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第50話 ヴァルゴ大公の真実

 静まり返った夜の城内で二つの人影が足音を殺して歩いていた。

 一つはソルド、もう一つはルミナである。

 ルミナは皇女の正装に身を包み、ソルドは鎧と兜を身につけて腰には小さめの片手用直剣を携えている。

 二人が正装をしているのは、偏に獣人街に皇女とその騎士がいるという事実を知らしめるためだった。

 城を抜け出すまでは隠密行動が必須だが、その後はむしろ大々的に獣人街にいることをアピールしなければいけない。


「ルミナ、この道で合ってるのか? 地下用水路への入り口は反対方向だったと思うんだが」

「抜け道をいくつか経由すればこちらの方が近道なのです。安心してください。脱出路は全て頭に叩き込んであるので!」

「デカイ声出すなバカ」


 自信満々に胸を張るルミナに、慌ててソルドが注意する。

 ルミナは皇女として城内の脱出路は全て把握している。もっとも、それが日頃の脱走癖に繋がっているので、褒められたことではないのだが。

 いくつかの隠し通路を抜けて地下用水路の入り口に辿り着くと、そこにはある人物が立っていた。


「こんな時間にどこへ行かれるのかな」

「ヴァルゴ大公……!」


 月明かりに照らされヴァルゴ大公がニヤリと笑みを浮かべる。彼はルミナ達が獣人街に向かうと予想して待ち伏せをしていたのだ。


「いい加減大人しくしてはくださらぬか。政は子供のお遊びではないのですぞ」

「お遊びではないと理解しているから大人しくできないのです」


 ルミナは毅然とした態度で言い返す。その言葉に迷いはなく、一切引くつもりはなかった。

 ルミナの答えを聞くと、ヴァルゴ大公は深い溜め息をつく。


「帝国の未来のためにも獣人街は焼き払うべきです」

「どうしてそこまでしなければいけないのですか!」


 ルミナは悲痛な面持ちで訴える。しかし、それはヴァルゴ大公の考えを変えるには至らなかった。


「奴らは帝国へ反旗を翻した大罪人。見せしめに焼き払うだけです」

「そんなことをすれば、あなたもタダでは済みませんよ」

「ほう?」


 ルミナの言葉に、ヴァルゴ大公は興味深そうに眉を上げる。


「邦主であるわたくしの不在をいいことに理由をこじつけての焼き討ち。こんな勝手をお父様が許すはずがありません。今回のことはあなたの独断で、官僚達は体よく乗せられただけなのではないですか」

「……見ない間に立派になられたものですなぁ」


 どこか感慨深そうに言うと、ヴァルゴ大公は目を細めた。


「残念ながら、この老いぼれがどうなろうと問題はありませぬ」


 ヴァルゴ大公の鋭い眼光がルミナを射抜く。その迫力に気圧されることなく、ルミナは真っ直ぐに彼を睨み返した。

 しばしの沈黙の後、後ろで控えていたソルドが口を開く。


「ルミナ皇女殿下、発言の許可をいただけますか」

「許します」


 ルミナは許可を出すと、ソルドは一歩前に進み出て告げる。


「ヴァルゴ大公、あなたは官僚の死因が呪殺ではないと知っているのではありませんか」

「っ!」


 ソルドの発言にヴァルゴ大公は大きく目を見開く。それは長年宰相努めてきた彼が初めて見せる動揺だった。


「城内で調査を進めてわかったことがございます。獣人達は呪殺など行ってはいない。ただ彼女達を媒介にした感染症が原因で官僚達はなくなった。そのことをあなた自身が理解していたのではありませんか」

「何をバカな……」


 否定しようとするが、ヴァルゴ大公は明らかに狼惑う様子を見せている。ソルドの指摘が図星であることは明白だった。


「獣人街にマリンという狐の獣人の少女がいます。獣人としての血は母より薄く、おそらくは人間との間に出来た子でしょう」

「その娘がなんだと言うのさね」

「マリンはあなたのお孫さんなのではありませんか?」

「えっ!?」


 ソルドの言葉に、黙って成り行きを見守っていたルミナは驚きの声を上げる。


「ヴァルゴ大公は数年前に息子を病気で亡くしている。その人とコクリさんの間に出来た子がマリンなんだ」

「まさか、マリンが蝕みの宝珠でバケモノに変貌しなかったのは……」

「ヴァルゴ大公の孫、つまり皇族の血を引いていたからだろうな」


 レグルス大公やヴァルゴ大公ほどの貴族になると、それなりに色濃く皇族の血を引いている。皇族の血を引いているということは、日蝕の魔女エクリプスの血を引いているということ。

 獣人と魔女の血が混ざりあった結果、マリンは獣人の身でありながらもバケモノへと変貌することはなかったのだ。


「蝕みの宝珠が何かはわからぬが……どうやら全てお見通しのようだ」


 観念したように大きく息を吐くと、ヴァルゴ大公はゆっくりと語り出した。



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