら告知する)、リポスト、感想から作品の傾向を解析して、トップ画面でオススメ作品や当該ジャンルの新作をバランスよく提示します。
また、Xでは『リプレイされる=オススメ欄に大幅に上がりやすくなる』特性があります。
これも実装すれば、ファンは作品への貢献として感想を付ける割合が上がるでしょう。
この感想も、リプライに近い形式で短文を気軽に送れる(システム的には長文にも対応)空気感に調整することが大事です。
逆に、普段読まないジャンルは一部の人気作を、優先度低めに表示する程度に留めます。
こうすることで、ユーザーは常に意識せず、自分の読みたいものが読める環境が、自動で構築されていきます。
最適化以外にも、男女の評価割合の差が埋まりやすいシステム的な利点があります。
SNSの『いいね』やリポストはワンタッチで気軽に行えるため、男女差が生じにくい。短文の気軽な感想も同様。こういうシステム体な敷居の下げ方であれば、公平性を維持したまま男女格差を減らせるわけです。
また、小説家になろうよりもシステムがSNS形式にやや近いPixiv小説の方が、PVに対していいねやブクマの比率が高いです。割合が高いと、より読者個人の意思が反映されやすくなると言えます。
他の作品が読みたいと思ったら、その時に検索機能を使えばいいのです。
検索機能の利便性は、実際のSNSより上げておくに越したことはないありません。たとえSNS型になっても、スコップもって掘り起こす探求者たちは一定数存在するし、埋もれた作品の人気の呼び水として彼らの存在は決して無視してはいけません。
現在でも、スコップ行為はカクヨムより検索性に優れる小説家になろうの方がやりやすいという意見があります。
今回のオチ。ランキング制度はわかりやすく便利だけど、素人の投稿サイトで、スマホとSNS時代に即した方法かと言われれば疑問が残ります。
しかしながら、こんなシステム大改編、UIやシステム調整は大変に難しいでしょう。
そもそもこれで上手くいくのかと問われれば、当のXがイラストSNSとして実質機能している程度です。小説投稿サイトに実装するとなれば未知数な部分が大きくなります。
そして完璧とは言えなくても、ランキング制度が未だ一定の効果を持っているのです。あえて挑戦しようという新進気鋭の勇者が現れて、身をもって結果を示すしかありません。
もしかすると、わたしが知らないだけで存在するかもしれないので、ご存じの方がおりましたら感想で教えていただけると幸いです。
少なくとも、小説投稿では最大手の一角である小説家になろうとっては無謀な自殺行為も良いところなので、現状だとやるわけないですネ!