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5.新しい仲間

 ビチェの姿のまま、バートは食堂の席に腰を下ろしていた。優勝賞金も手に入り、しばらくは金銭的にも余裕ができた。今日はうまい肉の炒め物でも食べようと考えていた。


 料理が運ばれてくるのを待ちながら、ベストの雷マークを見てみたが、稲妻の黄色にほとんど変化はなかった。


(……なんでさっきと何も変わってないんですか?)

 ― それっぽっちじゃ、力を使ったうちに入らないよ。ただの余興ってとこだね。


(じゃあ、どうすればちゃんと消耗したことになります?)

 ― 決まってるでしょ、戦闘よ。バチバチに戦って、魔法もドーンとぶっ放して、そんくらいしてようやく〈力を使った〉って言えるの。


 腕相撲くらいじゃ駄目だというのなら、安全都市の外に出て魔獣でも狩ってみるしかない。


 バートはそう思った。どうせ復讐のためには、自分の力を試しておく必要があるのだ。そんなことを考えていたところへ、店員が大きな皿に山盛りの肉料理を運んできた。骨付きの、上等な肉料理だった。


「えっ、これ、僕が注文したんじゃないけど?」

 ビチェが不思議そうに言うと、店員は他のテーブルを指差した。

「そちらの男性がお頼みになりました」


 指差された先には、さっき腕相撲で対戦したあの男と、彼の仲間らしき人たちがいた。

(うそっ……なんでここが……!?)


 そう思っていると、男がにこやかに近づいてきて、話しかけてきた。

「俺、リノード。君、名前は?」


(えっ、言葉が妙にぶっきらぼう……?)

 ビチェはつい反射的に答えてしまった。

「ビチェです」


「ビチェ。この肉、俺がやる」

 ビチェが了承する間もなく、図々しくも向かいの席に座った男―リノードは短剣を取り出すと、見事な手つきで肉を骨から外し、ビチェの皿に綺麗に盛り付けてくれた。


 とりあえずくれるものはもらっておくか、という気持ちと、空腹、それに高そうで美味しそうな肉だったこともあって、バートは遠慮なく食べた。


 その様子を見たリノードは嬉しそうに微笑みながら、次々と肉を解体して皿に乗せてくれた。

 さすがにこれは変だと思ったバートは、手を止めてリノードに尋ねた。

「……あの、ありがとう。でも、なんで僕にこんなことを?」


 リノードは手を止めて、バートをまっすぐ見つめながら尋ね返してきた。

「君、一人?」


「え、まあ……」

(なに? やっぱり言葉が短すぎるってば)


「綺麗な女、一人、危ない」

(は? 何言ってんの?)


「俺と一つになる」

 その言葉を聞いた瞬間、バートは反射的に、何も考える暇もなく、リノードの顔面に拳を叩き込んでいた。あっ、と気づいて拳を引っ込めたが、リノードは避けることもせず真正面から食らってしまい、鼻から鼻血がつーっと垂れた。


 そのとき、リノードの仲間と思われる男が慌てて弁明した。

「ま、待ってください、誤解です! 変な意味じゃなくて、一緒にパーティーを組もうって意味です! 私たち、他の大陸から来たばかりで、この人、ちょっとこっちの言葉が不器用でして……!」


 ようやく誤解が解けたバートは、バツの悪そうな笑みを浮かべた。

 そういえば、リノードとその仲間二人、どことなく服装や雰囲気がこの辺りの人間とは違って見えた。


(……なにそれ? 僕の力に惚れたってわけ? でもいきなり仲間になろうなんて……)


 ビチェトレスの声が聞こえてきた。

 ― 受け入れな。お前にも仲間が必要でしょ? まさか、ずっと一人で行くつもりじゃないよね?


(まあ、仲間がいるに越したことはないけど……)

 ― この男は信頼できる人間だ。それに、お前が今まで関わってきたチンピラどもとは比べ物にならないくらい強い。


 バートはリノードの顔をちらりと見た。

 彼は鼻血を何でもないように拭い、むしろ気遣うような笑みを浮かべていた。怒っている様子など全くなかった。


(でも、どうせ後で自分が男に戻るのに、それはどう説明するんですか……?)

 ― 呪いにかかってるって言えばいい。んで、その呪いを解くには、あいつらに奪われた剣が必要なんだって言っときな。


(そんなこと言って大丈夫ですか?)

 正直、自分の今の姿を考えると、呪いと言っても差し支えないレベルだが、当の〈神〉がそれを呪い扱いしてくるとは、なんとも言えない気分だった。


 ― 細かいこと気にするな。祝福も呪いも、結局は紙一重ってやつでしょ?

 ビチェトレスはくすくすと悪戯っぽく笑った。


(……あなたの言う通り、いい人だとしても、自分の復讐に利用するみたいで、ちょっと……)

 ― はぁ、あんなにひどい目に遭っておいて、まだ他人のことを気にするなんて。ほんっと、お人好しだねぇ。

 でも大丈夫、この男に助けられるだけでなく、お前も彼にとって助けになる。もらうばかりじゃなくて、与えるものもちゃんと出てくるから、そんなこと気にしないでいいって。

 さ、我が言った通りに説明してみな……。


 ビチェトレスは、リノードにどう説明すべきかをバートに伝えた。


「それを決める前に、一つだけ……僕について知ってほしいことがある」

 バートはビチェトレスの指示どおり、自分がある呪いのせいで男性の姿と女性の姿を行き来していることを明かした。そして、その呪いを解くために必要な聖なる遺物を卑劣な者たちに奪われたこと、さらに最終的にはその聖遺物を使って恐るべき怪物を倒さなければ、呪いは終わらないのだと語り終えた。


 正直、これだけの話を聞けば、普通は引き下がるものだ。初対面の相手の、そんな重すぎる事情に巻き込まれたいと思う人など、そうそういるはずがない。


 だが、真剣な表情で話を聞き終えたリノードは、その澄んだ瞳でバートをまっすぐに見つめながら言った。


「その呪い、絶対に解く。俺、ビチェを救う」

(えっ? やるって? いや、なんで? これ……感謝すべきなのか?)


 バートがどう反応していいかわからず、ただぽかんと見つめている間に、彼らはあっさりと話をまとめてしまい、バートを仲間として迎え入れていた。


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