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第52話 日蝕の魔王と日輪の聖剣

 日蝕の魔王。それはゾディアス帝国の闇そのもの。

 彼の本当の名はガレオス・ソル・レグルス。

 獣人にして皇族の血を引く者。

 獣人の王たる資質を持つ雄獅子の獣人として生まれた彼は高潔で慈悲深い心を持った人物だった。


 しかし、度重なる人間の理不尽な仕打ちにより苦しむ獣人達の姿を見て彼は絶望した。

 蝕みの宝珠を手に入れたガレオス様は肉体を変質させ、日蝕の魔王となる。

 獣人達を救うために奔走していたかつての高潔な姿はそこにはなく、ただ憎しみのままに全てを平等に支配下に置こうとする魔王の姿がそこにはあった。

 かつて俺は彼に救われた。だから今度は俺が彼を救わなければならない。


「ガレオス様、私は……」


 今の彼は既に獣人だったときの記憶も曖昧となり、力だけが増大している状態だ。きっと人間と獣人が手を取り合う未来を夢見ていた頃の記憶はもうない。

 魔王となった彼に内包されているのは憎しみに満ち溢れた魔力だけだ。

 これから我が国が相対するのは最早、かつての彼ではない――日蝕の魔王なのだ。


「ソルド。本当に良いのですね。蝕みの宝珠を完全に取り込めばもう人間には戻れないのですよ?」

「覚悟はできております」


 各地の遺跡を巡ってやっと手に入れたもう一つの蝕みの宝珠。我が主は悲し気な瞳でそれを私に差し出してくれた。

 既に魔王となったガレオス様の力は身を持って知っている。アレと戦うには新たな力が必要だ。

 この宝珠の力を使えばもう戻ることはできないだろう。


 それでも、国を、恩人を、主を救いたい。その気持ちを貫き通すことにした。

 覚悟はできた。

 大切なものを救うために、私は人間であることを捨てるのだ。


「ガレオス様を倒せるのは聖剣と化したこの身を使いこなせる者のみ。希望は未来に託すしかないのです」


 これが人間として思考できる最後になるかもしれないが、彼女への忠義だけは変わらない。


「ルミナ様、私はあなたの剣となれて幸せでした」

「っ! 忠臣、誠に大義でした。どうかこの国をお願いいたします」

「御意!」


 ルミナ様から受け取った蝕みの宝珠を胸に押し当てて体内へと取り込む。剣に変化する能力を得たときとは比にならない力が流れ込んでくる。

 薄れ行く意識の中、俺は願わずにはいられなかった。

 どうか、未来に現れる俺の使い手がルミナ様とその子孫を守ってくれるように。


 ※ルミナの聖剣~Sword Galantyne~――エリーン森林奥地、聖剣ガラティーンの台座で閲覧可能なムービー〝聖剣ガラティーンの記憶〟より抜粋


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