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8. 復讐

 ヘンダーソン一味を見つけるのは難しくなかった。ビチェトレスの導きにより、バートたちは混沌の地でついに彼らと相まみえた。遠くにヘンダーソンの姿を認めたその瞬間―バートの胸に沸き上がった怒りは、思わず彼の姿をビチェへと変貌させてしまった。


「ヘンダーソン、このクソ野郎!」

 叫んでからようやく、自分の姿が変わったことに気づく。


(しまった、まずは僕の姿で話をつけて、それから戦うべきだったのに……!)

 どうやって切り出そうかと思案していると、ビチェの姿を見たヘンダーソンたちの表情がどこか微妙に歪んだ。


「あ、あなたは……バートの……姉さん?」


 妹でもなく姉さんとは……老けて見えるってことか? 変な意味での怒りがこみ上げてきたが、今はそれどころではない。


「バートからすべて聞いた! バートが発見した宝を奪うために、無実の罪を着せて追い出した上に、命まで狙うなんて……お前ら、許さん!」


 怒りに満ちて叫ぶビチェを、魔法使いモリーンがあざ笑って応じた。

「それはバートの一方的な言い分にすぎないわ。あれは、私たちが一緒に見つけたもの。権利があるのは、私たちの方よ。それにしても、あんたも弟そっくりで、不細工で頭悪そうね」


「嘘つけ! お前たち、最初はあれが何かも分からず捨てようとしてたじゃないか! バートが価値に見出した途端に、欲を出して、奪って、殺そうとまでして!!」


 怒りを抑えきれず、体を震わせながら叫ぶビチェ。その肩にそっと手を置いて制したリノードが、鋭い眼差しで言い放った。

「ビチェ、嘘つかない。嘘は、お前らだ。裏切りと偽り、裁く!」


 馬から下りたリノードが剣を抜くと、ヘンダーソンが薄ら笑いを浮かべた。

「何だよ、蛮族みたいなツラして。デカいだけで、強いとでも思ってるのか?」


 リノードとヘンダーソンが激突する間、ビチェは魔法使いモリーンと回復術士トレッドの方へと駆けた。


 モリーンの魔法で地面から石柱が何本も噴き出す。ビチェは俊敏な動きでそれを飛び越え、雷球を放った。モリーンが防御魔法で雷球を打ち消し、今度は鋭い石の槍を飛ばしてきた。


 ビチェはそれを魔法障壁で弾き返し、間合いを一気に詰めて、魔法の防御を破り、メイスを振り抜いてモリーンの顔面にクリーンヒットさせた。物理的な一撃に加え、メイスから放たれた電撃が体を駆け抜け、モリーンは痙攣しながら崩れ落ちた。


 続けざまにビチェは、回復術士トレッドに雷の鎖を投げつけ、体を縛って感電させながら地面に叩きつけた。倒れたモリーンが呻き声を上げて起き上がろうとしたが、ビチェはすぐさま駆け寄って顔面に一撃を加え、続いて腹部を鈍い音とともに殴りつけた。


 バートのままだったら、正直ここまではできなかったかもしれない。でも、今は同じ女ということで、ためらうことなく叩けるのが、むしろありがたかった。


 胸のつかえが一気に晴れるような、痺れる快感が全身を駆け抜ける。これが復讐の味というものなのか、と思った。


 一方、ホカムはジグザグに駆け回りつつ矢を放ち続け、ついにクロスボウ使いのマイヤースの肩を貫いた。間合いを詰めて短剣を振るい、彼を制圧する。


 モリーンとトレッドを倒した後、ビチェがリノードの方へ視線を向けた瞬間、思わず息を呑んだ。

 ちょうどヘンダーソンの剣とリノードの剣が激しくぶつかり合い、その衝撃でリノードの剣が粉々に砕け散るのが見えたのだ。ヘンダーソンの顔には勝利を確信した笑みが浮かんでいた。


 だが―その刹那、リノードはもう一方の手でヘンダーソンの顔面に強烈な拳を叩き込んだ。ヘンダーソンは悲鳴を上げる暇すらなく、吹き飛ばされて地面に転がった。


 安堵の表情でそれを見守るビチェの前で、リノードはヘンダーソンが落とした剣を拾い上げた。その柄に手をかけた瞬間、銀白の剣身が神聖文字を伴って、まばゆい光を放ちながら現れた。ヘンダーソンが持っていた時には、一度も現れなかった光だった。


 驚きの眼差しで剣を見つめるリノード。しかし彼は、それをすぐにビチェに差し出した。

「聖遺物、あなたの剣」


 ビチェは剣を受け取り、リノードと同じように柄をしっかりと握ってみた。神聖文字が柔らかく発光したが、リノードの時ほどの輝きではなかった。


 ビチェ―バートは、この剣が想像を遥かに超える神秘的な宝、まさに〈神剣〉であることを悟った。この銀白の剣身こそ、神の金属そのもの。ヘンダーソンは真の力を引き出せなかったにもかかわらず、その本質を直感的に見抜き、欲望に駆られて暴走したのかもしれない。


 そしてリノード、彼はこの剣の真価を、ヘンダーソン以上に深く理解したうえで、父王から受け継いだ王国の宝剣が砕けてしまったにもかかわらず、迷うことなく、この神剣を自分に差し出したのだ。


(この剣の主は、僕じゃない……)

 そう直感したビチェは、剣をリノードに差し出した。

「リノード、この剣の主は……君だよ」


 リノードは驚いた顔でビチェを見つめたあと、静かに彼女の前で片膝をついた。

(えっ……うれしいのはわかるけど、そこまで?)

 あまりの荘厳な雰囲気に押され、ビチェはまるで剣を授けるような仕草で、それを彼に渡した。


 剣を受け取ったリノードはそれを高く掲げ、まるで宣言するかのように声高に叫んだ。

[我が名はリノード! ここに神の意志を受け、大いなる運命を成し遂げる!]

 その言葉に呼応するように、剣からは一層の輝きが放たれた。


 ビチェは、言葉の意味こそわからないが、どうやら何かかっこいいことを言っているのだろうと思った。ふと横を見ると、ガイベルとホカムが、涙を流して感極まっているのを目にし、思わず首をかしげた。

(そんなにすごい演説だったの? なんか短く感じたけど……)


 リノードは改めてビチェに向き直り、まっすぐな瞳で言い切った。

「俺、ビチェの呪い、解く。ビチェを……幸せにする!」


「えっ、あ……ありがと」

(呪いが解ければ、そりゃ幸せになるに決まってる)

 単純にそう受け取ったビチェは、素直にうなずいた。


 本来ならヘンダーソン一味を叩きのめしても足りないくらいの怒りを抱いていたが、すでに奴らは敗北し、降参した後だった。そこまでしてやりたいという気持ちは、もうなくなった。何より、あの誇り高き男リノードに、そんな無様な姿は見せたくない。


 土下座して百回の謝罪を受けた後、「次に目に入ったら、命はないと思え」と一発脅しをかけると、ヘンダーソン一味は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 雷に焼かれて髪がボサボサになった回復術士トレッドは、走りながら呟いた。

「バートにあんな姉ちゃんがいるなんて知らなかったな……」


 顔に青タンができたモリーンは泣きそうな声で言った。

「何あれ……あんな怪物みたいな人、あり得る? 魔法戦士って……見た目通りのゴリ押しタイプじゃない……」


 負傷した肩を押さえながら走っていた斥候のマイヤースも、不思議そうな顔で呟いた。

「そんな姉ちゃんと、あんな義兄さんがいるのに……なんで俺たちと一緒にいたんだろ?」


 唇が切れてまともにしゃべれないヘンダーソンは、「知るかよ」と言いたげな目で後ろをチラリと見た。そして、まだ遠くにリノードのシルエットが見えると、ビクリと身を震わせて、よろめきながらも全力で逃げ出した。


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