1. 裏切り
「役立たずのくせにパーティーに入れてやったら、今度は盗みかよ? ゴミ野郎が。さっさと失せろ!」
戦士のヘンダーソンがバートの胸ぐらを掴んで、地面に叩きつけた。その剣幕に圧倒され、地面に尻餅をついたバートは、ただ呆然とするしかなかった。
「誤解だよ。盗みなんて……そんなこと、僕がするはずないじゃないか!」
すると、モーリンが冷ややかな表情で口を開いた。
「私の護符があんたの荷物から出てきたのに、それでも白々しいこと言えるんだ?」
あまりにも無茶なことで、思わず笑ってしまった。そもそも、そんなことあるはずがない。あり得ない。
「冗談だろ? こんな悪い冗談、全然面白くないからやめてよ」
馬鹿げた悪戯にしても、度が過ぎる。少し苛立ちを感じながら、立ち上がったそのとき―バートの前に、自分のバッグがドサッと落ちてきた。斥候のマイヤーズが放り投げたのだ。
「これ持って、さっさと消え失せろ!」
回復術士のトレッドまでもが、軽蔑の眼差しで吐き捨てるように言った。
「これで終わりだ。二度と俺たちの前に顔を出すな」
4人は冷たい風のように踵を返して、去っていった。
その時ようやく、バートは、これは冗談などではなく、本当に起きている現実だと理解した。
でも、なぜ? どうして突然こんなことになっているのか、まったく心当たりがない。理由はわからないが、ただひとつ言えることは―こんなのは間違っているということだ。
バートはヘンダーソンの元に駆け寄り、その腕を掴んだ。
「……いいよ、わけはわからないけど、その剣は僕のだろ? 返せよ!」
ヘンダーソンは荒々しくバートの手を振り払った。
「は? この剣が、お前のだと?何寝言、言ってんだ。ダンジョンで手に入れた宝が、どうしてお前の物になるんだ?」
「見つけたのは僕だ! 君たちがガラクタだと、捨てろって言ったのを、僕が持ってきたんだ。それなら僕の物じゃないか!」
ヘンダーソンが鼻で笑った。
「何言ってんだ? 見つけたのは俺たちで、当然俺たちのものだ。せいぜい荷物持ちのお前が何様のつもりで権利を主張してんの?」
その言葉に怒りが頂点に達したバートは、堪えきれずにヘンダーソンに飛びかかった。
だが元より、バートはヘンダーソンの敵ではなかった。弄ぶように打ちのめした後、地面に転がったバートの体を押さえつけ、ヘンダーソンは吐き捨てるように言った。
「この俺に喧嘩売るつもりか? お前みたいな役立たずのゴミを、金級の俺たちが拾ってやったことに感謝するところか、権利だと?」
そして、短剣を取り出し、バートの足に思い切り突き立てた。
「うああああっ!」
悲鳴を上げて転げ回るバートに、ヘンダーソンが冷たく告げた。
「これは最後の警告だ。次にちょっかい出してきたら、その時は首を飛ばすからな。分をわきまえて、どこへでも消え失せろ」
4人は、バートを置き去りにし、その場を去っていった。
モーリンの笑い声が聞こえてくる。
「ウケる。私たちについていたら、自分も金級だとでも思ったのかしら? あの剣が自分の物だって? まともに扱うこともできないくせに」
マイヤーズも、鼻で笑った。
「〈権利〉だと? 笑わせんな……ありがたく差し出すのが筋だろうが」
気持ちとしては、今すぐにでも立ち上がって、やつらを追いかけて問いただしたい。だが、どうなるかは、目に見えている。下手をすれば、本当に殺される。
バートは地面に仰向けに倒れ込み、絶望に沈んだ。
涙が止まらなかった。どうしてあいつらがこんなことをするのか、今になってようやく気づいた。
やつらの狙いは、あの剣だったのだ。それすら知らずに、彼らを「仲間」だなんて信じていた自分の愚かさが、惨めで情けなくてたまらない。
ダンジョンで拾ったあの物は、最初に見た時は、ただのボロ切れの塊にしか見えなかった。仲間が宝探しに躍起になっている間、バートは端に放置されていたゴミの山から、二つの物体を掘り出した。
一本の棒のような長いものと、球のような小さな塊だった。
ヘンダーソンのような戦闘力もなく、モーリンやトレッドのように魔法も回復術も使えないバートには、しかし〈鑑定眼」があった。宝石や遺物の価値を見抜くことに長けており、さらには修復技術をも持っていて、武具や道具を器用に修理することができた。
戦士としては銅級でありながら、金級のパーティーの彼らに同行を許されたのは、バートのそうした能力が評価されたからだ。
その時の二つの物体も、彼には〈何かありそうだ〉と感じられた。
長年の汚れや錆びで真っ黒になり、正体もわからないそれらを見て、仲間は「そんなゴミ持ってどうすんだ」と呆れていたが、バートはそれをこっそり自分の荷物にしまった。
そしてまず、長い方の物体から手をつけた。錆び取り用の薬剤に数日間漬け込み、何度も洗浄を繰り返し、キリやノミ、ハンマーなどの道具を使って、こびりついた汚れを丁寧に削ぎ落とした。
やがて姿を現したのは―小さな剣の模型のようなものだった。だが、それはただの模型ではなかった。手に取った瞬間、それは一気に巨大化し、実際に使える剣となったのだ。しかも、一般の剣ではない。銀白色の剣身に、目を見張るほどの切れ味を持つ、魔法の武器だった。
バートはこの驚きの発見に大喜びし、仲間にその事実を伝えた。その力を試してみようと、全員で〈混沌の地〉へと魔獣狩りに出かけた。……そして、それがこの結末だったのだ。




