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やぁ!ボクは傾国系美少女のオゥロちゃん!!
「ハイ!!三番の帳簿つけ終わりました!!」
「じゃあリーンちゃんは五番受付の方回って!!」
国外追放された、元次期王妃の女の子!!歳は17!!
「お客様、本日はどういったご用件でしょうか」
「あー、ギルドカードの更新がしてぇーんだけど…ねーちゃん新入り?可愛いじゃん」
「畏まりました。こちらの整理券をお持ちになって、四番カウンターにどうぞ」
そんな箱入りお嬢様だったボクは今!!
「次の方!どうぞ!」
ギルドで受付嬢をしています!!
なんで?????
・
「いやー、リーンちゃんホントにバイト初めて??」
「ええ、私のような素性の知れない者を雇ってくださったギルド長には感謝しています」
そこそこ値の張りそうなソファーに座って、向かいに座る眼鏡の好々爺に微笑んだ。
「まぁ、うちはさぁ、いろんなやつがね、いるからさ、面接でもプライベートなコトは聞かないようにしてんだけどね。リーンちゃんは正直、有能すぎるというか」
「まぁ、うふふ。お褒め頂き光栄ですわ」
「その、……いいとこのお嬢様だったりしない?ワシもできる限りかくまうけれど、その、お家の人が心配してるかもよ?」
「うふふふ」
この爺さん、大方、ボクが実家を逃げ出してきた令嬢だとでも思ってるんだろう。
花の蕾が綻ぶような、万人に好かれそうな笑顔を貼りつけ、爺さんのなかなかに鋭い質問をかわしていく。おほほほほ。
「―――失礼、定時ですので帰らせていただきますわ。また明日。御機嫌よう」
「あっ、」
時計の針が6に重なった瞬間、立ち上がって素早くお辞儀し扉から逃げた。
はぁ、最近しつこくなってきたなぁ。いい人っていうのは分かるんだけど。
さてと、今日も行きますか。
どうしてこんなことになってるのかというと、時は一か月前に遡る。
・
「お兄さん!!また来るね!!」
「来るな」
一世一代の告白(語弊あり)をあっさり断られた後、実はお兄さんとそんなに気まずくなることは無く、ありがたいことに彼が方位磁石をくれたのでその場で解散になった。
言われた通りにがむしゃらに北へ進むと元来た町があった。
その後町の宿屋に行って、適当に部屋を借りた後、その日はなんでか異常な行動力があり、ギルドの求人を見て即応募した。かなり倍率が高いと聞いたのだが、その翌日の面接であっさり受かってしまったのには拍子抜けした。
なぜわざわざ働くことにしたのかというと、情報を集めるためだ。
見知らぬ土地である、コミュニティーがない。いつボクを連れ戻すためにこの地に兵がやって来るか分からない。ボクが有能すぎて人と対面する仕事も任せられたのはうっかりミスだったが、髪の毛は肩に触れるくらいの長さに切って、お兄さんが作ってくれた目薬をしているのでなかなかバレることは無いだろう。
で。
なんでボクが後にやって来るだろう追っ手からさっさと逃げないのかって?
金に困っているからではない。貴金属を鑑定してもらったところ、指輪一つで600万クレフはするそうだ。そんな大金持ってても困るので換金はしてないけどね。
きちんとした理由があるのだ。
・
「おにっさーん!!きーたーよー!!あーけーてー!!」
きちんとした理由。それは勧誘。
ガチャリと重い錠が開く音の後、ゆっくりと扉は開いた。
またか。とでも言いたげな顔でボクを見る彼。
「やぁ、ボクだよ☆勧誘に来たよ」
「断る」
バタン。
コイツ、秒で扉閉めやがった。
すぐさま全力でドアを連続で叩く。
「ねえええ!!お願いだって!!せめて話を聞いてよ!!!もう通い始めてから11日目だぞ!!」
「………………」
「このボクを門前払いするとかほんっっといい度胸だな!!今日はね、ギルドの受付に置いてあったお茶菓子持ってきたんだ!!ねえ一緒に食べよぉよお!!!!」
「………………」
「もう一度話を聞いたうえで断ってよー!!ボクはお兄さんが話を聞くまで通ってやるからな!!」
「……………入れ」
えっ?!
口を両手で押さえる。あぁ、涙がでそう。勿論感動で。
やっと入れてくれた!!今までこんな粘着営業したことなかったから結構ボク自身も不安だったの。
あれ、でも違和感。
扉を開けたお兄さんはボクが腕に掛けているギルドのお菓子を見つめている。
………………まさかコイツ、お菓子で落ちた?!
うっっそ、こんな?!カステラ一つで?!
確かにお菓子を見るお兄さんの眼はどことなくキラキラしているような。ワァ、すごく複雑。ボク、カステラに負けたの………?
「………はぁ、お兄さん、お菓子に合うお茶あります?」
「………………」
お兄さんは無言で、指先にポンと音を立てて茶葉らしきものを出現させた。
・
結局今日も駄目だったか。
でも収穫は二つあった。
ボクが提示した、お兄さんがボクを守るメリットに、彼は少し興味を示した、ような気がする。
終始お菓子を食べていただけのような気もするが、うん、前向きに考えよう!
明日もまた来よう。………………お菓子を買ってきて。
ボクは考えなしじゃないんだ。
今後、大して運動神経も良くない、魔法も使えないボクがオーフェン王家から逃げるには、ボクにはボクを守ってくれる人が必要なのだ。きっとそれなりに長い付き合いになるだろう。
どうせならボクは、どんな考えだったにしろボクの命を一度救ってくれたあの人がいい。
彼は今まで拒否しているものの、心の底からの拒絶ではないようだった。
ボクは世間知らずという自覚は多少あるが、鈍感娘ではない。本当に嫌がっているなら、それはわかる。
ねぇ、どうして断るのさ。理由教えて欲しい。
空を見るともう月が出ていた。
・
宿屋で一晩ぐっすり寝て、起きて職場に行くと、危惧していたそれは起こってしまった。
「オゥロ様、オーフェンに戻ってください」
あー、いきなりギルド長にVIPルームに呼ばれた時点で逃げるべきだったか。
ボクを囲み、槍先を向けるツァヴァ―トの兵士たち。
兵士たちの先には気まずそうに僕から目を逸らすギルド長。
あぁ、ボクとしたことが。そっちのルートか。
ボクが考えていたのはオーフェンからそのまんま兵が送られてくるパターンだ。あのアホ王子なら直で兵を送って来るかな、なんて思ってた。
このやり方は王子じゃないな。誰だ。
いくらツァヴァ―トに金積んだんだよ、ツァヴァ―トの上層部にボクを捕まえる命令を出させるなんて。
だからいくら待っても町の人からボクの話を聞かないわけだ。この国の上の人間から下に話が伝わってるんだもんな。
でもこれなら都合がいい。ボクの正体をここで知っているのは、この兵士たちとギルド長だけだろう。
わざわざVIPルームで、他の人間に見られないようにボクを捕まえたいのには何かわけがあるんだろうか。
そんなのは、今考えることじゃない。
「やだねぇ、ボクを国外追放したのはアイツらでしょ」
両手を上げると、一人の兵が槍を別の兵に持たせこちらに近づいてきた。
一か八か。ボクはその男の股間を全力で蹴り上げた。
すかさずスカートの中に隠しておいた唐辛子パウダーがパンパン入った袋の封を開け、全力でぶん回した。
一面に広がる唐辛子パウダー。
阿鼻叫喚に部屋は包まれた。
昨日、お兄さんに生まれて初めての土下座をして「唐辛子パウダーをかぶっても大丈夫な魔術とかありませんか」って頼んだんだよ。
お兄さんめんどくさそうに、棚を色々漁って、液体が入った小瓶をくれた。ありがとう。
にしても、あははっ、本当に運がいい!!
唐辛子パウダーで赤くなった服のまま、ギルドを裏口から抜け出した。
途中で人混みの中に入る為にワンピースを脱ぎ捨て、キャミソールと下着だけの姿で全力で走る。人の目なんて気にしてられない。
森に向かってとにかく走った。