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「はぁ、はあ、は、っ、あれれ、っ、お兄さん!ボク、お菓子もってない、のに入れてくれるんだあ!!」


息もきれぎれに、扉を叩くと二秒もしないうちに扉が開いた。


「………………服を着ろ変態」

「変態じゃないよ!!!!」


彼は扉を開け、そのまま閉じることなく奥に入っていった。


お邪魔しますと言って中に入ると、こぽこぽと謎の液体が奥の机の上で硝子瓶の中で沸き立っており、少しツンとした香りが鼻の奥をさした。

それと同時に、躊躇いがうまれた。


スタスタと奥の方へ行ってしまった彼は、当たり前の話だが、ここで生活をしているんだ。

ボクが今から彼にする話は、酷く身勝手なモノなんだろう。

一気に後悔が押し寄せてくる。

こうなる可能性もわかっていたはずなのに、その時ボクがどう思うかなんてわかんなかった。

なにを彼に言うかなんて考えてなかった。


「………着て」


ぼふっと頭になにかを掛けられた。

下を向いていて目の前に立たれてたことすら気づかなかったわ。


掛けられたそれを取ると、黒いローブだった。



「………ありがとう、お兄さん」

「………………」


ローブを羽織り、お兄さんと向かいなおった。


「ボクいま、兵士に追われててさ、」

「知っている。この森全体に魔力を薄く張っているから、どこで何が起こっているのかわかる。君が来た方向から12名ほどのツァヴァ―トの兵士がやってきている」


おぉ、今日は饒舌だな。

ボクの目線をウザったく思ったのか、言い終わった後に彼は顔を逸らした。


「…………ごめんね。お願いだよ。5分だけ話を聞いてくれ」

「………………」


「五分経ったら必ず僕は出て行く」


肺の奥まで空気を吸い込み、頬を叩いて彼の眼を見た。


「3年だ」


三本の指を彼に向ける。

お兄さんは無表情のままボクの指とボクを見比べた。


「3年で僕はこの国で高い地位をもつ権力者になる」

「………………」


「ボクを産んだ女はね、スラム出身の平民から一国の王の妃にまでなったんだよ。まぁ、正式に血が調べられるまでは公妾で、妃になったのは10年くらい前だけど」


脳裏に嫌でも美しいあの女の姿が浮かんだ。


「なーにが言いたいのかって言うと、あの女がそれができたのなら、ボクができないはずがないんだよ。

元次期王妃候補から、この国で高い地位をもつ……………むしろあのオカアサマよりもずっとイージーモードじゃないか。で、君に一つ頼みごとがある」


「3年間、ボクを守ってくれないか?」

「この国で権力を握った後、ボクはお兄さんの望みを叶えよう。なんでもだ」


怖い。

表情が変わらない彼が今、ボクになにを思っているのか、想像ができない。

この程度で怖いと感じてしまうなんて、あの女に笑われても言い返せない。


「お兄さんが魔法やら魔術やら極めたいことがあるのなら、ボクは3年後、君の望みを叶えると誓うよ。つかなんなら、ボクがオーフェンから逃げる3年間も君がやりたいことがあるなら、最低限僕の身を守ってくれるなら、ボクは手助けするし」


あーぁ、あーあ!得意なはずの交渉が、この人の前だとどんどん安っぽいものになっていく。

他国のお偉いさんと話す時ボク、どうやってた?わかんないよもう。


沈黙に、自分の心臓の音がうるさく聞こえた。


「………………もう五分経ったかな。話を聞いてくれてありがとうお兄さん」


終わった。

終わってしまった。


近づいてくる兵たちに、お兄さんと接触させるわけにはいかない。

大人しく立ち去ろうと、彼に背を向けた。


「……どうして、俺にそこまで護衛をしてほしいの」


弾けるように振りかえった。

見たことのない顔をしていた、難しそうな、訳が分からないといった。


「それは、」


「……………ボクが君を信用してるからだよ」



目の前の女は、その金色の眼で俺をじっと見つめながら言った。


信じられない、そんな簡単に他人を信用するのか。元王妃候補なんて者が。

そんな簡単に信用して、いいものか。


「ボクは、誰かに命を救ってもらったのも、ここまで素で話すのも、お兄さんが最初だ」

「ボクは結構、狭い世界で生きてきたんだよ」

「お兄さんはボクの人生で、今、最も信用できる人なんだ」


なぜだろう、もう求められることにはうんざりしていたはずなのに。

彼女の、金色の瞳が、じわりと心臓を焼いたような気がした。



やべえ。


今僕の脳内はこの三文字が占めている。


五分間だけの説得と自分でも決めていたのに、まだ自分が助かる道にしがみつこうなんて、我ながらなんて傲慢。

そろそろホントに兵が来てもおかしくない。オーフェンと違ってツァヴァ―トの兵は優秀だ。

それこそどうして自分が逃げ切れたのか分からないくらいに。


「心配しなくても、この家は誰も見つけることができない」

「………………は?」


なんつったこの人。


「認識阻害と、存在の透明化の魔術をかけているから」

「えっ???」

「平たく言うと、ここは見つけられないし触れられない」

「えっっっ?????」


どゆこと???

えっ、ボクは見つけられたけど??確かに三週間ほど毎日森を探してるのに見つかんねーなとか思っていたけど。ある日突然出現したようにも思えたけど。


「……君は毎日この森に来て、あちこちを動き回っていて、少しうっとうしくなったから、この家の魔術を少しいじって、君の眼薬の魔術と波長が合うように…………君がこの家を見れるようにした。まさか毎日家の扉を長時間叩かれることになるとは思ってもなかったけれど」


なんつーことだよ畜生。

開いた口が塞がらない。この状況で何を口にすればいいのか分からなかった。


「君の提案を呑もう」

「……えっ、うそっ、………え、あ、ありがとう!」


この人なんて言った?提案を呑む?本気で言ってんの?どういう思考回路してんの?

感謝と困惑と動揺とやらで、自分でも今の気持ちに名前が付けられない。


「取り敢えず、どこへ行くのか決めてくれ。魔術を展開するから」

「えっえっ、どゆ………………」


どゆこと、と言おうとして、そんなこと言ってる場合じゃないだろと冷静に考え直した。


「えっと、まず兵から逃げる、兵がボクをみつけれないとこに……」

「わかった」


わかった、の『た』を彼が言い終わったかどうか分からないくらいに、手首を強く掴まれ、足元から竜巻のような旋風が起こった。


天井が崩壊した。文字通り、粉々に崩壊した。


そして崩壊した天井を見上げた瞬間、その『天井だったもの』は、はるか足下になった。

なに言ってんのかって?ほんとだよ。どうなってんだよ。


上空、つまり雲の上で、お兄さんに手首を掴まれて宙ぶらりんの状態でボクは叫んだ。


「おっ、落ちるううううう!!!コワイ!!こんな高さから落ちたら死んじゃう!!」

「落ちない。俺が手を離さない限りは」

「やめてよ離さないでね??ほんとのほんとに絶対に離さないでよ???」

「ハハッ」

「なに笑ってんだこのヤロー」


生まれて初めて感じる類の恐怖でメンタルは当然ブレイクしているが、どこから湧いてくるのか分からない興奮に後押しされ、彼の顔を見上げた。


とめどなく物凄い風が吹きつけ、髪が四方八方に揺れた。

彼も顔の半分がその白雪の髪で見えなかった。が、口角が少し上がっているように見えた。


「この国は、上空に国家魔術師団が魔術を張っている」

「それは……」

「俺と君が空の上で今こうして話しているのが、ツァヴァ―トの魔術師団にバレている」

「ヤバいじゃん!!!」


うっそ、逃げようとした瞬間から場所がバレてるってどういうことだよ?!オイ!!

つかそれ分かっててなんで空にぶっ飛んだんだよ!!


「早くどうするか決めた方がいい」

「わかってるわ!!!」


なんやコイツ!!


「それと」


もう片方の手も掴まれ、肩の上に体を乗せさせられた。

俵抱き、という状態である。


「俺の名はシトラ・エーオンだ。………好きに呼ぶといい」


そう言った彼の顔は見えなかった。


こんな、ふざけた状態でボクは初めて彼の名を知った。

長い付き合いになるのだから、きちんとした状況で知りたかったと後にボクは思うことになる。


ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、二人は世間知らずと魔術バカなので、しばらくツッコミ不在で物語が進みます。ご了承ください。


しかたねぇな、読んでやるよという神様は、ぜひブックマークや下の☆を押していただけると、作者が引くほど喜びます。

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