<勇者ぽぽちゃん>
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『ぽぽちゃん』
うずうず銀河 おてんとうさま系 第七惑星 おほしさま 出身
惑星連盟 惑星交流機構 惑星電信局 うずうず銀河方面本部 特別配達官
長期休暇取得後、太陽系で衝突事故を起こし最寄りの惑星で宇宙ゴミに衝突し不時着、遭難
遭難後、居候先でブイチューバーを始める
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これが月の地下に広がるウサギの国からやってきたという設定になっている『ぽぽちゃん』の本当の立場である。もはや設定よりもその本当の生態のほうが下手なファンタジー設定よりもバラエティに富んだものとなっており、それは宇宙人としての今までの経験の方も同様であった。
「実はここだけの話、ぽぽちゃんは魔王とドラゴンの退治に関わったことがあるのですよ」
「どういうこと?」
それは中野が配信でのゲーム実況を提案し『ドラゴンエンド3』というドラゴンを倒し裏ボスとしてドラゴンを操ってきた魔王がいるという名作ゲームについて話をしたときのことであった。
「前にぽぽちゃんは特別配達官という日本でいえば郵便配達員さんをやっているって言ったじゃないですか」
「そういえばそうだったね」
この小さく可愛らしい宇宙人も一応は惑星連盟傘下の末端公務員なのである。なんでも特別配達官というのはどこの方面本部の管轄にもならないような僻地の惑星に単独で郵便物を配達するという部署とのことであり、色々な惑星をめぐる中で様々な体験をしてきたということを中野は聞いている。
「確かあれは航路に迷って今いる銀河がどこの銀河か聞くために立ち寄った惑星でのことだったのです」
なんでも偶然立ち寄った惑星、なんとそこは魔王と呼ばれる存在が惑星の完全支配を目指し、それに対抗する勇者という存在がいる惑星だったのだという。
そしてどこの銀河か尋ねに行った先、そこは何と魔王の城であり、何と魔王は目の前に現れた黄色い二足歩行のウサギに対して魔法によるとてつもない業火を浴びせてきたというのだ。
「あの時は流石のぽぽちゃんもビックリしたのですよ。それこそ全身の綿毛が真っ黒こげになっちゃったのです」
『ぽぽちゃん』はフサフサとした体毛のほかに厚着をするときには綿毛と呼ばれる抜け毛を馴染ませて暑い時と寒い時の調節をしていると聞いたことがあったが、よくそれだけで済んだものである。
「ほら、魔法だって結局はその惑星の理でしかないですから。一度抜けちゃってる綿毛の方は燃えちゃいますけど、ぽぽちゃんから生えている方の毛は燃えたりしないですのですよ」
「燃えたりしないのですよ」と言われても納得のできる説明にはなっていないが「でも、そういうものなのですよ」と本人が言うからにはそういうものということなのである。
「そしてですね。そのあとすぐに宇宙警察を呼んだのです」
こちらも同じ惑星連盟の傘下にある組織とのことだそうだが、それからすぐに宇宙警察がやってきても魔王は宇宙警察相手にも抵抗を続けたという。
「だから宇宙警察の方も『ちゅどーん』といった感じで魔王を退治したのですよ」
具体的にどうやって退治したのかは全く分からない。
だが、なんでもその時の様子を見ていた勇者一行は「あいつが犯人だ」と被害者が加害者を指し示す様子を宇宙警察の宇宙船を率いて魔王を退治したと勘違いらしく、なんと今その惑星では黄色い二足歩行のウサギが謎の物体を率いて魔王を討伐したという伝説になってその時のことが広がっているという。
「まあ、どちらにしろ惑星連盟傘下の存在ですし、勘違いしてる向こうの人たちは地球でいえば中世ぐらいの技術レベルですからね。不必要な接触を避けるためにもわざわざ訂正をしに行ったりはしないのです」
不必要な接触を避けると言いつつ道を聞くのはいいのかと思うが、考えてみれば今の中野との接触の方がはるかに濃い。そう考えればそれぐらいは許されることなのだろう。
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「それで、ドラゴンの方はどうやって退治したの?」
「フフフ、それは正真正銘このぽぽちゃんが退治したのですよ」
そしてしばらくして、魔王討伐の話が済んだところでドラゴンの討伐についても中野は聞くこととなるが、話を聞く限りそれは退治というよりただの前方不注意による事故である。
「あれはそこが一体どこの銀河に属する惑星なのか分かる生物がいないかを探して大気圏内を郵便配達船で滑空している時のことだったのです。いきなり進行方向前方の下から大きなドラゴンの頭が現れたのですよ」
いきなり目の前に現れたドラゴンの後頭部、そこに郵便配達船は激突。高速で滑空していた郵便配達船の運動エネルギーによりドラゴンは頭蓋骨を粉砕されて一瞬で絶命し地上へと落ちていったという。
そしてドラゴンが落ちていったすぐ近くにあった城壁都市、そこにいた人々に話を聞くとなんとそのドラゴンは誰かのペットでなく厄災龍と呼ばれる全世界に都市や町村を襲って人々を殺戮する危険生物だったのだそうだ。
「あの時は流石のぽぽちゃんでも心臓がバクバクしちゃいましたね。惑星連盟に所属していない惑星とはいえ誰かに損害を与えたら現状復旧か賠償をしなければなりませんから。こんなに大きなペットとなると保険とはいえどれだけの賠償になるのかと肝を冷やしたのです」
実際にはその惑星にとってはただ害獣だったこともあり賠償という事態にはならなかったそうだが、今ではその惑星にも厄災龍を討伐した黄色い二足歩行のウサギという伝説が残っているそうである。
地球人からしてみれば動くぬいぐるみのような見た目をした存在がどこかの別の惑星では勇者になっているとは面白いものである。
ちなみにその後、ゲームの中の架空の世界とは言えその惑星の理の中で魔王やドラゴンを倒すことがどれほど大変なことかを宇宙人の勇者が知ることとなるのはゲームを始めてからそう時間はかからなかった。