第31話 生え替わる牙
帝国城下の地下用水路。
人の気配のない暗がりの中、足音が響く。
暗闇の迷路を足早に進むクレアは古びた木戸の前で立ち止まる。
扉を開けてさらに中へ入ると石壁の窪みに仕掛けがあり、そこには隠し扉が隠れていた。
それらを作動させて中へ入ったクレアを大勢の獣人達が歓迎した。
「お待ちしておりました。ドラキュラ様」
その筆頭は今回クレアを助けるために奔走し、オーツを始末した首謀者のシャルロットであった。
口調こそ上司を敬うようなものだったが、そこにはからかいの色が混じっていた。
「まさかこの歳で幹部になるとは……」
今回の一件により、叛逆の牙にはオーツが抜けた分の穴が開いていた。
そこに据えられることになったのは、現状最も重要人物に近い立場にいるクレアだったのだ。
組織の幹部。それも潜入部門の長など自分に務まるのか。
そんな不安を抱えていると、奥の方にいた人物に声をかけられる。
「先日は災難だったな、ドラキュラ」
その男は叛逆の牙のトップにいる人物だった。
ガウェル・モルド。現在、帝国軍部に獣人のまま潜入している人物である。
「まさか、フィデリアがあそこまで愚かだとは思わなんだ。どうやら教育が足りていなかったようだ」
「っ!」
教育という言葉に、クレアの方が一瞬震える。
それは幼少期のトラウマを呼び起こす単語だった。
なによりも、それを施してきた張本人が言うものだから、クレアにとってはたまったものではない。
「ドラキュラ。貴様は現状この場にいる誰よりも重要な立場にいると言っても過言ではない」
「心得ております」
「ならば、いい。これからも己が使命と我らが憎悪を忘れるな」
「御意」
クレアの従順な態度に満足げに頷くと、ガウェルは告げる。
「さて、ドラキュラが新しく幹部となったが、我らが成すべきことは変わらん」
ガウェルの言葉に、その場にいる叛逆の牙のメンバーが鋭く目を細める。
その奥に宿る色は憎悪と狂気。この帝国に住まう全ての人間に対する憎悪だった。
「忌まわしき皇族の血を捻じ伏せた我らが獣王様を再び玉座へ戻し、愚かな人間共を支配する。それこそが我らが宿願である」
ガウェルが厳かな口調で宣言すると、叛逆の牙のメンバーはそれに深く頷いた。
「者共、牙を研げ……今こそ、我ら獣人の時代の幕開けだ!」
そう言うとガウェルは手に持っていた剣を掲げる。
すると、部屋の中で待機していた構成員達も一斉に剣を天に掲げた。
そんな同胞にクレアは、最近出会った剣士の少年の言葉を真似て内心嘆息する。
「はぁ……」
主語がデカいんだよ、バカ共が、と。




