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第21話 犯行動機

 軍部の廊下を歩きながら、ソルドは質問を投げかける。


「ロアナ。碌に話を聞かずに切り上げたってことは、そういうことなのか?」

「うむ、さすがソルド氏。察しがいいでござるな。オーツ氏からあの黒い毛と同じ匂いがしたのでござる」


 それにロアナはどこか誇らしげな顔で頷く。

 彼女の尻尾も感情に呼応するように元気良く振られていた。

 ソルドは眉をひそめ、じっとロアナを見つめる。

 その視線に気付き、ロアナが不思議そうに首を傾げた。


「どうしたのでござるか?」

「いや、よくない推測が当たっちまったと思ってな」


 ソルドはバツが悪そうに、後頭部をかいた。

 その態度を見て、ロアナはますます怪訝な表情を見せる。


「情報は共有してほしいでござる」

「まあ、そうだよな……これは現時点の推測に過ぎないってことを頭に入れておいてくれ」


 そう前置きし、ロアナが頷くのを確認すると、ソルドは話し始める。


「事件現場に落ちていた黒い毛と同じ匂いがオーツからした。つまり、あの毛はオーツのものだ」

「そう考えるのが自然でござるな」


 その言葉に、ロアナは納得したように相槌を打つ。


「となると、だ。諜報部に獣人を手引きした人間が潜り込んでいたんじゃない。普段獣人であることを隠していた奴が潜り込んでいたんだ。あの見た目だ。大方、尻尾の毛をハズナー司令官にでも掴まれたんだろ」


 そこで言葉を区切ると、ソルドは辿り着いた答えを口にした。


「つまり、オーツこそが帝国に潜り込んでる獣人のスパイだったってことになる」


 帝国の官僚で獣人なのはレグルス大公だけ。彼が獣人の王族という特殊な立場だったからだ。

 それ以外で官僚に獣人がいるとしたら、身分を隠していると見て間違いない。


「殺人の動機も予想しやすい。何せ相手は帝国軍部の諜報司令官だ」

「スパイであることがバレたから殺した?」

「そう考えるのが妥当だ」


 ソルドは静かな口調で肯定する。


「しかし、クレア氏を殺人犯に仕立て上げて父上を嵌めようとした理由に説明がつかないでござる」


 ロアナは納得いかない様子でソルドの意見に異を唱える。


「獣人側のスパイだとしたら、父上の不利益になるような真似はしないはずでござる」


 伝説の雄獅子の獣人として生まれ、先祖返りを起こしたことで皇族の血を捻じ伏せた。

 獣人達が揃って希望の光と崇め奉る。それがレグルス大公なのだ。


「いや、そうとは限らない」


 獣人、それもレグルス大公の娘であるロアナに言うべきはしばし逡巡すると、ソルドは躊躇いがちに口を開いた。


「……おっちゃんが失脚することが目的なのかもしれないな」

「えっ」

「帝国に従順に従ってるのが満足できない。偉大なる王は自分達の旗印となってほしい。おっちゃんが〝メイドの不祥事で失脚させられた〟ことに不満を持ってくれれば御の字と過激派が考えてもおかしくないだろ」


 ソルドの推論にロアナは言葉を失った。

 彼女とて獣人。それも王家の血を継ぐ姫なのだ。


 同胞が父を復讐の道へと堕とそうとしていることなど、断じて受け入れられるわけもなかった。


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